表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
北風と太陽  作者: dear12
3/7

Diary3 決意

少年と少女は彼らのアパートの相向かいの家に向かっていた。


「いや、絶対に似てるって」


少年は言った。少女も笑顔で言った。


「親戚だよ~!多分」


「有り得なくもないかも」


少年は力強くインターホンを押した。


のんびりとしたチャイムが鳴り響いた。

 

やがて、1人の女性が姿を現した。


桃色の長い髪。


きりっと細長い目つきが印象的な女性だ。


その女性は彼らの所属する部活動の顧問でもあった。


「うーん。なーに?あなた達?不用意にウチに来ないでって言ってるでしょう?」


「やっぱり似てる」


少年と少女がハモった。


「はあ?」


「あ、松代先生。先生に似てる女の子が、今ウチに来ているんですけど、心当たりありませんか?」


少年が尋ねると、先生と呼ばれた女性は不敵な笑みを浮かべた。


「なーに?涼君ってそういう子だったの?」


「何考えてんですか」


少年は軽蔑の目で女性を見つめた。


「いやあ、今の話を聞いてたら、涼君が女の子を連れ込んだという内容にしか聞こえないから。ねえ、美梁ちゃん?」


女性は終始笑顔でいた少女に問いかけた。


「連れ込んだのは事実ですよ~」


「ええ?」


少年はあたふたし始めた。


「ち、違うでしょ!藤崎。僕はあの子を助けただけなんだから」


「でも正田君、あの子に夢中で美梁のこと全然構ってくれなかったもん。」


「誤解を招くようなこと言うなよ!」


その一連の会話を聞き込んでいた女性は、先程からにやけっぱなしだった。


「涼君。アンタって子は。美梁ちゃんを悲しませるなんて許せないわよ!」


「ほんとほんと。美梁も今度浮気しーよおっと」


「違いますってば、もう!あ!先生、あの子ですよ!ほら、窓からこっち見てる女の子!」


少年は大慌てで自室の窓に指を差した。


なるほど、確かに1人の少女がこちらをじっと見ているではないか。


しかも、目の前の女性とほとんど同じ容姿だ。


「え?百花ちゃん?」


女性は思わず息を飲んだ。


 少年と少女もその様子に思わず顔を見合わせた。


「え?先生、今何と?」


少年は尋ねた。


女性はしばし思案するような素振りを見せていたが、


「私の姪っ子の百花ちゃんだわ」


「えーーーーーーーーーー!」


少年と少女は奇妙な展開に思わず叫んだ。


「百花ちゃん!」


私が窓の外の様子を眺めていると、見知った声が玄関から飛び込んできた。


「え?千花おばさん?」


彼女は私の従姉にあたる人だ。


確か今年で二十七歳。


しかし、私と並べば良い姉妹になってしまうくらい若く見える人だ。


「おばさんじゃないわ。お姉さん」


千花の口元が緩んでいない笑顔に少々焦った。


「ごめん。何故ここに?」


「それはこっちのセリフよ! 何でまた私の生徒の部屋に?」


「え?あ」


私は返答に困った。言われてみれば、千花は高校教師をやっているとか聞いたことがある。


まさか彼らの教師だったとは!


思いも寄らない展開に私は困惑した。家出のことをばらすべきか。


「いや、諸事情により」


私は顔を背けて言った。


すると、物凄い剣幕で玄関に向かって怒鳴った。


「こらー!涼君!私はあなたをそんな生徒に育てた覚えはないぞ!」


と、玄関の扉がガタンと鳴った。


どうやらあの少年が転んだらしい。


見ると、少年と少女が覆いかぶさるようにして倒れているではないか。


「ちょっと先生。何勝手に勘違いしてるんですか!僕はその人が倒れていたから」


「倒れていたから持ち帰ってきちゃったっていうの?」


「そういうことです~」


少女が笑顔で会話に割って入った。


「藤崎は黙ってて!」


少年は両手で少女を制した。


少女は頬を膨らませた。


「だから!公園で行き倒れになってるところを助けただけですって!」


少年は強く力説した。


私としてはあまりうれしくないことだった。


これでは家出が両親にバレるのも時間の問題かもしれない。


「行き倒れ?」


千花が私を振り返る。


私は視線のやり場に困った。


「百花ちゃん。あなた、一体何してたの?」


ついに私の行動の核心に迫る質問がやってきた。


 どうしよう。


私の心臓はバクバク言っている。


これで家出のことをバラしたりしたら、どうなるのか。


家出のことをバラさなければ、確実に帰りなさい、と言われるだろう。


どうしよう。


「百花ちゃん?」


まずい。







「そういうことだったのね」


いつの間にか、少年の部屋のテーブルを4人で取り囲んでいた。


私は全てを洗いざらい話した。


今まで両親から受け続けたこと。


そして、それを理由に家を飛び出したこと。


そして、この町にたどり着き、公園で眠ってしまっていたところを2人に助けられたこと。


千花だけでなく、少年と少女も真剣に聞いてくれたのはうれしかった。


「じゃあ、家に帰りたくないって事ね?」


千花は、俯く私の顔を覗き込んで尋ねた。


私はおそるおそるうなずいた。


 うーん、と首を傾げる千花。


そんな千花をじっと見つめる少年と少女。


「でも学校はどうするの?」


「あっちの学校は行きたくない」


それも譲れなかった。


両親たちが大好きなタイプの学校だけには、もう二度と行きたくない。


「やっぱり環境を変えるべきなのかしら」


千花はちらりと教え子たちを振り返った。


「君たちは随分のびのびと毎日を生きているわよね」


「今日も新聞部の活動をしてましたよ~」


少女がにこりと微笑んだ。


「え、今は何をしているの?」

おいしいラーメン屋さんの調査です~。今週中にはランキングで発表しようと話し合ってるんです~」


少女が身振り手振りを交えて力説を始めた。


教師は呆れた顔で言った。


「まさに自由奔放の典型例ね」


そこで私に向き直って言った。


「まあ、私がどうこう言う問題ではないけど、こればっかりは私の独断で決められないわ。百花ちゃんはこれからどうしたいの?」


 彼らが羨ましかった。


自由奔放なのは勿論、何よりもあんなに楽しそうに日々を生活していることが。


私には永遠に縁のない生活を彼らは営んでいる。私もそんな高校生活を送りたい。


「普通の高校生になりたい」


何の束縛もない、自由な高校生活。


それが私の夢だった。


「普通の高校生っていうと?」


尋ねられて私はようやく顔を上げた。


「彼らのような」


私は少年と少女を見つめた。


ちょっと恥ずかしかった。


でも、いずれは言わなければならないこと。


私は意地もプライドも捨て、はっきりとそう告げた。


「それって、ウチの高校に編入したいってこと?」


言われてさらに恥ずかしさが増した。


いざとなると勇気がいるな。


でも、自分の本当の夢を告げる時ってこんな感覚なのかな。


ダメだ、と断られそうで、つい小心になってしまう。


「う、うん」


何とか言えた。


編入試験というのは正直初めてだが(当然かな?)、前の学校で蓄えた学力で何とか対応したいと思っている。


「編入か。でもそのことは伯父様たちに言っておくべきじゃない?」


「ダメっ!! そんなことしたら連れ戻されるから!」


私は思わずテーブルを叩いてしまった。


3人は少々ビクついた。


「自由が欲しい」


私は再び俯いた。


千花はすっかりだんまりとしてしまった。


どうやら、判断に迷っているらしい。


無理もない。


年頃の小娘の悩みほど難しいものはない。


やっぱり帰ろうかな。またあの家に。

 

そう思って私がすっと立ち上がった瞬間、まさに救いの手が差し伸べられた。


「ウチに来なよ」


少年が手を差し伸べたのだ。


と同時に、少女も立ち上がった、満面の笑みで。


「新入生は大歓迎します~!」


「え?」


私は返答に詰まった。


「勉強はできない、スポーツも弱い、でいいとこないけどそれで良ければ」


少年は苦笑した。


と、千花が笑顔で反論した。


「そう思ったらちゃんと勉強しなさいよ!」


「ええ?まあ、テストの前にはちゃんとやりますよ」


少年は視線をあさっての方向に向けながら言った。

 

ドッと笑いが起こる。


私はさりげなくお礼を述べた。


「ありがとう。えーとその」


そう言えば彼らの名前をイマイチよく把握していなかった。


「うん?ああ、自己紹介がまだ済んでなかったね。僕の名前は正田涼しょうだ りょう。で、この子が藤崎美梁ふじさき みはり。僕たちは星来学園の2年生だ」


「よろしく~!」


少女も笑顔で挨拶してくれた。


「私は松代百花まつしろ ももか。よろしく」


 私もつい頬が緩んでしまった。久しぶりに笑った気がした。


「ありがとう」


照れ隠しにまた心からのお礼を言った。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ