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北風と太陽  作者: dear12
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Diary1 家出

もう嫌だ……!


どうしてこうも家族というものは私の障害になりたがるのだろう。


進路にうるさく、何かあれば説教の父親。それを見てみぬフリする母親。それを面白そうに見る弟……。


高校生なら勉強しろ! 


公務員になれ! 


彼氏をつくるな!


ばっかみたい。いい加減にしてよね。私は、アナタたちのオモチャじゃない!


幼稚園の頃から、全てを忠実に受け入れてきた私だった。


両親の言うことを何でも聞いてきた。


心では受け入れていなかったのかもしれないけれど。小学生になっても変わらない。中学生では恋人づくりを破った。高校生では……。もう、耐えられない!!


ただし、今日という今日は、いや、今日からはそんな生活ともおさらばになる。


何故なら今日からは家に帰らないからである。


私は家出する。


お気に入りのギターと財布だけを持って。


そして、一抹の不安と一時かもしれない自由を感じて。


とりあえず、東京を出よう。


東京を出さえすれば、両親が探しに来ることもないに違いない。


新宿駅。


私は迷わず電車に乗り込んだ。





辿り着いたのは聞いたこともない駅だった。


私は、所持金のことも考慮に入れ、今日のところはここで降りることに決めた。


ゆっくりとホームに降り立つ。


周辺は漆黒の闇に包まれていた。


街灯がチラホラと夜の闇を追い立てるかのように、黄色の光を放っているだけだった。


ホームに降り立ったのは私と、会社帰りと思しき中年のサラリーマンの2人だけ。


なにやらとんでもない別世界に飛び込んできてしまったような感覚である。


帰れるのかな……?


一抹の不安がよぎった。


しかし、いやいや!! 


私はもう決めたんだ! 


あの家には帰らないって!

 

だから、私はこの町に来て正解だったんだ!


薄暗い改札を通り抜け、私は吸い込まれるかのように無人の駅構内をすり抜けていく。


右手には、私の乗った電車が走ってきたであろう線路が、窓を介してうっすらと闇夜の中から顔を出していた。


寂しい町だな……。


私は胸が突かれるような感覚に襲われた。


やがて、通路が途絶え、ようやく町の中に飛び出した。


町はひっそりとしていた。


目の前に広がるのは、闇夜に浮かぶ少々の小型ビルと住宅街。


何もない場所……。


真上に赤黒く光る月だけが、私を照らしている。


私の不安は一層強くなっていった。


これからどこかへ行こうと思っても、もう電車はなかった。


閉じ込められた。


仕方ないので、町の中を歩いてみた。


行けども行けども、ひっそりとした田園風景が目に飛び込んでくる。


と同時に、私の心が追い込まれていくような感覚に襲われた。


ドクンドクン……。


鼓動のうねりが耳を突く。


今日は最悪、野宿。





不快な朝の公園だった。


シャワーさえ使えないことから私の苛立ちは山積みの状態だった。


私だって一応女の子なのだから、そういうことにはよく気を遣う。


体と服はドロドロに気持ち悪くへばりつく。


最悪……。


私は寝そべっていたベンチからのそりと起き上がると、さらに田園風景の奥地へ向かって歩き始めた。


再び途方もない旅が始まる。


想像はしていたが、直視できないくらいの田園がビッシリと密集していた。


ただでさえ、今は猛暑。


30度を下回ることのない、地獄の日々が続いていた。

 

暑さが私の足を引っ張る。

 

大粒の汗が滲み出る。


服がいよいよ体に密着を始める。


私の嫌悪感も限界が来そうだ。


家に帰りたい……。


何でこんなことしているんだろう?


家には、小言のうるさい奴がいるだけで、私にはクーラーのある自室があるじゃない!

 

……いやいや。志が低いぞ!私。


少しは自分の手で道を切り開いていかなければ。


こういう状況を見事に脱して見せてこそ、その人間の真価を見い出せるのだ。

 

しかし、昨日は公園のベンチと言った、慣れない環境で過ごしたせいか、私の疲労は最高潮に達していた。


それに加えて、行けども行けども田園地帯の風景が精神的に私を追い込み、猛暑が私の体力を追い込んで行く。


両足の感覚は麻痺しつつあった。

 

と、小さな住宅街のような箇所に辿り着くと、右手に小さなオアシスが見えた。そこは、緑色の木々の木立が優美な公園だった。

 

助かった……。


私は安堵の溜息をこぼして公園内に飛び込んだ。

 

緑の木々から発せられる冷涼な空気が、私の火照った体を包み込んだ。


涼しい……。心地良い……。


全身が、心が洗われるような不思議な感覚。あまりの気持ちよさに、思わずベンチの上に横になってしまった。

 

これじゃあ、ただの浮浪者だな。

 

でも、気持ちが良い……。

 

そう思いながらも、私は無防備なままその場で寝入ってしまった。

 

そして、意識が徐々に遠のいていった。

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