弱い部分は穿つと決めたはずなのに
「ちょっと、泣くなよそれくらいで」
「いや……だって」
ホロホロと涙を流すゼノは、ゆっくりと私を見下ろすとハッとして「ごめん!」と座り込んだ。
「俺女の子になんて事……うわ、めっちゃ跡残ってる!!」
「そりゃ思いっきり力込めて喉潰そうとしてたんだから跡くらい残るだろ……今更なんで焦ってんだよ」
「いやそうだけど……今とさっきは違うと言うか……」
うーんと唸りながら、ゼノはゆっくりとフードを被せ直す。
そして簡単に僕を抱き上げると「送る」と呟いて歩き出そうとするのを必死になって止めた。
「待て待て待て!この格好で行く気!?
絶対変な誤解を生むから!!
喉はフードで隠れるし歩けるから下ろせって!」
「ダメだ、俺の気が済まない!!」
「知らんわそんなん!勝手に喧嘩売って来て勝手に治っただけだろ!?
良いから下ろせ、噛むぞ!!」
がぶっと二の腕にかぶりついたけれど、筋肉が邪魔をして血すら出ない。
「女の子に噛まれても痛くも痒くも無いな」
「女の子とか言わないでくれ!
これでも隠して生きてるんだから、そこは知らん振りをしろよ!」
「俺にとっては会った時からティトスは女の子だろう、格好とかそんなので変わるようなもんじゃない」
そう言うと、ゼノは再び歩き出した。
さっきの今でこんなに開き直れるってどうなんだと内心首を傾げるけれど、既に街中へ来てしまっているからこれ以上押し問答を続けたところで無駄だと気付く。
それなら仕方無いので気絶した振りをしてやり過ごそうと大人しく腕に抱かれてやった。
宿屋へ入ると店主がぎょっとしてゼノを見たので知り合いだろうかと首を傾げた。
私の部屋番号を聞き出すとそのまま階段を上がったので、特に聞き出す事もなくそのままベッドの上に座らされる。
「……ゼノってもしかしてどっかの偉い人とかそう言うオチじゃないよな?」
「別に偉くはないよ、顔見知りが多いだけだ」
「ふぅん」
腕を組んで考えていると「それじゃあ今日のところは帰る」とゼノが立ち上がったのを見て「泊まって行くんじゃないのか?」と問い掛けると、ガクンと肩を落として「女の子の部屋に泊まれるわけないだろう」と頬を染めて出て行った。
ゼノには僕が女の子に見えているのか。
やはり男の人の仕草を研究した方が良いかもしれない。
あってもなくても変わらないような鍵をかけて、僕はベッドに沈み込む。
とても長い1日だった。
いや、もしかしたらこのラシャールに来てから1日も平和だと思える日が無かったかもしれない。
既に森の中での生活が懐かしく思えるくらいには、静かな場所が恋しかった。
明日は協会から借りて来た本を読んで、クエストの進捗を聞くとしよう。
ふっと息を吐き出して、僕は眠るのだった。
「お前を見てると俺の決心が揺らぐ!!なんでだよ!!」
ゼノの言葉が忘れられない。
目を閉じてもずっと、あの綺麗な新緑色の瞳が私を捉えて離さない。
高い熱量でぶつけられたあの言葉が消えてくれない。
あの言葉はどこか懐かしく、とても辛い。
私は間違ってない、私の言葉は間違っていないはずなのに。
あの時の自分と似ていてとても腹が立つのだ。
全ての人間達が僕達を、そして私を操り人形のようにして権利を奪う。
人として生きる事を、性別すらも蔑ろにして、僕を、私を……神にする。
神とはなんだと聞いた事がある。
神とは僕であり、僕以外の生き物が人であると教えられた。
では僕は、私は、何をすれば良いのか。
ただ生きて、お願いを叶える為の道具に成り果てるのか。
精霊達に知識を求めた。
僕が私が神と言うのなら他の神は居るのか、私の生まれは果たして正当なのか、普通なのか、当然なのか、必然なのか。
答えは『否』
生まれた途端に青い瞳を持つ者は性別など関係無く神として生きて来た。
周辺地域で歴史上青い瞳を持って生まれたのは3人で、そのどれもが人間達に良い様に飼い慣らされて死んで行った。
人は自分より優れた個体を囲い自分達に都合良く取り纏める……それが村だった。
古くからしきたりに則って世の断りを弾きその場から動きもしない木に擬態した人間達は進化を恐れ、廃れて消えて行く。
その間に他の人間達は学び、そして進化して行くのだ。
時代に取り残された村や町、そして国は滅び行き、選択を間違えた事にも気付かない。
なんと愚かな。
私は気付いた途端に抜け出る事に決めた。
精霊達は私の味方だ。
力の使い方も知恵も、欲しいだけ与えてくれた。
表面上はいつも通りを決め込んでいたので村人達は少しの疑問も持たなかっただろう。
いつしか胸が膨らんで来て、今まで着ていた服が着れなくなった時初めて自分の性別が女だと気付いた。
しかし彼等は私が女だと都合が悪いらしく、胸を潰して男のフリをさせた。
その時私はこうした方が被害が無いのだと理解したのに。
「今になって女がどうかとか気にするなんて……変だ」
ベッドの上でため息を吐き出しながら、今まで会った事の無い人種であるゼノを思い出す。
ほとんど明らかになっていない部分の方が大きい彼にだんだんと慣れて来ているみたいでなんだか嫌だけれど、彼は彼なりに戦っていたのだと言う事は理解出来た。
警戒するだけ無駄なのだと言う事も分かったので、この街にいる間は諦める他ないとため息を吐き出すのだった。




