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少しの迷いと疑いと



歩き始めて数十分、至って普通の観光案内を続けていたゼノは「ティトスはこの辺りの生まれじゃ無いんだよな?」と聞いて来た。



「なんで?」


「人酔いするって事はあんまり人混みの中で育った事がないって事だろう?

それに協会で申請するって言えば旅人登録の事だろうし」



言われて確かにと頷いた。

ギルド登録なら先にギルドに行く人の方が多いと聞いたし。

だけどそれだけだ船酔いと人酔いの区別はつくものなのだろうか。



「ちなみに、なんで船酔いじゃなくて人酔いって分かったのかについては単純に港で1度ティトスを見掛けてたからな。

フード被った奴ってあんまり居ないから目立つし」


「目立ってるのか!」


「普通目立つだろ?なんでフードなんか被ってるんだ?

身バレ防止か??」



そう言ってフードの端に手を伸ばしたゼノの手を、僕はバシッとはたき落とした。



「……誰にだって見られたく無い物のひとつやふたつあるだろ」


「ん、悪かった」



結構遠慮無く関わって来る割に、引き際はかなり極端なんだよな。

僕は頷きながら「ゼノは?」と問い掛ける。



「ん?」


「ゼノはこの辺りに住んでるのか?

何かの職に付いてる感じじゃ無いよね、格好的にも」



ゼノの服装は動きやすさ重視のものに見えた。

明るい茶色の髪と新緑色の瞳を持つ、普通の好青年。

首に巻いている赤いスカーフが印象的なのに、服装も相まって全然印象に残らないのが不思議だった。

目を合わせて話して来るからなのか、妙に明るい新緑色の瞳だけが印象に残る。



「んー、まあな。相談事みたいなのを解決したりする……事で、収入を得ている?様な感じだ!」


「あやふやじゃん」


「あやふやで良いんだよ、形があると面倒臭いからな」



なんとなくそれは嘘じゃなさそうだと思った。



「それで、ティトスは女である事を隠して何してるんだ?」


「グイグイ来るな……」


「聞いちゃダメな事だったか?」



きょとんと目を丸くするその様子に、なんだか自分がおかしいみたいだと錯覚しそうになる。

それに軽く首を振って「用心してるだけだよ」と腕を組む。



「女の一人旅は厄介事しか呼び込まないだろ。

それに男のフリをしている方が色々と面倒が省けて良いし、フード取るのも嫌だから都合が良いんだよ」


「へえ」


「僕の事はこれで良いだろ、もう案内も充分だから帰る」


「なあ、ティトスってもしかして魔法使えたりするの?」


「……」



その言葉に、ピリッとした緊張が生まれた。

周りの景色は変わらないのに、僕とゼノの間にだけ目に見えない時間の壁があるような。


フードから先にあるゼノの表情は読めない、だけれどこちらの表情も分からないはずだ。

僕は立ち止まり、ゼノも同じく立ち止まった。



「……使えたら、なんだ」


「マジ?」


「使えたらの話しだ、ゼノになんの得がある?」



これでも怒りは抑えている方だと思う。

ただただ普通に聞いただけだと言われればそれまでだが、あまりにもしつこいと感じたから……ムカついた。



「得とか損とかじゃ無くて……ただ単に気になったから」


「放っておいてくれ」



会話になっていない自覚はあるけれど、ここで青い目を持つ人間だと気付かれるのは困る。

それに何よりゼノはまだ何かを隠している。

その部分がどうにも不安材料として残っており、素直に話す気にもならないのだ。



「なあ、怒ったの?ごめんティトス、もう聞かない」


「聞かないから許すとかそう言う問題じゃ無いんだよ、ゼノは無遠慮に聞くのにこっちに何も示してないだろう?

だからお前を信じる気にはなれない」



ゼノは付いて来なかった。

僕は内心でホッとしながらも、石畳の道を進んで白い建物……協会へと向かうのだった。



その後は仕事を取るべく三階のフロアに案内され、自分が今出来そうなクエストを発行して貰った。

クエストの多くは日雇いの仕事が多く、人手の足りない工房や飲食店などのお手伝いだ。

たまに失せ物探しや隣町まで宅配の仕事なんかもある。

ありがたい事に失せ物探しはお手の物なので、いくつか選んで持って行くと、受付の職員が困ったように眉を下げた。



「こちら、もう3年も見つかっていない物ですけれど……大丈夫ですか?」


「3年なら大丈夫です、あと2つも生きてるか死んでるかとかじゃ無いから恐らく」


「そんな……どうやって?」



純粋に疑問だったのだろう、首を傾げた職員へ「しぃー」と唇に人差し指を立てた。



「僕を変な人だって思う人も居るだろうから、秘密です」


「まあ」


「それじゃあよろしくお願いしますね」



何故か頬を染めていた職員に首を傾げつつ、僕は一覧表を見て頷く。


一番高額な報酬の物は、どうやら盗難事件の被害にあったペンダント。

3年前に店から盗まれたサファイアのペンダントを探してくれと書いてある。

他の2つもよく似た物だった。

結婚指輪を無くした、祖母の形見を無くした。

どちらも良くある相談事だろう。

3年も見付けて貰えなかったなんて、可哀想に。



腹立つ事にゼノに案内してもらったので地理がなんとなく頭に入っていて迷う事無く進んで行く。



表の道から少しそれた路地で、僕は片手を胸の高さに持ち上げた。

青、白、緑の色がまるで蛍のように静かに煌く。

この明かりは僕以外の人には見えないらしく、一人でこんな事をしていると恐らく普通の人には奇妙な事だろう。

なので出来るだけ人目に付かないこの場所で声を掛ける必要があった。



「みんな、僕のお願いを聞いてくれ」



呟くと、同意するかの様に光が点滅を繰り返す。



「ひとつめはこのサファイアのペンダント、2つ隣の通りにある宝石店から3年前に盗まれた物らしい。

近くに工房がある事から恐らく1番辿りやすいと思う。

2つ目は結婚指輪、カーター夫人の指にハマっていた指輪だがパーティの時に無くしたらしい。

パーティー会場は町外れにあるカーター家の屋敷内、すでに使用人が探し回ったと言う事なら他の誰かが持ち去った線が濃厚かな?

3つ目は祖母の形見、パトリシアと言う女の子からの依頼らしい。

1年前に亡くなった祖母から貰った指輪を無くした、アルバイト先では確かにロッカーに入れたはずだと言う事からこちらも盗みの線が濃厚だろう。

それぞれ見付けたら僕に持って来て欲しい、それじゃあよろしく」



ふわりと浮き上がると、彼等は静かに空気に溶けた。

精霊は他の人には見えない。

そして僕以外の言う事は聞かない。

そう言う契約だ。

僕の言葉に従順で、逆らう事は決して無い。

失せ物探しは僕は動かず、彼等に任せて居るので僕は僕のしたい事に集中出来るのだ。



「……さて、図書館図書館」



結果報告が楽しみだと思いながら、僕は足取り軽くその場を離れるのだった。

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