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新たなる旅立ちは霧と共に




「お待ち下さい!!メギル様!!」



誰かの声が森に木霊した。

叫び声と悲鳴が聞こえるのはいつもの事で、逃げないようにと森の高台に作られた簡易な牢獄は蹴破って、崖から走る勢いそのままに駆け出して、飛んだ。

一瞬のふわっとした浮遊感と重量により落ちる身体は、彼等には見る事が出来ない存在に助けられて浮かび上がる。

空中は僕の領域であり、普通一般の人間達には到底手の届かない場所。

それを知っているからこそ「じゃーな」と一瞥するとその場から西へと向かうのだった。



嫌気が差したのは僕が2歳の時だ。

どこかの誰かが漏らした言葉の意味を感じ取った瞬間の事。

僕と言う存在は、人より生まれるが人では無い。

生まれ落ちた瞬間に僕は「神」となった。



森を抜けた先にあるのは僕を捕まえておく為の牢獄。

木々で編まれていて、地下に通じる階段をたくさん降りた先にそれはあった。

地上から光も届かず、静かな場所に一人で居た。

そんな場所にやって来るのは、物好きな地位ある人間か、もしくは何も知らないお世話係くらいなものだ。

生まれた途端に人とは隔離されていて、外の知識などは周りに漂う精霊達に聞いて育った。



僕は人より生まれたが既に人と言う認識からは外れている事。

人間とは脆く、弱く、したたかでそれでいて狡猾で温かで慈悲深くろくでもない生き物だと言う。

自分主義な人間も居れば資本主義な人間もいるし、お人好しも居ればクズも居る。

そしてそんな彼等に大切に大切に育てられた僕は、外の世界への期待……なんてそんなどうでも良い事に突き動かされたのでは無く、純粋に自由になる為にあの森を出る事を決意した。

外の世界の知識もある程度あるので期待する程のものでは無いのだ。



人間は18歳になると自分の人生を決める為に旅立つと言う。

俗に言う親離れ子離れの時期だとも言うが。

僕はあんな暗い場所に閉じ込められる事を良しとしなかった、ただそれだけだ。



行き先はとうに決めていた。

ここはとても「田舎過ぎる」ので、常識が歪んでいる事を彼等は不思議に思わない。

魔法がまるで使えない人間達が数多く存在し過ぎるこの地域は大陸の中で言えば遅れていると言う表現が正しいか。

新しいものから隔絶され、時代に取り残された地域を出れば、なんとかして生きて行けるはず。

この青い瞳は呪いなんかじゃ無く、取り残されたあの場所に現れる希望だと僕は解釈していた。



「……そうか」



考えながら、僕は西日に照らされた連峰を細目で見る。

飛行して行くのも良いが、普通の人間は魔力に底があるのでずっとこのままで居ると目立ってしまう。

何か適当な理由を付けて地上に降りて、瞳の色を隠す他無いが……。



辺りは森で、僕の居た場所からはかなり離れた。

魔力を持たない彼等は慌てふためいて居るだろうが、僕が飛び降りたのは数百メートルもある崖の下。

考えが原始から止まって居るかも知れない奴等の事なのでまさか捜索に当たって居る可能性は低いだろうが、用心するに越した事は無いだろう。



「本当は嫌だが……仕方ないか」



ため息を吐き出すと、僕は自分の左腕に右手で触れる。

周りに漂う存在達は心配そうだが、もう決めた。

辺りの空気を圧縮して熱い蒸気を発生させながら腕に近付けると、初めは感覚が追い付かなかったが次第に熱さと痛さが感覚を支配する。

悶絶する痛さにしばらく耐えて、次は冷却。

焼けただれた皮膚を見て、脂汗を拭いながら息を整えた。


左腕の火傷。

それがあれば両眼が青い事なんてフードで隠していてもインパクトが大きくそちらに配慮が向かうだろう。

それにかなりの広範囲になるので服を脱ぐ場面でも無ければ視線はそちらに向かうはず。

我ながら思い切った事をしたなと息を整えながら心の中で呟いて、今度は服を調達しなければなと頭の中に周辺地図を思い浮かべた。

この近辺や大陸の地図は頭に叩き込んだものの、現在地が不明な事もありしばらくは野宿をする事になりそうだ。

街道に出て馬車を探すのが一番早いだろうかと結論を出して、僕は森の中から街道へと向かう道を探した。



僕があの森から出たのはまだ朝が来てすぐの早朝だったはず。

霧が薄く太陽にかかって居たので余計に気分が良かった事を覚えて居る。



「……やっと、出られた」



出ようとすればいつでも出られるくらいに簡素な牢獄。

僕を神と呼び人としての生活をさせて来なかった彼等に怒りは湧くけれど、今までの僕らの在り方を思うと不憫にも思っていた。

時代から取り残され、魔法を未知のものとして扱う。

そして奇跡の術だと信じて疑わない素直さとその力を外に漏らさない様にする焦りの感情。

今まで僕と同じ立場に生まれた青き瞳の神達は何を思って居たのだろう。

過去には何度も青い瞳を持つ神が生まれて居る。

なのにどうして疑問に思わなかったのだろうか。

同情なのか、それとも何か疑問に持つ為の気付きすら無かったか?

だったら僕はどうして……何度も自身に問い掛けたその質問の答えは、いつだって決まって居た。



僕が僕である為。

他の誰でも無い、僕がそう望んだから。



街道へと出ると、かなり遠くにしっかりとした作りの荷馬車が見えた。

あれならこの森を超えた先にあるどこかの国や地域へ向かうかもしれない。

国へ向かうのなら入国許可状が必要な場所もあるはず、身寄りも無い僕がその許可状を貰うにはどうすれば良いか……と考えながら、僕はその荷馬車に向かって手を挙げたのだった。

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