気持ちが分かる男
男は、大阪環状線外回りの電車に乗った。
京橋駅から乗車し、天王寺駅に向かった。
二駅ほど過ぎると、玉造 ( たまつくり )という駅があった。
車掌がアナウンスした。
「 次は〜 たま!つくりー、たま!つくりー。」
いやに、たまを強調したアナウンスだった。
その次の駅は、鶴橋 ( つるはし ) という駅だった。
車掌がアナウンスした。
「 次は〜 つる!はしー、つる!はしー。」
いやに、つるを強調したアナウンスだった。
車両内の空気が少し変わった。
スマホの画面から思わず顔を上げる客、
友人同士にやにやしながら
そのアナウンスの事を話している様子の客。
男は、小説を読むのをやめ
辺りを見回した。
一組の親子が、男の斜め前にいた。
男の子が、母親に大きな声で言った。
「 たまたま、つるつるや!」
車両内の空気が、又変わった。
殆どの乗客が、その親子を見ていた。
中には、その男の子と同じ思いでいた客も
いたに違いなかった。
鶴橋駅に電車が到着し
ドアが開いた瞬間
母親は、男の子の手を引き
ダッシュで駆け去った。
男は、母親の気持ちが痛い程分かった。