強き雨、たき火囲い-2
激しく地面を打つ雨音と、時々遠くで鳴る雷音、そしてたき火の中で生木が割れる音、それに加えて少女のすすり泣くが洞穴の中を木霊する。
悠はどう声を掛けるべきか悩む一方で、ヴィスラはどこから出したのか獣の肉をたき火で炙っていた。
「……うっ、ぐすっ……っ」
「ええと、そう言えば自己紹介がまだだったな。俺は蒲生 悠」
「……うっ、ぐすっ……っ」
(どうすりゃ良いんだ)
エルフの少女、ミリィは悠に声を掛けられても返事をせずにただ押し殺したように泣くばかり。
悠は困ったように頭を掻くと、ヴィスラに向かって助けを求めるように視線を送る。そのヴィスラは炙った肉をかぶりつき、次の肉を木の枝に突き刺しているところであった。
「あー、いや、さ。今、体の具合はどうかな。痛いところとかあるかい?」
「……うっ、ぐすっ……っ。 だ、大丈夫、です……」
「あー、うん。それは良かった。今、食欲とかある? 俺、何か食える物探してくるからさ」
「ぐすっ……いらない……です」
「そっか。何か欲しくなったらすぐに言ってくれな?」
悠はミリィから発せられる拒絶感をひしひしと感じながらも、ミリィに向かって優しく声を掛ける。
その様子を見ていたヴィスラはイライラとした表情を浮かべて、棒に刺さった状態の炙ったばかりの肉をミリィの元へと持って行く。
「え、ヴィスラ?」
(自分の食べ物を動けないミリィにあげに行ってくれたのか。以外に優しいところもあるんだな)
く悠はヴィスラの意外な一面を見て感心する。
笑いながら化け物を弄んで殺し、容赦のない性格をしていると悠は思い込んでいたのだ。だが、わざわざ自分の食べ物を暖めてから、さらに動けない相手に食べさせるためにその相手のところまで行ったのだ。その落差に悠は驚きを隠せないでいた。
「おい、アンタ。ミリィって言ったさね」
「……うっ、ぐすっ……?」
ミリィの鼻先へ出される香ばしくほのかに湯気の立つ肉。その香りはミリィの鼻腔を刺激する。
だが、次の瞬間。
「耳障りさね」
まだ熱い肉をミリィの頬へと押しつけた。
「きゃああっ!? 熱いっ、熱いっ!!!」
「おい、ヴィスラ! 突然、何してるんだ!?」
悠はヴィスラの突然の行動に驚き立ち上がり、ミリィは頬に押しつけられた肉を振り払い、手でその患部を抑える。
そしてヴィスラは地面へと転がった肉とミリィを交互に見ながら冷たい表情で見つめていた。
「アンタ、まずはコイツに礼ぐらい言ったらどうさね。コイツはゲイルからアンタを命懸けで助けたのと、さっきのアンタの村で救ってくれたので2回は命を助けられたさね。その相手にお礼も言わずに、ただただ泣いてるばかりなんて、癇に触るさね」
「ぐすっ……ぐすっ……ひどい」
「ヴィスラ、俺はそんなこと構わないから。その子に優しくしてやってくれよ」
悠はヴィスラの横に立ち、なだめるように声を掛ける。
だがヴィスラは険しい表情を浮かべたまま、その心情を反映してか赤い髪を逆立たせる。
「”命の対価には命”しかないさね。少なくとも命を救ってくれた相手には、それ相当の敬意を持たなきゃいけないさね。だが、今のアンタにはそんなのは微塵も感じられないさね。むしろ、なんで助けたの?っていうふて腐れた心の声しか聞こえないさね」
ミリィは図星だったのか、泣くのを止めて押し黙る。
それを冷たい表情でまばたき1つせず見つめるヴィスラ。そして、その重苦しい空気の中で2人にどう声を掛けようか考える悠の姿があったのだった。




