因果、応報-1
悠はエルフの少女ミリィを背負い、ダンジョンの外へと出る。
いつの間にか辺りの黒い霧は一切消えて、空には黄金色の空が雲1つなく澄み渡っていた。
「ふぅ~」
悠の額からは大粒の汗が流れ落ちる。
自分の半分ほどの身長しかない華奢な少女とはいえ、ずっと背負い続けていていたために疲れが限界に近かかったのだ。
「まあ、でもこの子たちだけでも助かって良かったよ。この子たちがあのエルフの人に頼まれた妹かはわかんないけどさ」
「……もしかして綺麗なネックレスをしたお姉ちゃんですか?」
悠の後ろを歩いていたメアリが声を出す。
その言葉に最後尾を歩いて居たヴィスラが胸元から華美な装飾が施されたネックレスを見せつけるように取り出す。
「これさね?」
「それですっ! でも何故貴方がそれを持ってるんですか!?」
「まァ、依頼料さね。で、このネックレスの持ち主はアンタさね?」
メアリは首をぶんぶんと横に振る。
「……いえ、そこに居るミリィのお姉ちゃんです。あたしの、お父さんとお母さんはあたしが攫われそうになったときにファリスに殺されてしまいましたから」
「ふゥん」
「……それは良かった! なら早くこの子たちの村に戻らなきゃな!」
ヴィスラは何か考え事をするように顎に手を当てて考える。
一方で悠は大粒の汗を拭うと、一刻も早く少女たちをエルフの村に連れて行くべく足早に動き始める。
――辺りは段々と薄暗くなっていく。
木々の合間を抜け、川を渡り、村までもう少し。
「ところで聞きたいんだけど、さ」
悠はメアリに帰り道を聞きながら、獣道を進む。
その途中、ふと思いついた疑問をメアリへとぶつける。
「あのゲイルって男、なんであんな不思議な物を持っていたんだ? あんな危ない物なんて持っていたらとっくの昔に村なんてなくなっているだろう?」
メアリは何か言いづらそうに口ごもりながら答える。
「あれは、ゲイルさんがゲイルさんのお父さんからもらったって言っていました。ずっと前から大切そうに胸に掛けてましたから」
「……アンタら村の奴等はあの男、ゲイルをずっとのけ者にしてきたんだろうさね。食い物を分けず、住む場所を追い出し、挙げ句に”肉親の肉”すら喰わにゃあならないとこまで追い込んださね。そんな男がある日、”力”を手に入れた結果が今回の騒ぎさね」
ヴィスラは淡々と、まるで機械が文章を読み上げるように感情を置き去りにした声色でメアリに向かって喋り掛ける。
悠は眉をひそめ、メアリはびくっと背を震わせる。
「……っ。お父さんもお母さんも、村のみんなが”ゲイルは混じりだから”とか”半分子”とか言って。あたしだけじゃないわっ! みんな、みんな言ってたもの! 人間とエルフの汚れた生き物だって!」
「……」
悠の顔には影が落ち、無言になる。
そして悠の背に居たミリィもいつの間にか起きていたのか、細かく体を震わす。
「まァ、アタシにゃ関係がない話さね。アンタたちとあのゲイルに何があって、これから何が起きるとしてもツケっていうもんは必ずついて回るもんさね」
「……村に着いたな。ミリィ、だっけ? 君はもう起きているんだろう、歩けるかい?」
ミリィはこくんと無言で頷く。
悠はゆっくりとミリィを地面へと下ろすと、体を労るように背伸びをする。
「よし、じゃあヴィスラ。あの人にこの子たちを届けてくるよ。あと、ゲイルの最期も伝えてくる」
「待つさね、悠」
「うん?」
「招かれざる客が居るさね」
ヴィスラは目をつぶり耳に手を当てる。
悠は茂みに隠れて村の様子を窺うと、見たことのある顔を見つける。
「アイツは、俺たちを水に沈めた……」
悠の視線の先、そこには男に肩をかして歩くハインリヒの姿があった。
ハインリヒはエルフ女と何かを話している。
「取りあえずこの子たちだけで行ってもらうか。俺たちはさっさとここから離れよう。ほら、早く村へと帰りな」
悠はミリィとメアリは無言で悠にお辞儀をすると、とたとたとエルフ女の元へと歩いて行く。
「まあ、あのエルフの人との約束は守れて良かったよ。そう思わない?」
「このまま終わるんなら、そう思うさね。さっきも言ったさね、”ツケ”っていうものは必ずついて回るって」
「ん?」
妙な胸騒ぎを感じた悠。
そしてミリィとメアリの行き先を見つめる。
「お姉ちゃーんっ!」
ミリィは大声を上げてハインリヒと話をしていたエルフ女の元へと歩いて行く。
エルフ女はミリィとメアリに気が付くと、走って2人に駆け寄って抱きしめる。
「ミリィ! それにメアリちゃんも! 無事で良かった! ……っ!??」
何かに気が付いたエルフ女はミリィの肩を掴み、突き放す。
突然のことにミリィは混乱する。
「お、お姉ちゃん?」
「ミリィ、貴女、何をされたの……?」
「あ、あたしはなにも……!」
ミリィは混乱しながらも姉へと近寄る。
だがその姉であるエルフ女はミリィを思い切り突き飛ばす。
「え……おねえ、ちゃ」
「近寄らないで! 貴女、自分が何をしたのか分かっているの!?」
悠はそのやりとりを見ていて、ヴィスラに向かって振り向く。
一方でヴィスラはこの事態を予測していたかのように冷静であった。
「な、何が起こっているんだ?」
「あの娘は禁忌を犯したのさね、”同族喰い”ってのは一番やったらいけないものさね」
「いや、でもあれは無理矢理」
「そんなこと関係ないさね。禁忌を犯したヤツに故郷も家族も与えられるわけがないさね。ほら」
ヴィスラはミリィに向かって指を指す。
悠はミリィに再度視線を戻すと、そこには地面に倒れて苦しむミリィの姿があ




