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決着、黒い悪夢-1

 悠は見た。

ゲイルが放った針状のアーティファクト”執着の縫合体”。それが突き刺さった右手の甲がプクっとした水疱瘡みずぼうそう状に覆われていく様を。



「うぐぅうううっ!???」



 悠は大きく叫び、右手を押さえる。だが水疱瘡みずぼうそうの浸食は止まらず、少しずつ、また少しずつ腕へと広がっていく。

悠はすぐさま釣り針を使って手から”執着の縫合体”を抜き去る。



「お、お前ももうすぐ仲間にな、なる」



「あんたはなんでこんなことをするんだっ!? あの村を襲ったのも、村の子供たちを攫ったのも全部あんたなんだろうっ!?」



「お、同じことを、や、やり返すだけだ」



 悠の持つ釣り竿へと絡みついた黒い糸は解けて、ゲイルの手元へと針本体”執着の縫合体”が戻る。

それをゲイルは手元で弄ぶと、今度は背後に向かって投げつける。



「み、みんな、お、俺を、俺たち家族をの、のけ者にし、してっ。ふ、ひひ」



 後方へと伸びた針先は、床にぶちまけられた料理、もとい肉へと突き刺さる。

その肉に針先が突き刺さった瞬間、肉が蠢き、産声を上げる。



「なんさね、この不細工なのは……」



 その肉はまるで卵の殻をぶち破るように中から手の平大のクモのような生き物がわらわらと飛び出してくる。

そのクモの腹部辺りにはまるで男の顔に似た文様が浮かんでいる。



「コ……ロシテク……レコ……ロシ……テク。コ……ロシテクレ」



 まるで囁き声。

クモに付いた男の口が動き、ヴィスラに向かって懇願する。ヴィスラは一気にクモたちを焼き払おうと一気に息を吸おうとするが、途中で痛みから息が止まる。



(しばらくは火は吹けそうにないさね)



 いつの間にかクモたちはヴィスラの体に取り付き、ロングドレスの裾や胸元へと昇ってくる。



「邪魔臭いし、痛いさねっ!」



 クモたちはヴィスラの肉へ噛みつき、齧り付く。

ヴィスラは右手のかぎ爪で一匹、また一匹と潰していくが間に合っては居なかった。それと同時に絹を裂くような叫び声が辺りに響く。



「嫌っ、ミリィ、いい子にしてたじゃないっ!??? 嫌っ、食べないでっ!」



 先ほどまで木製のイスに座って”肉”を泣きながら口へと運んでいたミリィ。

その小さな足先にクモが群がり、淡い黄色のカーペットを赤へと染める。



「……同じことをするだって?」



 悠は辺りを見渡しながら、怒りに燃える。

右手が水疱瘡に覆われ、釣り竿を強く持つと水泡が破れて体液が流れる。痛みもまた悠の右手から脳へと運ばれていたが、悠はもはやそのことを気にしてなど居なかった。



「俺だって良く考えたさ。ある日、突然自分に超能力が宿って嫌なヤツをぶっ飛ばせたらって」



 悠はさらに力強く釣り竿を握り込む。



「あんたがどんな境遇で、どんなことをされていたかなんて知ったこっちゃねぇっ! だけどな!」



 悠は思い切りゲイルの方へと駆け、突進する。

ゲイルは手元に戻した針”執着の縫合体”を投げつける。



 悠はその針を既に侵された右手で受け止めると、釣り竿をまるで槍のように突きだしてゲイルの目へと目掛けて突進する。



「ふ、ひひ」



「ここまで残酷なことをしなくても良いだろうがっ!」



 悠の釣り竿がゲイルの目を貫く。

穂先は目を潰し、脳へと達していく。柔らかい物をかき分ける感触が悠の手へと伝わっていく。

そして悠はトドメと言わんばかりに、ゲイルへと馬乗りになると右手に突き刺さった針”執着の縫合体”をゲイルの脳天へと深く突き刺した。



「……っ」



 悠はゲイルから立ち上がる。

ゲイルは2、3度痙攣していたが、悠が立ち上がった瞬間にゲイルの体は腐敗していく。そして肉が腐り落ち、骨も形を保てず土へと還り、残されたのは主を失った衣類とアーティファクト”執着の縫合体”だけであった。

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