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耳長、救出依頼

若い”耳長の”エルフ女の前に立つヴィスラ。

女は身をすぼめ、両の手で体の震えを抑えるように座り込んでいた。



「ひぃっ、ひっ」



「まァまァ。落ち着きさね。いったい、何があったさね?」



 ヴィスラはエルフ女をなだめるように、ゆっくりとした口調と手振りで声を掛ける。

しばらく震えて怯え続けていたエルフ女だったが、段々と落ち着いて来たようであった。



「あ、貴女たちは誰……?」



「そんなことは今は関係がないさね。それで、何があったさね?」



 ヴィスラの有無を言わせない雰囲気にエルフ女は威圧される。

その様子を見て、悠が口を挟む。



「お、おい、ヴィスラ。もうちょっと言い方ってもんがあるだろ」



「おィ、これがアタシのやり方さね。んで、耳長女、アンタ早く何があったのか話すさね」



「あ……え、えぇと。今朝のことだったわ。ば、化け物が何匹もあたしたちの村に。み、みんな戦ったんだけど……だめだった」



「ふゥん?」



(ぁ……つ。……い……殺……み)



(ん?)



「っ!? あっ、あたしの妹は、妹を外で見てませんかっ!?」



(あい……つが。み……んな……殺……)



「いや、みてないさね。なァ、悠?」



「ああ」



 エルフ女がこの村に何が起こっている最中にも、ヴィスラにはエルフ女の思考が”声”となって聞こえていた。

耳を澄ましてその声を聞きながら、ヴィスラは考える。



「化け物が来たって言うけど、何か心当たりはあるさね?」



「……見たことない男が、化け物を引き連れていました。それで、村の子どもたちを攫って……」



(あいつがみんなを殺したあいつがみんなを殺したあいつがみんなを殺したあいつがみんなを殺した。”ゲイル”がみんなを殺した”ゲイル”がみんなを殺した”ゲイル”がみんなを殺した)



「”見たことない”男ね、ふゥん?」



「い、妹を、助けてくださいっ!」



「まァ、良いさね。それで、アンタは何を差し出すさね?」



「えっ……?」



 その言葉にエルフ女は言葉を詰まらせる。

その戸惑いを隠せない表情を見ながら、ヴィスラは真っ直ぐにそのエルフ女を見る。



「こんな虐殺をしでかすことが出来る化け物相手にタダで、しかも見ず知らずの相手に頼もうってことさね? そんなのありえないだろうさね」



「ヴィスラ、お前……」



「悠、アンタは黙っておくさね。それで耳長の、アンタは命を懸けて行く相手に何もお礼はしないさね?」



「す、少しだけなら蓄えが……」



 ヴィスラはまじまじとエルフ女を見つめると、エルフ女が身につけた煌びやかなネックレスにめざとく注目する。

細い指先でそのネックレスを触りながら、ヴィスラは目を細める。



「コイツがアタシは欲しいさね。コイツをくれるなら、行ってやるさね」



「えっ、でも……。 これはウチに代々伝わるものなのです。他のでは駄目ですか……?」



「おいっ、ヴィスラ! 俺たちは山賊じゃないんだぞっ! そんな弱みにつけ込むようなマネなんて」



 ヴィスラは面倒くさそうに悠を見ると、口を開く。



「あァ? 悠、覚えときな。”命の対価ってのは命でしかあがなえない”さね。人に命懸けのを頼むなら、命に匹敵するようなものを相手に渡さなきゃワリに合わないさね。それが今回はこのネックレスだったっていう話なだけで、アタシは何も間違ったことは言ってないと思うさね?」



「うっ、いや、でも」



「悠、とりあえずこの話は終わりさね。それで、耳長の、アンタはどうするね?」



「……分かりました。これを差し上げるので、どうか妹を、妹のティをどうか助けてください」



 エルフ女はネックレスをヴィスラへと悲しげな表情を浮かべて手渡す。

一方でヴィスラは満足げにそれを受け取ると、胸へとそれを押し込んだ。



「よしっ、じゃあアンタの妹は探してきてやるさね。悠、早くいくさねっ」



「……っ」



 ヴィスラは意気揚々と家の外へと出て行く。

悠は出て行くヴィスラの背と泣きはらしたエルフ女を交互に見た後、ヴィスラの背を追って外に出て行くのであった。

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