プロローグ
真っ白に統一された大礼拝堂。天部にあるステンドグラスからは暖かな陽の光が差し込んでいた。
その陽の光に曝されているは真っ白な鱗を持ち、人間など一口で飲み込めるほど巨大な体躯を持つ美しい龍。その大口から放たれるは寒気さえ感じるほどの真っ白な大炎。だが、大炎の中を抜けるように飛ぶ黒き糸。
「……っ!」
蒲生 悠は己を飲み込もうとする白い大炎を見つめていた。振りだした釣り竿を片手に前を見据える。
ラインの色は漆黒となり、糸の先に付いた釣り針はまるでマグロを釣るかのように太く大きい。悠は大炎へ立ち向かうように白き龍へと釣り竿を振り抜いていた。
「掛かったっ!」
黒い糸がまるで絞首台の縄のように龍の首下へと絡みつき、針先は喉元へと深く突き刺さる。
だが、大炎の勢いは止まることはない。
「そこを退くさね、悠」
「ヴィスラッ!?」
悠は後ろから伸びた手に悠は襟首を掴まれる。その手の持ち主は燃えるような赤い髪と瞳を持った女、ヴィスラ。
悠が後ろを振り向く間もなく、ヴィスラによって力任せに後ろへと引きずられる。
ヴィスラは大きく息を吸う。
そして吐き出される黄金色の大炎。宙で白き大炎と黄金色のぶつかり合い、礼拝堂の壁を白から黒へと焦してステンドグラスは融解して床へと滴り落ちる。熱量で悠の皮膚はチリチリと焼かれ、鼻腔には焦げ臭い臭いが突き刺さる。
大炎は混ざり、爆ぜ、礼拝堂は光に包まれる。
悠は目を開けていられずに、一瞬だけ目を閉じてしまう。その刹那。
「っ!?」
大炎を切り裂く、白き腕。
そのかぎ爪の付いた龍の手が、悠の眼前へと迫っていた。
「ゆー……」
ヴィスラが大きく叫び、悠に向かって守るように手を差し伸べる。だが悠の周囲の時間がゆっくりとなり、ヴィスラの悠を心配する声すら間延びしていく。
(ああ、この感覚は)
久しぶりの感覚に悠は懐かしささえ覚える。瞬き1つさえも満たない時間。
生きるか死ぬかその狭間で、悠の脳裏には走馬燈のように記憶が流れていた。