三の手
ドドドドドドドドドドド!!!!
武器破壊を受けた魔物全員がが直後にいっせいに後ろに吹き飛びながら倒れた。その全てが顔面から血を流し、生き残っている者も顔を抑えながら悶絶している。
「あれは一体、が、顔面に砕け散った武器の破片が直撃したのか!?」
不意打ちさえできれば如何に聖剣エクスカリバーの使い手と言えど何とかなると高をくくっていたドーギルだったが、あっさりと作戦を打ち砕かれ、配下の魔物もほとんどが戦闘不能に陥ってしまった。それも一瞬で。
「グギャゲゲ!?ま、魔法だ!武器が駄目なら魔法を人間どもに打ち込むのだ!やれ、リッチ!!」
「は、ははぁ!?火の魔性よ、燃え盛り敵を穿て、ファイヤーボール!」
リッチの火球を先頭に木の杖を持っていたおかげで大したダメージを受けずに済んだゴブリンメイジなど総勢十体の魔物がそれぞれの得意魔法を放ち、火の矢、氷の礫風の刃などが再び町の人々へと襲い掛かる。
今度こそは、と少し余裕を取り戻す魔神ドーギルだったが、未だにエクスカリバーの使い手のことを甘く見ていたのは否めない。それも大幅に。
「エクスカリバアアアァァァ、ピッチャーライナァーーー!!」
なぜか刃を横向きにして、斜に構えて待ち受けていた敵を見たドーギルがまさかと思ったのも束の間、エクスカリバーの剣身を包んでいた赤い光が10メートルほどに急激に拡大し、迫って来ていた魔法攻撃の数々を一つも漏らすことなく打ち返した。持ち主の急所に向けて。
「ギャアアアァァァ!?」「グポッ!?」「アデ?オデノドウタイガミエルゾ?」
「モウダメダ、オシマイダ!」「アイツ、ツヨスギル!!」
リッチを含めた残りの魔物たちが次々と倒れ伏し、わずかにドーギルの側近として残っていたオーク二体が悲鳴を上げながら逃げ出した。
しかし二体は5メートルも進まない内に歩き出し、すぐに前のめりに倒れ伏した。首から上をなくした体で。
「グギャァ!俺様の部隊に臆病者はいらぬ!!」
熱線を吐いた余熱で口から煙を覗かせながら、怒りの頂点に達したドーギルは改めてエクスカリバーの使い手と向かい合った。
「小僧!この俺様が名を聞いてやる、名乗れ!!」
「コウイチ=カゲノ」
「何のためにこのド-ギル様の部下の武器や魔法を利用したかは知らんが、そんなヌルイ攻撃が俺様に通用するとは思うなよ!!俺様の武器は聖剣相手でも打ち合える、頑丈で再生能力を持った魔剣だ!さらに俺様自身も強力な再生能力の持ち主だ!極めつけはニンゲンの百倍を優に超える体力で貴様のスタミナが切れて許しを請うまで嬲り続けてやる!!覚悟しろ!!」
外見から言ってもあまり頭脳派には見えないドーギルだったが、怒りでさらに思考力が落ちたのか自分の能力を次々とばらしながら凄まじい勢いで突撃していく。そんなドーギルの弱点を発見したのか、それとも最初から興味がなかったのか、あと数瞬でドーギルの間合いに入るというところで再び聖剣が鋭い光を放った。ただし今度は爆音と共に。
「エクスカリバー、フラッシュグレネード!!」
「グギャアアアアアアァァァ!!見えん!?聞こえん!?小僧オオオォォォ!!!!」
先ほど部下がそうしたようにドーギルは蹲り両耳を抑える。しかしその場に居合わせているはずの町の人々は何が起きたのかわからないといった体で呆然としている。
「なんだ?何が起きたんだ?」「聖剣の使い手様が何か叫んでいたようだが」「おい!使い手様がいないぞ!!」
「グギャギャ!?何処へ行った!?」
さすがに魔物たちの中のエリートである魔神ドーギル、眩む目を何とか開き立ち上がったが目の前にいたはずの憎き敵がどこにもいない。
「グギャ、上か!!」
悪寒がしたドーギルが勢いよく見上げてみれば、聖剣を逆手に握りしめ、上空数十メートルまで上昇した青年が持ち手を持ちに戻すところだった。そしてその体はかつて魔王軍の要塞でドーギルを恐怖のどん底に陥れたあの輝きが宿っていた。
(マズイ!アレを食らうのだけは俺様でも絶対にマズイ、逃げなければ!!)
瞬間的に本能で判断したドーギルは踵を返すと脇目も振らずに全力で走り始めた。ものの10秒ほどで町から脱出する驚くべき脚力を見せつけるが、悪寒は一向に収まらない。そんなドーギルのようやく回復し始めた耳にあの声が響いてきた。
「必殺、エクスカリバアアァァァ、キイィィィィィィック!!!!」
ゴオオオオォォォォォオオオ!!ドグアアアアァァァァァァァァンンンン!!!!
全力試走中のドーギルを超える圧倒的なスピードで目標に到達したエクスカリバーの使い手は、そのまま右足でドーギルの背中に接触、半径10メートルを赤い光に巻き込みながら粉々に爆散させた。
急速に薄れゆく意識の中でドーギルが最後に考えたのは素朴な疑問だった。
(なんで、こいつは、その手にある聖剣で斬らなかったんだ?グギャ・・・・・・)