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七の手 ゴブリン撃退

「エクスカリバー、あの声って!?」


「ちいっ、まさか人里に近い場所に転送されていたとは!走るぞ光一!」


光一が握っていたエクスカリバーがそう言うと光の塊に代わり目の前に移動すると、再び柴犬の姿になって森の中を駆け出した。光一も慌ててその背中を追いかける。


流石に犬の走りに人が追い付けるわけもないし、まして光一にとって慣れない森の中での疾走だったが、さすがに気を使っているのだろう、柴犬は時々立ち止まり、鼻をクンクンさせながら光一の姿を確認してまた走り出す、という行程を繰り返した。

そのもはや犬以外の何物でもないエクスカリバーの姿に、光一は笑いを堪え切れず思わず吹き出した。


「ぷふっ、そうやっている仕草を見ると本物の犬と見分けがつかないね」


「し、仕方がないだろう!?そもそもこの私を畜生ごときに擬態させるという発想そのものがイヴァルディの住人には決して出てこないものなのだ!・・・これも後で詳しく話すが光一、これだけは約束しろ。私が犬に擬態できることは決して他の者に話すなよ」


これまでとは違って、エクスカリバーのどこまでも冷静な口調に光一も頷かざるを得なかった。


「っ!?わかったよ。絶対にエクスカリバーの擬態のことは誰にも話さない。約束するよ」


「よし、・・・どうやらそうこう言っている内に着いたようだな」


そのエクスカリバーの言葉でハッと状況を思い出した光一が辺りを見回すと、この辺りで一際大きな木の根元に、如何にもファンタジーの村娘といった格好の少女が倒れこんでいた。気絶しているのか、ピクリとも動く様子はない。


「大変だ、人が倒れてる!」


「待て光一!どうやらその娘、追われていたようだぞ」


ガサッ ガササッ ガサガサッ


「ギャギャ、ニンゲン、オンナミツケタ」「グゲゲ、ニンゲンオトコイル」「ケモノ、ウマソウ、ギギィ!」


複数の物音のする茂みの向こう側から現れたのは、五体の小人だった。緑の肌という点では先ほどのオークと特徴が一致するが、80センチほどの体に骨ばった手足とあばらの浮き出た胴体に対して不釣り合いなほど大きな頭を持っていた。それぞれの手には棍棒、石斧、石槍など粗末な武器が握られている。もう一点、オークと共通する点があるとしたら、光一たちに対して疑いようのないほど強い敵意を向けてきていることだった。


「光一!」「エクスカリバー!」


オークの時とは違って守るべきものがあるからなのか、光一は躊躇うことなくエクスカリバーを呼び、聖剣を構えた。


「さっきの技はまだ使えない?」


「チャージに時間がかかることもあるが、それ以上に戦いの物音を聞きつけて他の魔物がやって来たら、今の私たちの力ではその娘を守り切れん。できるだけ素早く、静かに決着をつけて森を出る必要がある。仕方がないな、また私が戦い方を」


「エクスカリバー、一つ聞くけど剣を握っている状態ならどんな行動も強化されるんだよね?」


「?、ああ、その通りだ。筋肉の限界の範囲内であれば己の体を自由自在に動かすことができる。それに五感も何十倍も鋭敏になるから相手の動きも手に取るようにわかるようになる。これが聖剣士の称号の能力の一つだ。先ほど自分で体験しておいて今更なぜそんなことを聞くのだ?」


「そうか、教えてくれてありがとう。それならエクスカリバーに頼らない、こんな戦い方なら!!」


そう言った光一が右手一本でエクスカリバーを肩に担ぐと突然ゴブリンたちに向かって走り出した。


これに慌てたのは、先ほどまでただの獲物だと思っていた相手が、いきなり光り輝く剣を手にして襲い掛かってきて驚愕しているゴブリン達と、襲撃側であるはずのエクスカリバーである。


「待て光一!ゴブリンのような雑魚だろうが斬ってしまえば私諸共お前も死ぬのだぞ!今すぐ止まれ!!」


光一は必死に説得しようとするエクスカリバーの声が聞こえていないかのように、一切減速せずにゴブリン達の元へと突撃、真ん中の個体に向かって一撃を加えた。


「ゲブルウウウゥワ!!」


「ふうっ」

そこにあったのは、5メートルほど後方に吹き飛ばされ気絶した一体と唖然とした表情で見つめる他の四体のゴブリン達、そして右足を上げた体勢で息を吐く光一の姿だった。


「足だと!?」


エクスカリバーの驚きの声に呼応するかのように動き出した光一は、聖剣士の力の補助を受けた流れるような動きで、左隣の個体のこめかみに肘打ち、振り返った勢いで反対側のもう一体の後頭部にハイキックをお見舞いして、瞬く間に二体を地面に沈めた。


「光一!何だ、そのお前の動きは!?」


「いやぁ、学校から帰って宿題をしたらヒマだったから、ちょっとだけ通信空手というものをやってみたんだけど三か月で辞めちゃったんだよね。身体能力が上がったからやれるかなと思って試してみたんだけど、まさかこんなに上手くいくなんて・・・」


「ツウシンカラテ!?何だその珍妙な名前は!?そもそも誉れ高き聖剣士が素手で戦うとは何事だ!!」


「だって、絶対に斬っちゃいけない剣なんてただの棒以下だし」


「ただの棒以下だと!?っ光一!!」


「わかってる、ちゃんと見えてる、よ!!」


左方から石斧を振りかざして走ってきたゴブリンの攻撃を見切って躱し、すれ違いざまにカウンターで膝蹴りを腹に叩き込むと、ゴブリンは悶絶しながらその場に崩れ落ちた。


「違う!後ろだ!!」


「そっちもだいじょ、っ!?」


背後に気配がないことをわかっていての光一の行動だったが、最後の一匹のゴブリンは逃げ出していた。気絶した少女の方向へと。

光一もすぐに後を追おうとするが、すでにゴブリンとの距離は離れており間に合いそうにない。

何か手はないかと辺りを見回す光一の目に()()が入った。


「エクスカリバー、先に謝っておくよ、ゴメン!」


「待て!嫌な予感がするぞ!何をするか先に・・・貴様まさか!?」


光一はそれの横に立つと、両手持ちで下段に構えたエクスカリバーをゆっくり振り上げ、半円を描くように思い切り振り下ろした。


ガツン!! ヒュルルルルルルルルッ


それは高速で風切音を響かせながら飛んでいき、気配に気づき振り向こうとしたゴブリンの側頭部に見事命中、ゴブリンは空中で一回転した後、グシャッ、と嫌な音を立てて地面に激突した。


「ふう、ギリギリで女の子を巻き込まずに済んだか・・・」


「ふう、ではない!!オノレ光一!!まさか本当にこの私を棒扱いして石斧に当てて飛ばすとは!!何たる侮辱だ!!万死に値するぞ!!」


「まあまあ、エクスカリバーにとっては女の子を助けるのが最優先でしょ?結果オーライだと思わない?」


「ぐううぅぅ・・・・、今回限りだ、次は絶対に許さんからな!!」


「ハイハイ、努力しますよ。と、そろそろ起きそうかな?エクスカリバー、そのままの姿だとまずいんじゃなかったっけ?」


「む、光一!後できっちりと私の偉大さを教えて、二度とあのような扱いができぬように教育してやるからな!」


「ん、ううぅん・・・」


そう言ったエクスカリバーが柴犬の姿に変わったのを見計らったかのように、気絶していた少女が目を覚ました。

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