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六の手 最初の場所と最初の戦闘

「ここは・・・」


「積もる話はお互いに山ほどあるが、まずは移動するぞ」


光一とエクスカリバーが転送されてきた場所は木々が生い茂る森の中だった。少し葉の形状が違う気もするが、光一が元の世界で見てきた植物とそれほど違いがないように見えた。


「いやでも、さっき聞いた呪いとかエクスカリバーの力とか、聞きたいことが山ほどあるんだ・・・あるんですが・・・」


「仮にも私のマスターとなったのだ、敬語はいらん。それよりも転送の余波を嗅ぎつけて魔物がやってくるかもしれん。それ以上に、魔族に見つかって大魔王に私たちの存在を知られれば、幹部クラス相手ですら今の私の力では太刀打ちできん。もたもたしていると、早々と元の世界へ帰るというお前の目的が潰えるぞ。私の知識の中には全世界の地形、主要都市の場所も入っているからある程度歩けばここがどこなのか見当もつく。まずは最優先でここから離れ・・・ちっ、遅かったか」


「え、あっ!」


光一がガサガサッと音のした背後へ振り向いてみれば、2メートルを超える大男がこちらに向かってきていた。

緑の肌に分厚そうな脂肪を蓄えた上半身はほぼ全裸で下半身は粗末なズボンを履き、右手には丸太に持ち手だけ削り出したような大型の棍棒を持っている。何より友好的な生き物ではないと確信させるのは醜悪な顔つきと獲物を見るような相貌だった。


「オークか、試すにはちょうどいい相手だな。光一、早速だが戦いのレクチャーをしてやる。まずは私を手にするように念ずるのだ」


「え、ええ!無理無理!!こんな狂暴そうな奴に向かっていくとか無理だから!」


そうこうしている内にも光一達の会話を無視するかのようにオークは一直線に近づいてくる。


「ごちゃごちゃ言わずに早くしろ!お前がいくら悩んだところで相手は待ってくれないぞ!死にたいのか!!」


「グァアアアアアア!!」


「うわあああぁぁぁ!!」


(エクスカリバーこいこいこいこいこいこいこいこい!!)


オークから逃げることも忘れて光一が必死に念じると、隣にいた柴犬の体が光りだし、次の瞬間にはあの美し輝きを持った長剣が光一の手に握られていた。

その時、光一の全ての感覚が一変した。迫りくるオークの動きだけでなく、視界の隅でざわめく木々の葉の一枚一枚の揺らめき、葉同士の擦れる音、そこから漂う森全体が放つ濃密な命の香り、流石に味覚までは確認のしようがないが、光一の五感全てが別の生き物に生まれ変わったかのように鋭敏になった。


「まずは棍棒の一撃を右に避けてそのままオークの体をすり抜けろ!」


エクスカリバーの咄嗟の言葉にに光一は半分も理解できなかったが、なぜか絶対にできると確信している不思議な感覚に襲われた。

既に目の前に迫り棍棒を振り下ろす寸前のオークを冷静に見つめると、まるで散歩にでも出かけるかのような足取りで右へのステップでオークの攻撃を流れるように躱すと、そのまま歩いてオークの背後へ躍り出た。


「え、なんで?これが僕?」


「呆けている暇はないぞ!今のお前でもこの程度の相手ならあくびをしながらでも躱せるはずだ!まずはこの場を切り抜けろ!」


戸惑いを隠せない光一にエクスカリバーの叱咤が飛ぶ。見れば、獲物を仕留めたと思い込んでいたオークが怒り狂いながら再び襲ってきた。

力任せに棍棒を振り回すオークに対して、初撃を簡単に躱せたことで自信をつけた光一は最小限の動きで規則性のまるでない連撃を避け続けていた。


「呪いのことは分かっているな。こちらからは絶対に手を出すなよ。いざというときは走って逃げて時間を稼げ」


「でもこれじゃキリがないよ。確かに避けるだけならいくらでもできそうだけどさ」


「心配するな、もうすぐチャージが完了する。合図をしたら10メートルほど離れて、私の言う言葉を復唱しろ」


「チャージって?って、うわぁ!?」


光一はオークの横薙ぎの攻撃をスウェイバックで躱すと、すかさずオークの後ろに回り込んで膝の裏に足裏で蹴りを入れた。


「ゴアアァァ!?」


いくら人を凌駕する肉体の持ち主でも、踏ん張りが効かなければ立っていられないのは人間と同じらしく、あっさりとその巨体が地面に激突した。


「今だっ!」


エクスカリバーの合図とともに素早くオークから距離を取った光一は、聖剣から紡がれる言葉を繰り返した。


「エクスカリバーフラッシュ!!」「エ、エクスカリバーフラッシュ!!」


カッッ パアアアアアアァァァァァァァァァーーーーーーーッッ


「グゥオオオオオォアアアァァァァァァ!!??」


「ちょ、これじゃ何も見えない!?眩しっ・・・くはないな・・・?」


突然黄色い閃光がエクスカリバーから溢れ出した思うと、辺り一帯を黄色一色に染めていった。

十数秒後、光が収まった後に光一が見たのは、棍棒を投げ捨て両眼を抑えてしゃがんでいたオークが立ち上がり、周囲の木々に激突しながら逃げて行く姿だった。

不思議なことに相当強力な光がエクスカリバーから発したはずなのに、光一の目には何の影響もなかった。眩しくない光とは矛盾しているな、と首を傾げつつも光一は気づいたことが一つあった。


「そうか、この技のために時間稼ぎをしていたわけなんだ。それにしてもどうして僕も一緒に技の名前を叫ばないといけなかったの?」


「コウイチは確かふぁんたじーとやらが好きで、このイヴァルディのことに関してもある程度知識があるのだったな。ならばその前提で話すが、技の名前を叫ばせたのは一種の詠唱行為だ。私の扱いに慣れてくれば無詠唱でも一部の技を使えるようになるが、それでも詠唱のあるなしでは威力に段違いの差が出る。まずは詠唱の時間を作り出す戦い方を学んでもらうぞ」


「そうなんだ、なんだか恥ずかしいな。小声じゃダメかな?」


「小声での詠唱で十分な力を発揮できずに敵に返り討ちに遭いたければ好きにするがいい。私としても努力を怠る者、しかも男に憐憫の情をかけるつもりもないからな」


「・・・わかったよ、一度やると決めたんだ。中途半端なことはやらないように努力するよ。それにしてもさっきのエクスカリバーから出た光は一体どんな技だったんだい?」


「ああ、エクスカリバーフラッシュのことか。あれは私の基本中の基本の技だ」


「効果は?」


「私が光る」


「は?だから効果は?」


「私が光るだけだ。他の効果など存在しない。最も、邪悪なる者にしか効かないというのは効果と呼べるかもしれんがな」


「うえええぇぇ!?それだけのためにあれだけ頑張って時間を稼がせたっていうの!?ちょっとしょぼ過ぎじゃない!?」


「仕方がないだろう!?ルミナス様もおっしゃっていただろう、大魔王に敗れた際に私が著しく弱体化したと!その影響でまともに技を使おうとしたら光をチャージする時間が必要なのだ!ええい、とにかく今はここを離れなければならん。貴様の力を見誤ったせいでエクスカリバーフラッシュの威力が大きくなり過ぎた。今頃この森中の魔物が騒ぎ出しているころだ。コウイチ、とにかく西へ・・・」


「きゃあああああぁぁぁぁああぁぁぁぁぁ!!」


その時二人が耳にしたのは、移動しようとしていた西の方角から森の中に響いた少女の悲鳴だった。

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