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幻想砕きの斧

作者: きょぉま

はじめまして。

Twitterで見かけた和モノ冬恋企画が楽しそうだったので、拙文ながら参加させていただきます。

 むかしむかし、あるところに太助たすけという木こりの青年がおりました。

 太助は若く誠実で、村のみんなからも慕われておりました。

 そんな彼に村長の娘との縁談が持ち上がるのも、村の人々は当然のことのように受け止めました。

 しかしこの太助という青年、人にはいえぬ秘密を抱えていたのでした。



「おう村唯一の木こりの太助、斧なんて持ってどうした。明日が村長の娘との婚姻の日だってのに。今日は休むという話ではなかったか」


 太助がいつものように雪道を踏みしめて森へと向かっていると、村人Aこと、おっちゃんに説明口調で引き止められました。


「おはようおっちゃん。大事な日だからこそいつも通りに過ごすのさ」

「ははぁ、立派なもんだ。うちのボンクラにその爪の垢を煎じて飲ませてやりたいもんだ」


 おっちゃんは感心したとばかりに息を吐きました。


「しかし太助、森に入るなら気をつけろよ。獣だけじゃねぇ、雪女が出るなんて話もあるからな」

「おっちゃん、それ"ふらぐ"って言うらしいぞ」




 おっちゃんとの不穏な会話を終え、太助は森へと踏み入りました。森へ入ると、陽の光は陰り、ぐっと冷気が這い寄って来るかのように冷え込みます。

 泉には薄氷うすらいが張り、雪が天然の落とし穴のようにその氷を覆い隠していて、素人が森に入ればすぐさまに踏み抜いて、凍える泉へと落ちてしまうでしょう。

 しかし太助も慣れたもの。泉の淵を綺麗になぞり、仕事場までたどり着きました。


「大事な日だろうと関係ない。木を切ることだけが俺の運命ですてにーにして原罪かるま。そうだろう?相棒ぶろーくんふぁんたずま


 太助は手に持つ斧に話しかけます。それはただの使い古された鉄の斧で、もちろん返事などしませんし、夢とか幻とかそういったものを砕く力も持ってはいません。


 そう、太助の人には言えない秘密。それは"厨二病"だったのです!!


「さぁ、今日も開演しよう。闇にはびこる妖どもを根絶やしにするのだ!デストロイブレイク!」


 コーン、コーンと木を打つ小気味よい音が響きます。

 デストロイブレイク。その技は優しく丁寧でした。

 太助はプロ。道具を粗末に扱うことなどしないのです。



 しばらくそうしていたでしょうか。冬の間は薪を多く使います。村唯一の木こりである太助は、村人みんなの分の薪を用意しなくてはならないのです。

 寒さで手がかじかんだのか、それとも疲れからか、太助の相棒ぶろーくんふぁんたずまは手の中からポンと抜け出てしまいました。


「あっ!?」


 太助は思わず手を伸ばしましたが時すでに遅く、太助の手を離れた相棒ぶろーくんふぁんたずまは氷を砕いて泉の中へと落ちてしまいました。


 太助がどうしたものかと右往左往していると、ふいに泉に変化が現れました。

 氷が割れて露出した水面が唐突に泡立ったかと思うと、水面を割って妙齢の女が現れたではありませんか!


 世界観を気にしてはいけません。斧と泉の組み合わせは絶対なのです。雪女?どこかにいるんじゃないですか?



「あなたが落としたのは金の斧ですか?それとも銀の斧ですか?」

「いいえ、ぶろーくんふぁんたずまです」


 女は異人さんでした。彫りの深い顔立ちと明るい髪色は太助にとって初めて見るものでした。

 しかし今はそんなことよりも相棒ぶろーくんふぁんたずまです。


「ぶ、ぶろーくんふぁんたずま?」


「はい、京の都に妖が蔓延っていた頃、かの高名な陰陽師、安倍晴明あべのせいめいが振るったという設定の斧です」


 目に見えて狼狽する女に構わず、太助は自慢げに言い放ちます。


「つまり普通の斧なんですね?」

「違います」

「でも今設定って」

「言ってません」


 太助は強情な男でした。


「は、はぁ、もう分かりましたから。それでは正直者なあなたにはその、ぶ、ぶろーくんふぁんたずむを……」

「違う!ぶろーくんふぁんたずまだ!!」

「ぴえっ」


 太助は妥協しない男でした。


「で、ではぶろーくんふぁんたずまをお返ししましょう!それでは!」

「まて!」

「ま、まだ何か!?」


 泉に戻ろうとする女を太助はなおも引き止めます。

 女はもう泣きそうでした。


「そんなところにいては寒いだろう。うちに来い、あったけぇ飲みもんがある。」


「はい?」


 太助は本来誠実で優しい男でした。


「異人さんがどうしてこんな所にいるのかは知らんが、冷たい水の中にまで大事な斧を取ってきてもらったんだ。お礼をせにゃ俺の気が済まん」

「いえ、私は泉の女神でして……

 はぁ、もういいです」

「うん?なんだ、和泉いずみさんというのか?異人さんじゃなかったか?」

「もうそれでいいです」


 女、もとい泉の女神は和泉の家のめぐみさんということになりました。



 と、そこで小さくサクサクと雪をふむ音が耳に入りました。誰か来たようです。


「む、ちよりか。こんな時間にどうした、もうすぐ日暮れだぞ」

「あ、だんな様。父に言われまして、今晩は夫となる太助様の所でごやっ……」


 やってきたのは村長の娘にして太助の婚約者、ちよりでした。


「む、どうしたちより。ゴーヤがどうしたって?」


 太助が的はずれなことを言う中、ちよりは視線を太助の肩越しに投げたまま硬直していました。

 具体的には泉の淵にいる女、泉の女神に視線が釘付けになっていました。


「た、太助様。ちよりに……ちよりになにかごふまんがありましたでしょうか。ちよりはこのとおり小娘ですがこれから大きくなります。太助様がお望みとあらば何でもいたしますから!」


 ちよりは震えておりました。明日には旦那となるはずの男が神聖な森で異性との逢瀬。さらにその女の服装は袖無しで肩は露出し、胸元は開き、足元にはざっくりとスリットの入った薄浅葱色うすあさぎいろのドレスでした。質素な村で生まれ育ったちよりからすれば信じられないほどの薄着の女は、エキゾチックな色気を振りまく情婦にしか見えませんでした。


 自分は捨てられてしまうのだろうか。太助とはこのような不埒な輩だったのだろうか、そういう不安が声の震えとして現れていたのです。


「うん?何を言っている。ちよりに不満などある訳なかろう。お前は私の妻になる女だぞ」

「で、ではあの女性はいったい……」

「おぉ!あの人は和泉の家のめぐみさんと言うらしくてな、泉の中に落ちた俺のぶろーくん……斧を取ってきてくれたのだ!」

「ぶろーくん?」

「……気にするな」


 太助は人の目を気にする小心者ゆえ、村の人には厨二病を隠しておりました。



 片やめぐみさんこと、泉の女神様はちゆりの姿を目にして瞠目しておりました。


「めぐみ様、このたびはわが夫がおせわになりましたようで、お礼もうしあげます」

「ロ、ロリコン!?」

「ふえぇ?」


 そう、ちよりはようやく年齢が2桁になってまだいくつかという童女だったのです!

 さらに、日本人の幼い見た目も相まって、女神にはちよりは年端も行かない小娘に見えました。


「せ、青年、見損なったわ!頑固で空気が読めなくて厨二病でも、根は優しい人だと思っていたのに小児性愛者ロリコンだったなんて!」


「ろ、ろりこん?ちより、あの人が何を言っているかわかるか?」

「い、いいえ。南蛮の言葉でしょうか?……それよりも太助様、厨二病なのですか?」


 ちよりが厨二病に反応したせいで太助は冷や汗ものでした。ちよりの失望の視線が刺さります。凍てつくような視線は睨めつけるだけで凍りつかせるかのような冷たさでした。

 雪女はここにいたのです!


 しかし女神はそんな様子には構わず、雪玉をぺしぺしと投げつけてきます。


「ちよりちゃん!ロリコンっていうのは小さい女の子が好きな変態のことを言うのよ!」

「太助様、変態なのですか……?」

「ち、違う……ってうわ!?」

「た、太助様ー!?」


 太助が慌てたところを、狙い済ましたかのように顔面へと吸い込まれた雪玉が炸裂しました。太助は身構える暇もなくたたらを踏み、そして不幸にも、薄氷を踏み抜いて凍てつく泉の中に落ちてしまいました。


「た、太助様!」


 すぐさま引き上げられた太助でしたが、既にその顔は白く、水を吸った褻衣けごろもが太助の体力を奪い続けます。


「ちちち、ちよりちゃん!どうしましょう!」

「は、はひ!ど、どうしましょう!太助様が……!」

「私、金の太助くんも銀の太助くんも用意してないわ!」

「何言ってるんですかこの人!?」


 動転していたちよりも、女神の言葉には思わず声を荒らげました。

 ちよりは深く息を吐いて気持ちを落ち着けると、村人Bこと、狩人のおじさんに習った応急手当ての方法を思い出します。


「まずは尻にネギを……」

「待ちなさい」

「止めないでください!早くしないと太助様が!」

「尻にネギをどうするの!?そのネギはどこから出したの!?」


 女神はどこからともなく取り出したネギを持って刺突の構えをとるちよりを慌てて抑えます。きっとそれは太助にトドメを刺してしまいますから。


「ではどうすればいいと言うのですか!このまま太助様が凍えるのを黙って見ていろというのですか!」


「残念だけどちよりちゃん、もう手遅れなのよ。もう太助くんは……」


 いや、死んでないから。という太助のつっこみは華麗に無視されました。


「そうですか。……分かりました。私とて、もう子供ではいられません。新しい恋に生きることとします」


 ちよりは足元に落ちている斧を拾い上げます。その顔には決意が浮かび、ちよりが一歩大人になったことがうかがえました。


 これは少女の「かれし(ロークン)ファ()物語タズマ」。


 少女の初恋は悲しい結末を迎えました。

 それでも少女はいつかまた恋をするでしょう。それは悲恋となるかもしれません。しかし少女はいくつもの恋を経て大人になるのです。


 そうしてちよりは理想の殿方との燃えるような恋をすることになるのですが、それはまた別のおはなし。



 めでたし。めでたし。


 ~完~








「めでたくないんだけど?」

「今いいところだから話しかけないでください」



 その後太助は村人Bの狩人のおじさんによって助けられました。



和モノ……?恋……?

どうしてこうなった。


勢いだけで書き始めると収集つけるのが大変ですね。でも楽しかったので後悔はないです!

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