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弱虫バトン  作者: oga
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第四十五話

作者 oga

私は響奏。

放課後、教室で体操着に着替え、校庭に向かっていた。


「今頃、陸上部は富良野に引っかき回されてるはず……」


 私は楽しくなり、思わず廊下をスキップした。

こんなに悪役を演じるのが楽しいなんて……

いや、演じてるんじゃない。

これが本音なんだ。

ずっと、アリスのことが憎かった。

中学の時も、アリスは人気者で、しかもスポーツ万能。

高校に入ってからお互いうまく行かなくて、少しは親近感を覚えていたのだけれど、結局アリスは仲間たちに囲まれて楽しそうにやっている。


「……ほんと、大っ嫌い!」


 アリスも、あの(ぬる)いメンバーも……






 校庭に出てきたが、まだ誰もいなかった。


「ちょっと早かったかな」


 私は、ストレッチをしながら他のメンバーが来るのを待った。

本田さんは演劇の練習があるって言ってたから、遅れるのは仕方ない。

でも、葉月さんと萩野さん、佐々木さんに関してはなんの連絡もない。


「遅れるなら連絡くらいしてよ……」

 

 はあ、とため息をついく。

メンバーが揃わないと練習が始められない。


(やっぱり、私って人望ないのかも)


 しばらく待っていると、教室の窓から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「私の命は差し出します! けれど、少し待ってください!」


 これは、アリスの声だ。

さっそく演劇の練習をしているらしい。

私は耳をそばだてた。


「私の妹が、3日後に結婚式を、えー、きょ? げすので、その日まで待って、えー…… 待ってて」


 超棒読みの上に、漢字をいくつか間違えている。

多分、きょ? とか言ってたのは挙げるで、待ってて、は頂きたい、という漢字が読めなかったのだろう。

アホすぎ。


「分かりました。 では、1週間の猶予を与えます」


 ……ちょっ。

この声は、家野さんだわ。

一週間もあったら余裕じゃない! 

私は急いで演劇をやっている教室に駆け付けた。

ガラッ、と扉を開けると、こう叫んだ。


「そんな温い台本じゃ、盛り上がらないよ!」


「ディオニスが来たわ」


 そう言ったのは、佐々木さんだった。

てか、葉月さんも萩野さんもいるし……


「何でここにいるの!? 今日は私と一緒に駅伝の練習するんでしょ!」


「……いや、何か変な人に台本無理やり渡されてさ。 これ、響の分」


 佐々木さんに走れメロスの台本を手渡された。

しかも、ディオニスの役が私になっている。


「響さん。 私がディオニスを代わりにやってたんですけど、悪人って性に合わなくって…… お手本、見せてもらえますか?」


 確かに、家野さんがディオニスでは、場がしまらない。

それに、私はさっき気が付いてしまった。

悪役って、すごい私にはまっているのかも。



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