第二十九話
作者 oga
「何であなたのために陸上部に入らなきゃいけないの!? あなたとアリスってほんと強引!」
強めの口調で言われ、思わず私も言い返す。
「頼むから言うことを聞くんだ! 私は、このチャンスを逃すわけには行かないんだっ」
響の腕を取り、相手の目を見て訴えかける。
しかし……
「やめてっ!」
腕を振りほどかれ、私はその弾みで転倒した。
その際、バキバキ、という何かがへし折れる音がした。
それは、立て掛けてあった響のフルートだった。
「くっ、すまない……」
「わざとだっ! 私のフルートをダメにすれば、もう演奏ができないからっ、そうすれば陸上部に入れられるって思ったんだっ!」
「そんなわけ…… ない……」
響はおもむろに、横に置いてある私の弓に手をかけた。
「確か、工作室にノコギリがあったわよね……」
ドロリ、とした目で響は私のことを見下ろした。
「やめろっ! それは、私の命より大事なものだ!」
「関係ないわ」
響が教室から出ようとした時だった。
ガラッ、と誰かが入ってきた。
「どーもどーもどーも! 珍事件と聞いて、この井本久一、黙って見過ごすわけにはいかねぇぜ!」
「な、なんだ貴様は……」
「オイラの名前は井本久一! 珍事件ハンターだい」
教室内に珍獣が紛れ込んできた。




