第二十二話
作者 偽貍狸
こうしてブックマークの病室に通ってかれこれ3週間がたった。
彼女について分かった事がいくつかある。
彼女は別に勉強が好きなわけではないらしい。
そこまで彼女のことを知らなかった私は、彼女を「ずっと本を読んでいる真面目な子」という認識でしかなかった。彼女にしたら迷惑な先入観である。
確かに彼女は授業中に雑談をしないし(私と違って)
授業中に手紙を回したりしないし(私と違って)
授業中に筋トレをしたりしないが(私と違って)、
それは真面目に授業を聞いていたわけではなく、ずっと本を読んでいたそうだ。
なぜ注意されないのかが不思議でならない。
あと、彼女の家は相当の富豪らしく、家には壁一面が本棚のような大きな図書館があるそうだ。メルヘン。
最後に、これは当然予想がついていたが、運動が嫌いだということ。
………そりゃそうか。
「嫌い、なの?まったく駄目…?」
その問いに、彼女はまるで当然のように言った。
「ええ。だって体育の授業は体調不良で見学にしていれば読書ができるでしょう?便利な制度だわ。」
「ぇ……」
「私はここ数年、一切の運動をしていないのよ。」
彼女の口からさらりと出た言葉にあっけにとられる。
『今日朝ごはん食べなかった』というくらいの軽さで、信じられないことを口にする。
それも、首を傾け微笑んで。
「【走る】ほど焦ることはないし、【握力】を使うほど強く物は握らないわ。息が切れるほど【体力】を使ったこともないもの。」
不自然なほど真っ白な肌に、掴んだら折れてしまいそうな腕や脚。
今やっと、フランス人形のような彼女の容姿に納得がついた。
「そ、そんなん…………」
「大丈夫よ。栄養剤やお薬があれば運動なんてしなくても生きていける。私は────本さえ読めればそれでいいの。」
彼女はベットの上に散らかった分厚い本のなかから一段と古そうな一冊を探し出し、私に手渡した。
「472ページ。」
ぱらぱらとページをめくって、音読をするのはこれで2度目。
彼女が指している言葉を口にだした。
『物事によいも悪いもない。考え方によって良くも悪くもなる。』
今回は難しい漢字も単語もなかった。
ゆっくりと本から視線を戻す。
「そんな顔しちゃ駄目よ。私の『良い』はあなたと違うもの。あなたの『悪い』も私とは違う。」
眼鏡をかけたその目でしっかりと、私を見据えて……………
ぱたん、と本が閉じられた。




