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有名人って実際に見るとオーラが違う

 その後もミートは色々とやらかしていた。

 ぞろぞろと群れで移動しては騒動を巻き起こしている。

 先輩リザードマンたちが陣取って守っているところにまたもやバリケードを築こうとして(こいつらは揃いも揃って角材持って本社パンデモニウムと闘争を繰り広げていた世代が親なのか?)、仕掛けてあったトラップもろとも爆散。先輩リザードマンたちに激しく罵られて渋々前に出る。

 出たら出たでまたもやレイドで爆走するサラリーマンにぶつかって爆散。

 こうなったらとばかりに隅で固まっていようとするも、群れが大きすぎててもはや中央付近をやはり塞ぐ形になって爆散。

 出社してからもう何度「ぷぎー!」という情けない叫び声を聞いたことやら。

 それでも装備だけは大したもののようで、数名のリタイアを出しているようだが、死者ゼロをキープしているらしい。


「親が装備だけはって、用意してくれたのでち」


 散々ピンボールみたいに、いやボーリングのピンみたいにか?弾き飛ばされて、口の中を切ったのか、語尾がおかしくなってるぞ、お前。

 ってか、俺、考えてること、いちいち口に出てるのか?俺の内心の疑問に勝手に答えるな。


「って、なんで俺の隣にいる」

「なんかここのヒトたち、殺気立ってて怖いでち」

「あ゛?俺は怖くないとでも?」

「ぷぎー!」


 舐められてるのか?と思って凄むとリーダー風のミートはカイトシールドを掲げるものの、逃げはしない。


「僕たちだって生き残りたいでち。死ぬのはごめんでち。助かりたいんでち」


 鎧の隙間からしか見えない目が涙目だ。

 なるほど。こいつらだって必死って訳だ。

 周りからはどんなに滑稽に見えようとも、そいつ自身は自分の知識経験に則って生き残りを掛けて動いている。それはこいつらにしても、あのサラリーマンたちにしても、そして俺自身にしてもそうだ。

 俺はそれを笑うことは出来ない。

 どうやらこいつらに話しかけた奇特な奴は俺だけだったらしい。先輩リザードマンのは話ってよりもただの罵声だったし。

 それでまあ、また懐かれたらしい。

 む。何にも勉強してないな、俺。

 話しかけるから勘違いされるのだ。

 俺はソロ俺はソロ俺はソロ。

 良し。


「それで?俺になんか聞きたいことでもあるわけ?」

「そういう突き放した言い方はやめて欲しいでち。確かに戦うのは苦手でちが、僕たちにだってきっと出来ることがあるはずでち。それを自分で分かってないってことを恥ずかしいと思う気持ちもあるでち。そこまで馬鹿じゃないでち」

「ふん。そうか。んで?その何か出来ることを俺にくれって訳か?ならアドバイスをしてやろう。お前らはまとまりすぎなんだよ。いや、まとまるのは良いんだがな。役割の分担があって、それぞれが自分のやるべきことを分かって、ひとつの群れとして動けなきゃ意味が無い。装備も同じ、出来ることも同じ、そういう連中がここまで集まる意味はあんまり無い。攻撃するヤツ、守るヤツ、そいつを分けることから始めるんだな」

「分かったでち!」


 そう言うと、仲間のところに戻っていった。どうやらあの中ではアイツが一番コミュニケーション力があるようだ。

 プギプギなんか言っているが、そもそも声が出てなさすぎて何を言っているのか分からん奴も多い。

 ミート、か。

 まあ、噂なり新聞なりでは聞いていたが、思っていたよりはガッツがあるのかもしれない。

 これならば、遠からず戦力としてあてに出来る時が来るかもしれない。


「そん時は、俺が助けられたりなんかしてな」


 埒もない想像に思わず笑いをこぼす。

 そうして俺は、自分の仕事を始めるのだった。


 ……。

 ……。


「って、おい!お前ら何度目だ!」

「怒らないで欲しいでち!あなただけが頼りなんでち!」


 なんとなくカッコイイ雰囲気で、じゃあな!って別れたかったのに、さっきからミートリーダー、略して肉リーが仲間のところに戻っては、疑問やら質問やら何やらを受け、それの答えを求めて俺のところにやってくる。

 

「ああ、もう!こうなったら俺が直接指示した方が早いじゃねえか!お前らちょっとそこに並べ!」

「アイサー!」

「……無駄にノリだけは悪くないんだな、お前ら」


 並んだ黒鎧の群れ。恐らくは格好は本社パンデモニウムのSHAFT(スペシャル・ヘビーアームズ・ フォース・チームだったか?)と呼ばれる魔王シャチョウ直属の特殊課を意識しているのだろう。……実力のほどは天と地ほどの差があるのだが。


「んじゃあ、どうせお前ら、実力なんてどんぐりの背比べだろ?はい、こっからそこまでで1チームな。そっからそっちが2チーム目。んでお前らが3チーム目。ホントはもっと細かく分けたいが、そうすっとあっという間に突破されそうだからな……んじゃ、1チーム目から順に名前はロース、ヒレ、バラな」

「僕たちは肉じゃないでち!ないでち!」

「るせー!逆らうならアドバイスは無しだ!」

「横暴!横暴!!横暴王子!!」

「待て!?今、王子とか言った奴、ダレだ!?」


 なんでこいつらが俺のアダ名を知っていやがるんだ……。

 と、思ったら、後で聞いたところ、掲示板に俺のスレがあるんだってさ……。

 へー。

 見たらショックで泣いちゃいそうなんで、探すのはやめておこう。どうりで変なOLさんが増えた訳だ。異動願で来てるんじゃねえだろうな?

 まだまだラッシュアワーは続く。パーティーで、時にレイド単位で走ってくるサラリーマンは多い。

 そこで、まずはひとつの作戦を授けた。

 まあ、ここでは基本中の基本ではあるのだが、そんなのでもミートたちにとっては新鮮な情報だろう。


 ロースとヒレでもってひとつのサラリーマンパーティーの邪魔をさせる。先を簡単な陣形でもって塞ぐ。

 こうすると、大抵対応はふたつに別れる。

 ひとつはそのまま戦って道を切り開こうとするパーティー。こういうのはネームドじゃなくても腕に自信がある連中だ。

 ミートたちには荷が重い。

 だから相手がやる気まんまんな時は剣は使わず、とにかく盾をしっかり構えて道を開けてやる。

 すると、サラリーマンの多くは先を急ぎたがるので陣形が緩んだ時点で勝手に突破していってくれる。

 もうひとつは突っかかってこずに、距離をあけて止まり、何事かを話し合うパーティーだ。

 これはもう単純に自信がない連中だ。

 荒事を避けたがり、決して無理はしない。時間がかかっても良いから無事に先に進めれば良いと考えている。

 狙うならば前者よりは、後者の方がミートたちにはやりやすいだろう。


「よし!足が止まったぞ!行け!」

「行くでち!ぷぎー!ぷぎー!」


 ここで気配を殺して柱の影に隠しておいたバラを投入する。

 後ろから追い立てるように。

 迫ってくるミートたちにサラリーマンたちが剣を抜いた。

 ここで走りだせばまだ抜け出せる目があるのに、迫ってくる相手にビビって足が完全に止まってしまっている。

 当然、これをロースとヒレが黙ってみているはずがない。

 完全な挟撃が成功する。


「でち!でち!」

「ぷぎー!?」


 ああ、これだけの数で囲んでも、全然片がつかないのな。

 ここに及んでも、お前が行けよ、いやお前が的にどうぞどうぞし合ってやがるし。

 その間にも、逃げ場がなくなったからこそ必死になったサラリーマンが剣を振り回し、それに怯んで逃げようとして逆に押し出される形になったミートがバシバシ叩かれている。

 ……本当に鎧だけは頑丈だな。それにしたって打撃ダメージは避けられないので、めちゃくちゃ痛いだろうが。


「ほら!これくらいでビビるな!ほれ!剣を構えろ!そうだ、じゃあ行くぞ!1、2の、3!」


 仕方ないでの合図をしてやる。

 どこかの子会社の現地農民に竹槍の使い方を教える気分だな……なんか。

 サラリーマンに動きがバレバレになるかもしれんが、これだけの数で囲んでいっせいに剣を突き出せば、避けられないのも出るだろう。

 ようやっとそれでパーティーの半分を負傷させ、次の合図で自信を持ったのか、全員を負傷させた。


「良し!上出来だ!じゃあ、これでなんとなくやり方は分かったな!……じゃあ、俺はこれで」


 手をあげて、あばよとばかりに立ち去ろうとして、しっぽを掴まれた。


「てめえ!どこ掴んでやがる!?」


 思わず抜刀して威嚇すると、ぱっと肉リーが手を離してホールドアップ。


「待って欲しいでち!まだ不安でち!先生にはまだ見ていて欲しいでち!」

「先生言うな。これ以上、アンタらの面倒を見る気ないぞ、俺は」

「そう言わずに!今日だけ!今日だけでちから!!」


 実際のところ、コイツらに関わったせいで、稼ぎ時たるラッシュアワーは半ばを過ぎている。

 今からでは良いポジションは取れないかもしれない。

 ポジション取りというのは早めに入り込んで他のパーティー見ながら調整しないと、負担が大きい過ぎる地獄ポジか、まったく営業ポイントが稼げないカスポジにしか入れない。

 実際、今の場所は営業ポイントが稼ぎにくいカスポジだ。

 それでもミートたちにはキツイようだが、俺にとってはカスも良いところ。

 うーん、どうすっかな。

 と、少しの間、考えて妥協案を出すことにした。


「じゃあ、近くにはいてやる。ヤバイと思ったらすぐに救援出せ。救援ってのは」

「それくらいは分かるでち!さすが先生でち!絶対でちよ!気づいたらいないなんて無ちでちよ!」

「ああ、はいはい、分かった分かった。じゃあ、ほれ、もっかい陣形組むところからやってみろ」

「アイサー!」


 こうして同じ営業エリアでしこしこと営業ポイント稼ぎが始まった。

 もういっかいだけ合図を出してやり、後は自分たちでやらせる。

 俺にしたっていつまでもミートたちの世話してやる義理も義務もやる気もない。

 ってか、明日は絶対にダッシュでコイツらのいないエリアに向かう。

 なんだかんだで営業は過酷なのだ。

 ノルマはあるし、ヘタすれば命を落とす。

 親みたいに頼れる存在が常に身近にいるとは限らない。

 負傷すれば足手まといになるし、死ねば絶対に自分を助けてはくれない。

 結局、自分自身が強くなるしか無い。

 ソロでもパーティーでも。

 ミートたちはおっかなびっくり営業ターゲットを選び、囲み、時に突破されながらも次第に形になっていった。

 頑丈な防具のおかげで、そうそう酷い負傷は負うことがないと分かったせいもあるだろう。列車の来るタイミングでターゲットが増減する波があることも分かったようだ。

 その頃には俺もある程度の距離を置いて、自分自身も営業ポイントを稼ぎ始めた。

 次第に距離が開き始めていたことには気付いていたが、特に連中も夢中になっていて気にしていないようだったので、俺もまあ良いかと思っていた。

 3人という少ないパーティーのサラリーマンを倒した時、俺は気がついた。

 ミートたちの姿がない。

 思わず見回し、黒鎧の群れがある場所に固まっているのに気づいた。

 アイツら、馬鹿か。

 調子に乗ったのか、階段付近に陣取っている。

 階段は狭くなっているので、確かに挟撃はやりやすい。

 だが、それは逆に自分たちが逃げにくいということでもあるのだ。

 列車の波の終わり間際でやって次の列車の波の時には抜ければ良いと考えているのかもしれない。だが、それも上や下で他の社員モンスターパーティーがどう位置取っているかでも変わるので、絶対ではない。

 壁役のOLやエリートリザードマンがどう動いているかで、いきなりただの波が津波にだってなるのだ。

 やめろと遠くから叫んで言うこと聞くのか分からないので、走り近づく。


「おい!馬鹿かお前ら!リーダーはどこだ!?」


 おんなじ格好でおんなじような背丈が並ぶので、ひと目では分からないのだ。

 問いかけると、ひとりが手を挙げた。

 その瞬間にたったふたりの襲いやすそうなサラリーマンが階段を上から降りてくる。

 それを見て、肉リーが合図した。


「今でち!」


 自信満々の目をしていた。

 俺に大丈夫、ちゃんとやれてるでしょ?と問うてくるような。

 ミートたちが襲いかかり、実際に問題なく負傷させる。

 俺はミートたちをかき分けるようにして、階段のちょうど真ん中にいた肉リーを捕まえる。


「今すぐ、階段から離れるぞ!蓋されたら全滅するぞ!お前ら!」

「大丈夫でちよ!今もちゃんとやれたでち!」


 多少なりとも形になったのが自信になってしまったようで、目には輝きがあり、もっと続けようという意志がはっきりと見えた。


「そう言う奴から死んでいくんだよ!いいから聞け!」


 ただの脅しじゃない。これは経験だ。

 だからこそ、真剣に言っているのだが、一度自分を信じるだけで疑わなくなった奴ほど厄介なものはない。

 自分を信じるってのは、同じくらいに自分を疑えなくてはならないってのが分かってない。


 言葉で分からないなら、ぶん殴るか。

 

 そう考えた時だった。


 下にいたミートが突如として倒れた。


 倒れた音に反応して見れば、ひとりのサラリーマンがいる。


 ぞっとした。


 両手に諸刃の剣。

 右手にロングソード。左手にショートソード。

 スーツなる珍妙なクロスアーマーはサラリーマンなら誰もが着ているそれだが、普通のサラリーマンと違うのは、両膝と両肘に硬そうなガードをつけている。

 手には黒い革手袋。

 サラリーマンにしては髪はやや長めで両耳が隠れている。

 そして目には殺気。


 コイツはヤバイ。

 何しろ俺はそいつを何度も見かけていた。

 そいつは肉食獣に例えられて、こう呼ばれている。


 咬殺動物チーター


 つまりはネームド。

 つまりは死の顕現。

 そいつがミートたちを、そして俺を見ていた。


 あ、これ死んだわ。


 自分でも嫌になるくらいに、あっさりと、まるで冗談を言うように、この時の俺は思ってしまった。


何番煎じなんだ……

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