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週末なにしてますか?

3/13 本社の名前をパンデモニウムに。ベタですが。ベタな方が良いのかと。

 サラリーマンが終末を迎えていようとも、こちらは関係なしに今日も出社ダンジョンだ。


「さあ共に逝くか」

「待て、なんでアンタがここにいる?」


 ってか、今なんか変な意味で言ってなかったか?

 いつものように渋谷駅に降り立つと、隣になぜか丸太を担いだ昨日のOLさんがいた。

 車内には確かにその姿はなかったのに。

 ……念入りに確認したのに。


「アンタではない。レティシアと呼ぶが良い。騎士が従者と共にいるのは当たり前ではないか」

「誰が従者だ」


 どちらかと言えばアンタには獣舎の方がお似合いだ。

 そもそも騎士に従者が付いていたなんて、いつの時代の話をしているんだか。

 封建制度なんてもう前前時代くらいの話で、今や資本による契約こそが全てだ。

 OLさんのレティシアという名前はどうやら恐ろしいことに本名らしい。OLオーガレディには実際、こうした嫌に乙女チックな名前の者が多いのだ。

 ガチムチなOLオーガレディに乙女チックな名前が付けられることを、一部では綺羅綺羅ネームなどと呼ばれ揶揄されている。どうせならもっと悪羅悪羅してる名前でも付ければ良いのに。

 実際に、OLオーガレディは幼少の頃には花が咲くように可憐で美しいらしいのだが、成人する辺りで角が生えてくると、殻を裂くようにガチムチになるとか。

 まったくもって恐ろしい。

 どうせなら古の子会社ダンジョンにいたというベンケイとかいう不撓不屈のアンデッドの名前でも付ければ良いのだ。

 ばかめ。

 昔、やったゲームのセリフを胸の内で呟きつつ、レなんとかさんの腕を見る。


「そういや腕はもう良いのか?」


 見れば特におかしな点は見られない。

 いや、昨日食事をしていた時点でも普通に酒をあおるのに使っていたから、そもそも大したことはなかったのか。


「出社するまえに医務に見てもらったからな。神経がちぎれかけていたが大事無い」

「いや、大事あるでしょ!?それ!?」


 そんな状態で普通に酒飲むな。アルコールで血の巡りが良くなってどうなるか分からんだろうに。

 まあ、医務に行ったのなら魔法でちょちょいと治してもらったのだろう。

 我が社の福利厚生はしっかりしている。

 余程の炎上案件に関わらなければ残業もないし。


「なあに心配するな。今まではひとりで戦い、そこで果てるのを潔しとしていたが、ハァ、共に歩む者が現れたからには無理はせぬ、ハァハァ。イザという時は、ハァ、この身を盾にしてでも、ハァ、お前は守る、ハァ」


 言ってることはカッコいいのだが、途中からハッスルしながら言うのはやめて頂きたい。

 何を想像しているんだ、お前は。

 露出癖にドMに中二病まで発症しているくさいな、コイツ。

 自分ひとりで楽しむ分には他人の趣味なので、とやかく言うつもりはないが、俺を巻き込むのはやめてほしい。

 よそでやりなさい。よそで。


「しかし余程の腕のサラリーマンでもいたのか?」


 片腕の神経をずたずたにするからには余程の腕の持ち主だったのだろう。

 ネームドと呼ばれるエース級のサラリーマンでも出たのだろうか?


「いや、あれはサラリーマンどもにやられたのではない。朝起きた時にうっかり酒瓶につまづいてな。あっと思った時にはツマミを切ったナイフやら皿やらグラスやら瓶やらが散らばっている床の上に」

「馬鹿か!?」


 いや、馬鹿だ!馬鹿がいる!

 それでは労災も下りないだろうし、そもそも医務でも治療拒否されてもおかしくなかったんじゃないか?

 もしかしたら治療目的で出社してバトって、体よく負傷したことにするつもり……いや、この脳筋変態オツムにそこまでの論理的思考力があるとは思えない。

 なんだか垣間見えてしまったコイツの汚部屋ぶりからも、戦闘力はともかく相当な駄目オーガであるのだろう。

 なんで俺はこんなのに関わってしまったんだか。


「ところでサラマンダイン」

「俺を名前で呼ぶな」


 馴れ馴れしい奴め。ファーストネームで呼ぶな。

 むしろ他人の振りをしてくれ。

 いっそ他人になってくれ。

 自分の丸太で頭打って記憶なくさないかな、コイツ。


「ではサラマンダイン」

「言い直してないじゃねえか」


 普通にロックモニターさんと呼べ。頼むから。

 いや、呼ばなくても良いからどっか行ってくれ。


「今日は3階層の銀座線まで足を伸ばさないか?」

「一緒に行くのは確定なのな」


 もはや拒否してもこいつは付いてくるだろう。

 なんならひっついてくるに決まっている。

 腕力で。

 まあ、いざとなればコイツはソロだし、俺もソロだ。

 同じ営業エリアで別々に営業ポイントを稼げば良い。

 しかし、銀座線というのは容易に了承はできない。

 いくらこの変態ドM露出癖が強靭なOLオーガレディであってもだ。


「なんかあるのか?」

「……いやない。だが私に囁いているのだ。必ずそこに行くようにと」


 変態友達でもいるのだろうか?などと疑ってしまったが、まあ要するにたまには気分を変えてみたいといったところだろう。

 しかし3階層の銀座線は社員モンスターにとっては最深層と言って良い。

 何しろ地上部分は未だサラリーマンどもの領域と言って良い。

 その分、営業ポイントは相当稼げるのだが、下手をしなくても囲まれ、あっという間に殺されかねない。

 逆に地下5階層の副都心線ならば羅生門線の駅にも近く、余程ホームに近づいて鉄道職員ガーディアンの逆鱗に触れなければ安心してポイントを稼げる。

 俺は主に地下3階層の半蔵門線付近を営業エリアに決めている。

 羅生門線にも近いし、何かあればフォローももらいやすい。

 ソロでやるのに無理は禁物だ。

 特に俺のようなただの平リザードマンでは。


「悪いがそりゃ無理だな。俺にそこまでの地力はない。行きたいなら他をあたってくれ」


 じゃあな、と言いかけて別れようと片手を挙げたら、がっしりとその手を掴まれた。

 ……ストーカーの気まであるんじゃないだろうな?


「必ずだ!必ずサラマンダインのことは守る!だから……ハァハァ」


 いや、ハッスルしだすな。

 マッスルがハッスルし出したら手に負えないんだぞ!

 ……ちなみに経験ではない。


「ああ、もう。分かったよ。だが、ゆっくりな。危ないと判断したらすぐに逃げる。悪いがそうなったら俺は本当にアンタを置いて逃げるぞ」

「さすが我が従者よ!」


 感激したのか抱きつかれた。

 チェインメイルがジャラジャラ頬に当たって痛いのでやめて頂きやがれ。

 こうして急遽危険エリアである銀座線目指して進みだした。

 終末でもあることだし、そうそう危険なネームドも出ないだろう。

 などという判断が、安易であると分かるのは、たいてい退っ引きならないところに踏み込んでしまってからなのだ。





 地下1階層までは楽勝だった。

 なんだかんだ言っても地下については勢力はある程度拮抗しているのだ。

 ここらまではピクニック気分でいける。

 途中、終末にも現れる謎のサラリーマン(終末はほとんどがガクセイやギョーカイジン?まったく違うクロスアーマーを着ているので、良く分からん)がいたので、さくっとレなんとかさんが打ち倒した。

 オレサマ ナニモ ヤルコトナシ。


「さて、こっからが本番だな」

「うむ」


 地下1階層から直接地上には出られない。

 いや、行こうと思えば行けるのだが、待っているのはこの世とのお別れだ。

 地上には鉄道職員ガーディアンだけでなく、末法マッポなる更に厄介な上級ガーディアンともいうべき悪魔が現れる。

 末法はすさまじいまでの剣術の使い手な上に、下手に近づくと投げられ、追い詰めると銃器を使う。引き金ひとつで、頭や心臓が一瞬で破壊されるというのだから恐ろしい。まさしく末法。そこに慈悲はない。

 昔、なんかの格ゲーで、飛び込めば当身投げ、離れれば飛び道具、倒すと崖から落ちて死ぬラスボスがいたが、まさしくあんな感じだ。

 あいにくとこっちは銃器は免許がないと使わせてもらえない。魔法には免許がいらないのに、銃器には免許がいるのは過度に新しい物を恐れるという本社パンデモニウムの悪しき習慣だ。

 どうせならさっさと社員総免許取得時代が来てほしいものだ。

 末法を倒せれば、ネームドを倒したのと同じくらいの営業ポイントが入るのだが、そんな自殺行為はしたくない。

 隣にいるレなんとかさんに教えたら、喜び勇んで言ってしまいそうなので、雑談でもそんな話はしないほうが良いだろう。

 数の多さと、硬い防御が厄介な鉄道職員とは違い、末法はひとりでもレイド相手に無双できるというのでスルーする以外に手はない。ましてやソロで挑めるはずがない。

 だからここで一度こちらの勢力圏である銃座線に入り、そこから銀座線付近に出る。

 現地人もそのセオリーを知っているようで、ここで待ち伏せされることも少なくない。

 いくつかのパーティーがガチャガチャ打ち合っているものの、ピンチな奴らはいないので気を張りながらも銃座線の改札を抜けた。

 改札を通るにはMACCAマッカという魔術符が必要だ。

 これは社員モンスターにしか支給されていないので、現地人が通れはしない……はずなのだが、倒され奪われた社員がいないとも限らないので、中に入っても油断は禁物。

 鉄製職員アイアンゴーレムに挨拶を交わして銃座線の別の出口に向かう。


「そうだ、一応、打ち合わせな。パーティー……をアンタと組むのに抵抗がない訳じゃないが、さすがにここから先はそんなこと言ってられないからな」

「なぜだ。サラ……」

「はいはいストップ。良いから、アンタだってパーティー慣れなんてしてないだろう?俺も似たようなもんだが、アンタよりは経験ありそうだからな。俺がここから先は仕切る。まず呼び方な」


 呼び方というのはパーティーを組んだら最初に把握しておくべきことだ。

 指示というのは端的に行われなければ、パーティーというのは生き残れない。

 指示で大事なのは、簡単に「誰」が「何」をするかだ。

 この「誰」を指示するのにも、端的であればあるほど瞬間瞬間の指示が出しやすくなる。

 戦場で長ったらしく呼び合ってる馬鹿はいない。

 ……という名目で、俺が望む呼び方をしてもらおうというだけなのだが。


「俺は……そうだな、リザードマンは俺ひとりなんだからモニターで良いか。良いな?」

「分かった、セイル」

「うん。分かってない」

「分かった、セイル」


 まあ、サラマンダインだの、サラマンデルだの、サラマンダリアだの、サラマンなにがしなんて名前の奴はリザードマンには多く、そしてその略称としてセイルというのも一般的ではある。

 しかし、なんでこの脳筋OLがそれを知っているんだか……。


「永遠の従者となるべき者のことならば、もっと知っておかねばと思って少し調べたぞ。モニターと呼ぶのはパーティーにリザードマンが複数いる場合には向かないというではないか。この先にはリザードマンが大勢いるのだ。やはりファーストネームの方が良いではないか」


 モニターというのはリザードマンにむちゃくちゃ多いファミリーネームだ。ロックモニター、ツリーモニター、ブルーテールモニター、その他なんちゃらモニターと、大抵モニターがつく。

 そんな余計なことは調べないで貰いたかった。

 何が悲しくて好きでもない相手に愛称じみた呼ばれ方せにゃならん。


「……今日のところは良いが、今日だけだぞ!良いな!分かってるな!」

「分かった、セイル」

「絶対、分かってない」

「私のことはシアと呼ぶが良い」

「絶対、嫌だ!」


 シアと呼んでくれと言うOLオーガレディの立ち姿を見る。

 軽やかな名前とは裏腹に、全身チェインメイルの筋肉ダルマ。

 本社パンデモニウムにいる重役(役職だけじゃなく身体も重い)のグレンデルさん(鋼の筋肉を持つ漢)の縮尺をちょっと変えただけのような重量感たっぷりの奴をなんでよりにもよってシアなんて妖精族めいた呼び方せにゃならん。

 ガガとかザザとかダダとかで良いだろ。

 あるいはリック・ドスとか。リック・ゾディアスとか。パーフェクト・ジ・ギャングとか。

 などとやり合っている間にももう出口。

 既に向こうではエリートリザードマンが斬り結んでいるのが目に入っている。


「良いか、今日だけだからな!」

「分かった、セイル」

「お前、さっきからそれしか言ってねえじゃねえか!」

「良いから、早く私を呼んでみろ」

「シ……死ぬ」

「違う」

「ぐ、シ、シア」

「良し、では行くか!」

「あ、待て、勝手に先に行くな!」


 改札を通り抜ければ、明らかに社員の姿は少ない。

 現地人の姿もそれほど多くはないのだが、それ以上に社員の姿が少ないのだ。

 恐らくは終末を利用して普段は来られない上の方に行ってみようと考えた者も多いのか、装備が違うのですぐにそれだと分かるエリートリザードマンだけじゃなく、パーティーを組んだ平リザードマンやOLの姿もある。

 一応、瀕死のパーティーはない。

 しかし、すぐに斬りかかれそうな現地人パーティーも見当たらない。

 ここで焦って営業ポイントを稼ぎにいくのは新入社員くらいのものだろう。

 武器を抜いて、油断なく周囲を見回していると、急にシ……シァが走り出す。


「ちょ、おまえ、まてよ!」


 俺の言葉がまるで耳に入っていないように、俺だけじゃなく、周囲のすべてのパーティーを無視して走りだしていた。


電車が来る度、現地人はポップします。それが地下鉄ダンジョン!

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