はじまり
ある年のこと。
4人の神様が相次いで死んだ。
村の人は言った。
神様とて不老不死ではない。
不老不死であるのなら、なんで『おはなし』の中の神様は、みんな白いヒゲを生やしたおじいさんなんだ。若い方が動きやすいだろう。
そんな『おはなし』を聞いた女の子は、興味深そうに目を輝かせていた。
神様を信じるその女の子は夢を持っていた。
「将来は素敵な男の人と結婚をして、子どもは男の子と女の子が1人ずつほしいな。それと庭付きのお家で――」
女の子の夢はどこまでもロマンチックに続く。
聞く者がいなくても、語りたい者がいる以上は、永遠に続く。
そんなどこにでもある、ありふれた夢を抱く女の子の話を聞いていた隣の家に住む女の子、メニィは鼻で笑った。
「そんな低い志でどうするんだか! あたしの夢はイケメンに囲まれて働かずに遊んで暮らしたい!」
そんなメニィの夢物語を笑う者はいなかったが、聞いている者もいなかった。
「メニィ、うるさい」
夢は神様にも母親にも聞き届けてはもらえないが、声の大きさだけは誰よりも大きかったため、母親には騒音として聞こえていたようだ。
「ごめんなさい」
「あんたはねぇ、畑仕事も手伝わないし、食事の用意も手伝わなければ、家畜の世話もしない。日がな一日部屋でだらだらして、あんたこそ婿探しでもしてきなさい」
「あたしはまだ結婚したくない」
「なら、仕事をしなさい」
「仕事はもっとしたくない。仕事をするぐらいなら隣の家のメルヘン少女のことをバカにするのをやめる」
「……あんた、ひねくれ過ぎよ」
はあ、と肺の中の空気をすべて吐き出してしまうような深いため息。
「わかったわ。じゃあ、仕事じゃなくてお手伝いをしなさい。それぐらいならできるでしょう?」
仕方なく、メニィは母親に連れられて台所で包丁を持つ。
「芋の皮を剥いて」
メニィは包丁を不器用に動かし続けると、左手の中の芋が跡形もなく消えた。
「次は人参の皮むきね」
メニィが包丁を不器用に動かすと、またしても左手の中の人参が消える。
「お母さま、あなたはあたしを過信しすぎている」
母親は言葉を失った。
性格がひねくれて友達がいない。
畑仕事もしない。
料理も満足にできない。
婿をとって嫁ぐ気もない。
ひきこもりすぎて体力もない。
「確かにこの村には自然以外なにもないけれど、その中でも、あなたは断トツよ」
「そんな褒められてもなにも出ませんよ、お母さま」
ひっひっ、と怪しく笑うメニィを不憫に見つめて、またため息を漏らす。