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よく似た別人? 1

 市場が立つ日になり、私はシャーウさんと第二広場の入り口で待ち合わせ、合流するとその中へと足を踏み入れた。

 この市場は主に色々な街や村、果ては他の国々までを巡る流れの商人さんが中心となって露店を出す市だそうで、各々の店には様々な商品が並んでいた。

 特に急ぐ理由もない為、私とシャーウさんはそれらを覗きながらゆっくり歩く。


「う~……綺麗な布とか糸とか……裁縫に使えそうな物がいっぱいある……。ああ、そういえば、綿にばかり思考がいってたけど、裁縫道具とかも揃えなきゃ……。うぅ、それにしても、誘惑材料が本当に沢山あるよ~……。散財するわけにはいかないのにぃ」

「あはは。確かに、市場に来ると色々と誘惑されるね。まあ、許容できる金額を決めて、その範囲内で散財するといいと思うよ。布や糸を買うお金なら、君にとっては必要経費のうちに入るだろう?」

「ああ、はい、そうですけど……う~ん、じゃあ、どうしても目を引かれた物だけ、買おうかなぁ……」

「うん、そうするといい。荷物は俺が持つよ。あっ、あれ、いいな。ごめん、あの店ちょっと覗かせて」

「あ、はい」


 こうしてそれぞれに目を引かれた物を購入しながら、私達は混み合う市場を、順に回って行った。

 そうして進んで行くと、急に、それまでとは変わって、がらりと人があまりいない場所へと出た。

 その差に一瞬違和感を覚えたけれど、そこから先に建ち並んでいるお店を見て、納得した。

 どうやら、今日の目的の場所に、来たらしい。

 そこから先には、大きな檻が一定の間隔を開けていくつも並び、その前に、いずれも癖のありそうな感じの商人さんが立ち、或いは椅子を置いて座っている。

 ……シャーウさんについてきて貰って、良かったかもしれない。

 この世界の常識にまだ疎い、たかが十六歳の小娘でしかない私では、この癖のありそうな奴隷商人さん達に上手く言いくるめられて、あっという間に高値で奴隷を買わされていたかもしれない。


「……ユイちゃん……。……大丈夫だよ? 何も心配いらない」

「えっ?」

「手」

「手……? えっ、あっ!? ご、ごめんなさい!」


 私は無意識にシャーウさんとの距離を詰め、その服の裾を握ってしまっていたらしい。

 シャーウさんからの指摘でその事に気づき、慌てて手を離した。


「別に謝る必要はないよ。寧ろ役得だから、不安なら裾じゃなく腕に掴まってくれて構わないよ?」

「えっ、で、でもっ」

「ほら、どうぞ?」

「うっ……そ、それじゃあ、お言葉に甘えて……。し、失礼します……」

「うん」


 シャーウさんからの優しい申し出に甘える事にした私は、差し出されたシャーウさんの袖を遠慮がちに摘まんだ。

 途端にちょっと顔の温度が上昇した気がするけれど、そのまま再び歩き出す。


「……さて、どの店にするべきかな……」

「………………」


 今まで聞いていたよりも低く、そして固い声で呟いたシャーウさんは、魔物と戦っている時のような鋭い視線で、奴隷商人さん達の店を見回しながら歩いている。

 そんなシャーウさんについて歩きながら、私も視線だけをお店に向けていった。

 そうしてしばらく進んでいると、ふいに、目に入った何かに引っ掛かりを覚えて、私はもう一度そちらに視線を向ける。

 何に引っ掛かったんだろう、と内心首を傾げながら、その中、奴隷達がいる檻の中を、まじまじと見る。


「……え、あ……あっ? あれっ?」

「ん……? ユイちゃん? どうかしたかい?」


 袖を引っ張られた事で足を止めた私に気づいたらしいシャーウさんが、不思議そうに私に声をかけてきた。

 けれど私はそれに答えず、檻の中を凝視し続ける。

 檻の中の、その端っこ。

 前に立つ奴隷の人の後ろに半ば隠れるように立つ、一人の少年。

 癖のない真っ直ぐな銀の髪に、澄んだ海のような碧の瞳。

 記憶にあるその姿よりは随分と痩せこけ、纏っている衣服もあまり質がいいとは言えなさそうではあるけれど、目に映るその姿は……遡ること数ヵ月前、友人に勧められ初めてプレイしハマった乙女ゲームの攻略対象者の少年、そのものだった。


「ど、どうしてここに……って、ま、まさか……!?」


 まさかこの世界は、あの乙女ゲームの世界だったのだろうか?

 異世界召喚という事態でさえ、とあるネット小説では既にお馴染みの展開だったのに、その上更にその異世界が乙女ゲームの世界だったなんて……。

 ……あれ、でも、あのゲームにシーアブルクなんて国出てきたっけ?

 それにあのゲームは学園もので、高い魔力を持った女の子が、貴族が多く通う学園に入学して、そこで出会う素敵な男性達と恋をするっていうゲームだったはず。

 その学園がある国の名前は……あ、そう、そうだ、確か、ハーデンルークだ!

 そして、檻の中にいる彼の名前は、ラオレイール・ハーデンルーク。

 ハーデンルークの第二王子殿下で……って、あれ、どうして王子殿下が奴隷になって、檻の中に?

 彼が奴隷になるなんてエンディングは、バッドエンドにもなかったよね?

 という事は……あの少年はただのよく似た別人であって、この世界もあの乙女ゲームの世界というわけではない……?


「ユイちゃん、ユイちゃん? どうしたんだい?」

「あっ……! ご、ごめんなさいシャーウさん。…………。……えっと……」

「……。……そこの檻に気になる奴隷がいるのかい? なら……すまない、ちょっと奴隷を見させて貰えるだろうか」

「えっ、シャ、シャーウさん……!」


 檻の中の少年を見つめながら思考に沈んでいた私に声をかけ、その視線の先を探ったらしいシャーウさんは、私の視線の意味をどう捉えたのか、その檻の前にいる奴隷商人さんに声をかけてしまった。


「へい、どうも、いらっしゃいませ。どの奴隷をお見せ致しやしょう?」


 声をかけられた奴隷商人さんは、わかりやすい愛想笑いをその顔に張り付け、近づいてきた。

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