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出店する為に 3

本日二度目の更新です。

 翌日、私は役所へ足を運んだ。

 王太子様に貰ったお金を預けている部署、ゴールドストックというらしいその場所へ行き、もう一度財産をしっかり把握して計画的に使用していく算段を立てなければならない。

 この世界のお金は、全て硬貨で、紙幣はないらしい。

 その硬貨は色分けされていて、その色で、金額の単位が違うとの事だった。

 各硬貨を日本のお金に当て嵌めて考えてみると、その額は次の通りだ。


 茶硬貨  一円

 赤硬貨  十円

 緑硬貨  百円

 青硬貨  千円

 白硬貨  一万円

 銀硬貨  十万円

 金硬貨  百万円


 確認したところ、私の財産は、金硬貨二枚に銀硬貨五枚、白硬貨七枚がゴールドストックにあり、青貨八枚が財布の中にある。

 王太子様は、要望を伝えに言ったあの時、白硬貨三枚を私に持たせてくれた。

 私はその中からここラナフリールに来る為の乗り合い馬車代と、しばらくの宿代と、シャーウさんを雇った依頼料を出している。

 食事は三食宿で出るし、迷宮へ行った昨日の昼は、昼食の事をすっかり忘れてた私に呆れながら、シャーウさんが自分の分を分けてくれたから、今のところ、ギルドの酒場での飲食以外、食事代はかかっていない。

 さて……私の現在の財産は、二百五十七万八千円、と。

 シャーウさんを雇った依頼料、つまりギルドの護衛兼同行者の一日の依頼料が白硬貨一枚だったから、これから毎日ギルドを利用するなら毎日一万円ずつかかるという事かぁ。

 今朝宿を出るとき宿の人に声をかけられて、『明日もまだ泊まるなら、明日もう一度白硬貨を一枚支払って下さい』って言われたから、白硬貨一枚で三泊できるという計算で……ええっと~……。

 ……だ、駄目だ……この計算だと、そう遠くないうちに綺麗さっぱり無くなる気がしてならない……。

 まあ、宿代は自宅兼店舗が完成さえすればかからなくなるんだけど……でも毎日の依頼料がなぁ……。

 やっぱり何か他の方法を考えなくちゃ。

 そんな事を考えながら、ゴールドストックを後にし、役所の中をトボトボと歩いていると、ふいに視界の端に、とある表示が映り込む。

 次の瞬間、私は勢いよくその表示を振り返った。

 その表示には、"住民何でもお悩み相談どころ"と書かれている。


「……何でもお悩み相談どころ……。……な、何でもって事は、どんな事でも相談して、いいんだよね……?」


 私はそう呟くと、今の自分に渡りに船なその場所に、迷う事なく飛び込んだ。

 その部屋は衝立のような仕切りで三つに仕切られていて、それぞれに一つずつ椅子が置かれ、その向かいに机を挟んで相談員が一人ずついるようだった。

 三つのうち二つには既に相談しに来ている人が座っていたので、私は残りの一つのスペースに向かう。

 仕切りの中に入った瞬間、ふわりと何かを通り抜けたような感覚を感じた。

 それと当時に、私の周囲から一切の音が消える。


「こんにちは。よくいらっしゃいました。どうぞお座り下さい」

「あっ……は、はい」


 私は机を挟んだ向かい側にいる、初老の優しそうな女性に促され、椅子に腰かけた。

 この女性の声は問題なく聞こえるという事は、もしかしたらここに来た人の相談内容が漏れないよう、この三つのスペースにだけ防音か何かの魔法がかかっているのかもしれない。


「それでは早速ですが、貴女のお悩みを聞かせて戴けますか?」

「あ、はい、あの……。わ、私、この街にお店を開く予定なんです。でも、そのお店の商品にする物を作る為の材料のひとつが、魔物が落とすアイテムで……でも私には戦う事ができなくて、護衛を雇わなければいけないんですが……その。資金の問題があって……。……何か、できるだけ安く済むいい方法はないかなって、悩んでまして」

「……あら……」

「え?」


 私が悩みを打ち明けると、女性は驚いたように軽く目を見開いて、じっと私を見つめてきた。

 な、何か、そんなに驚くような事を言っただろうか?

 私が戸惑って視線をさまよわせていると、我に返ったのか、女性が再び口を開いた。


「ああ、ごめんなさいね。失礼しました。貴女くらいの歳の女の子だと、相談内容は恋の悩みか、ご両親やご兄弟と喧嘩して気まずい、という悩みのどちらかだから……予想外の内容に、ちょっと驚いてしまったの」

「あ、ああ……なるほど、そうでしたか」

「ええ。……けれど、そうね。貴女のお悩みの解決策なら、既にあるわ。過去に幾度か、似たような相談内容の前例があるの」

「えっ、か、解決策が、既に!? そ、それは、どんな方法ですか!?」


 女性から告げられた思いがけない言葉に、私は机に手をつき、つい前のめりになって身を乗り出して尋ねた。

 すると女性はくすりと笑って、また口を開いた。


「二日後に、第二広場に市が立つわ。そこに奴隷商人が何人か来るから、腕の立つ奴隷をお買いなさい。その時は結構な出費となるけれど、その後は一切お金がかからないわ」

「えっ……」


 その言葉は、衝撃だった。

 奴隷商人に、奴隷。

 こ、ここは、役所のはずだよね。

 役所といえば、公的な施設の筈で……そこで働く人が、さらりと『奴隷をお買いなさい』なんて言うって事は、それは、つまり……ど、奴隷を買う事は、公けに認められているの……?

 な、なんて恐ろしい……。


「……か、考えてみます……ありがとうございました……」


 私はそう言うとふらりと立ち上がり、そのままどこかおぼつかない足取りで、その場を後にした。


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