出店する為に 1
王都から馬車で半日ほど走った先に、私の住居兼店舗となる建物がある街、ラナフリールはあった。
着いて早々、大通りにあった宿屋に宿を取ると、私は住所を頼りに自宅兼店舗となる建物を見に行って……唖然とした。
『あちこち傷んでいるから修繕が必要』だとあの王太子様は言っていたのに、その建物は何故か取り壊されていて瓦礫の山と化していた。
慌てて作業をしていた人に声をかけて聞くと、『最早修繕より建て直したほうが早い状態』だったらしく、現地の判断で新しく建て直す事になったらしかった。
既に王太子様に報せはいったらしいが、私がさっさとお城を出てきたせいで、王太子様はそれを私に伝える事ができなかったんだろうと思う。
まあ、修繕が建て直しに変わったところで、私には特に問題はない。
安心した私は作業員さん達に『よろしくお願いします』と頭を下げて、街を見回る事にした。
これからずっと住む街だ、どんな所か、自分の目でちゃんと見ておきたい。
私は意気揚々と、陽が落ちるまであちこち見て回ったのだった。
★ ☆ ★ ☆ ★
「……信じられない……」
その日の夜、宿屋の自分の部屋に戻った私はベッドの上に腰をおろして、項垂れていた。
私は、自宅兼店舗が完成したらオープンさせるお店の為に、ライバルとなるであろうお店のチェックを、街を見回るついでにする……つもりだった。
けれど、どの店を覗いても、どこを探しても、ヌイグルミや人形の類いが見つからなかった。
……いや、正確には、人形はあった。
私に言わせれば、それらは"人形らしきもの"でしかないけれど、この世界の人々には人形だというものが。
この世界でいう人形とは、木や石を彫ったり削ったりして色を塗ったり顔を描いたりしたものを指すらしい。
その事に衝撃を受けながらも、私が『え、ヌイグルミはないの? 綿ってどこで手に入りますか?』と聞くと、返ってきた答えは『え、ヌイグルミとか綿って何?』だった。
その言葉に目の前が真っ暗になり、私は絶望の中なんとか足を動かし、トボトボと宿屋へと帰ってきたのだった。
「どうしよう……まさか、綿がないなんて予想外すぎだよ……。綿がなきゃヌイグルミが作れない……雑貨屋は諦めて、他のお店にする? ……でも、他に私に何ができるだろう……。……料理、は、普通には作れるけど、レパートリー少ないし、何より商品として出せるほど美味しく作れないし……こ、困った、どうしよう~……っ。わ、私にできること、私にできること~……!」
私は頭を抱え、何度もその言葉を口にする。
そしてふいに、昨日見た自分のステータスを思い出した。
「そうだ……スキル! 人形変化と、幸運の拾い物……!!」
幸運の拾い物のスキルを使えば、もしかしたら、綿を手に入れられるんじゃ?
そして人形変化のスキルを使えば、魔物を生きたヌイグルミにできるから、きっと一人でも人形劇ができる。
ちょっと恥ずかしいけど、広場とか、公園とか、人が集まる所で人形劇をやれば、ヌイグルミに馴染みがないこの世界の人達にヌイグルミを知ってもらえるし、お店の宣伝もできる!
試してみる価値は、あるかもしれない!
「あ……でもそれには、魔物と戦わなきゃいけないんだよね? 私には戦闘経験なんてないし、できればしたくない……う~ん……ギ、ギルドで冒険者さん雇って、戦闘はお任せしちゃ駄目かなぁ? 確か大通りに、ギルドあったよね……。……ああでも、綿を入手しに行く度に冒険者さん雇ってたら、赤字になる可能性も……。……うぅ~ん……ええい、いいや! とりあえず明日は冒険者さん雇って綿が手に入るかどうかを確かめよう! 他の問題はそれがはっきりしてからだ! 焦らずひとつずつ片づけていこう、うん!」
綿入手にささやかながらも希望を見出だした私は立ち上がり、握りこぶしを作って、決意を新たにしたのだった。