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ラオレイールの実力 2

 迷宮の入り口である扉が見える位置で、魔物が現れるのを待ち構える。

 まだその影も形もないけれど、ラオレイール君は既に剣を構え、通路の先をじっと見据えて、臨戦態勢に入っている。

 ただし、その体は絶えず小刻みに震えているけれど……。

 う~ん、大丈夫かなぁ……。

 現れる魔物は弱いだろうとわかっていても、この状態のラオレイール君を一人で戦わせるって、はたから見たら私、鬼だよね……。

 ちょっと申し訳なく思いながらラオレイール君を見つめていると、ふいにその体がびくりと大きく振動した。

 あ、もしかして?

 その様子にピンときて、通路の先に視線を向ける。

 するとそこにはやはり魔物が出現していた。

 まん丸の青い体をプルプルと上下に揺らしながら、こちらに向かってくる一匹のスライム。

 ああ、この魔物(スライム)が相手なら大丈夫かな。

 そう思ってちょっと安堵しつつ、私はラオレイール君に視線を戻して……ぴしりと固まった。

 なんとラオレイール君は体の震えを強めていて、スライムを見据える目には明らかに涙の膜が張っている。

 え……スライム一匹でも、怖いの?

 ど、どんだけ根深いの、ラオレイール君の心の傷……。

 どうしよう、これじゃあやっぱり一人で戦うのは無理かなぁ?

 今日はこのまま何もせず帰って、恐怖心が薄れるまで、またギルドに依頼を出して冒険者さんに来てもらう?

 入り口付近で弱い魔物を倒すだけなら、金額を下げて冒険者さんの質を下げても、問題はないだろうし……。

 涙目で震えるラオレイール君を見ながらそんな事を考えていると、ふいにラオレイール君が私を見て、小さく口を開けた。

 あ、やっぱり無理ですとか、言われるのかな。

 まあ、この様子じゃ仕方ないかな……。

 そう思って苦笑するも、しかし次の瞬間、私の耳に入ってきた言葉は予想外のものだった。


「……俺は、大丈夫……俺は、大丈夫……ユイ様の、ユイ様の役に立つんだ……俺は、大丈夫……っ」

「え」


 ラオレイール君が口にしたその内容に私が驚いて目を開くとほぼ同時、ラオレイール君はスライムに視線を戻し涙目のままキッと睨むと、剣を強く握り締めて駆け出した。


「うわあああああああっ!!!」


 ラオレイール君は悲鳴にも似た叫び声を上げながらすぐにスライムとの距離を詰めると、握り締めている剣に炎を纏わせ、それを振りおろした。

 炎を纏った刀身はスライムを真っ二つにし、分断したその体を瞬く間に焼きつくした。

 それにより舞い上がった熱気は少し離れた場所にいる私の元まで伝わり、じわりと空気が熱くなる。

 スライムが跡形もなく消えると、後には炎の残り火と、はあはあと息を乱して立っているラオレイール君、そしてスライムのドロップ品である薬草とぷにぷにする謎の青い玉が転がっていた。

 ……これは……ラオレイール君……全力でスライムに立ち向かったんだね……。

 恐らく魔物の中で最弱であろうスライム相手に、全力で倒しにかかる護衛……かあ……。

 ま、まあ……数をこなせば、きっとそんな事もなくなるよね、うん。

 今見た通り、やっぱりラオレイール君は、実力はあるんだし……トラウマさえ乗り越えてくれれば、心強い護衛になる事は間違いない。

 ここは、長い目で見守ろう。


「ラオレイール君、お疲れ様。無事に倒せたね、やったね!」

「………………」

「? ……ラオレイール君?」


 ラオレイール君は私の言葉に答えず、ただぼんやりと残り火を見つめている。

 ど、どうしたのかな?


「ラオレイール君? 大丈夫……?」

「…………ユイ様。俺は……魔物を、倒せたんですか……?」

「え、うん、そうだよ? やったね!」

「…………。……う、うぅっ……! ユイ様……っ!」

「えっ! ……あ~……ほ、ほら、泣かないで? 倒せて良かったね、ラオレイール君。よく頑張ったよ、うん」


 ぽつりと呟くように問われた質問に頷いて肯定を返すと、ラオレイール君はようやく私を見て……次の瞬間、あろうことか私に抱きつき、また泣き出した。

 その事に一瞬驚いたけれど、私は引き剥がす事をせず、そのままポンポンと、宥めるようにラオレイール君の背中を優しく叩いた。

 気分は手のかかる弟をあやす姉のそれである。

 ……まあ、全くドキドキしないと言えば、嘘にはなるけどね……。


「ラオレイール君。とりあえず、今日の"まずは一匹倒してみる"って目標は果たしたし、落ち着いたら今日はもう、街に帰ろうか」

「! …………い……いえ、あと一匹……いえ、二匹、倒します。……倒せる可能性がある事は、今ので……わかりましたから」

「え? で、でも……大丈夫?」

「……はい。……ユイ様の欲しい、綿……入手できる可能性、少しでも……増やしたいです。だから……頑張ります」

「あ……。……ありがとう、ラオレイール君。嬉しいよ。でも、無理はしないでね?」

「……はい」


 『綿入手の為に頑張る』というラオレイール君の気持ちが嬉しくて、私が自然と笑顔になると、それに釣られたのか、ラオレイール君は泣き笑いのような表情になった。

 その後、ラオレイール君は宣言通り、また出現した青いスライムと、角の生えた茶色いウサギのような魔物をこれまた涙目になりながら倒してくれた。

 この日はやはり綿の入手はできなかったけれど、茶色いウサギのような魔物が毛皮をドロップしたので、毛皮で作れる商品を、何か考える事にした。

 毛皮のファーに、手袋に、ラグなんかもいいな。

 色々と使えるから、今後は毛皮も、集めようかな。

 あ、スライムがドロップする薬草を使って薬草クッキーとか、乾燥させたあと細かくするか粉にして薬草のお茶っ葉として売るのもいいかも?

 ああでも、まずはそれが美味しいかどうかを試食してみないといけないな……。

 ラオレイール君も、涙目だし、体も震えてるし、無駄に全力を出すけど、どうやら一人でも頑張って戦ってくれるようだし、後は店舗さえ完成してくれれば、出費はぐんと抑えられる。

 まだまだオープン前に色々とやらなきゃならない事は多そうだけど、ラオレイール君の頑張りに負けないように、私も頑張らなくちゃね!

スライムの謎の青い玉も何かに使えないかと考えてみましたが、ろくでもない事しか思い付きませんでした……。

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