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咆哮。傷つきたいのはお前か。  作者: 片埜 モリ
9/15

望み

二人ともすでに寝入ったのだろう。

物音しないリビングにこっそり入り、キッチンの冷蔵庫からよく冷えた炭酸水のペットボトルを出した。

佳也は積み上げられた洗濯物を脇にどけ、ソファに腰を下ろす。


テレビをつけ音量を最小にする。気になっていたサッカーの試合は幸いまだ試合途中だった。

しばらく見入ってると、突然リビングのドアが開き、昔は最愛、今最悪の妻・朋実が入ってきた。

テレビの前で仁王立ちする。


「いいご身分だね」


佳也はため息をついてテレビを消した。黙って炭酸水をあおる。


「いいご身分だね。勝手に出てって、いつ帰るか連絡もしないで。好きに酒飲んで、帰ったらテレビ見て」


やれやれ。またかよ。


「忙しいのはわかるけど、一日位早く帰って、優姫の相手してくれてもいいんじゃないの?そんな酒飲む暇があったら」


めんどくさい。

佳也は立ち上がった。

朋実がキレる。


「そうやってすぐ逃げる」


見ると目からダラダラ悔し涙を流している。


「一体なんなの?何がしたいの?そうやって無視して逃げ回って。どうするつもりなのよ。このままでいいの?」


別に何をどうしたいわけじゃない。

ただ、静寂が欲しいんだ。

家に帰ってほっとしたいんだ。

くつろぎたいんだ。

そんなことを言っても鼻で笑うだろ、どうせ。

お前にそんな権利は無いとばかりに。


「何か言ったらどうなのよ!」


ただ静寂が欲しいだけ、それだけ。


「ねえったら。何か言え、馬鹿!」


佳也は無表情に言い放った。


「うるさい」


カバンを持ち靴を履いてマンションの廊下に出る。

後ろで玄関のドアが閉まると、荒々しく鍵を締める音とかすかに泣き声がした。


佳也の求める静寂はこの家には無さそうだった。


今夜もネットカフェか。

エレベーターのボタンを押しながら、佳也はふと茉依花の顔を思い出していた。



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