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咆哮。傷つきたいのはお前か。  作者: 片埜 モリ
4/15

残像

「松崎くん」


松崎宗太が振り返ると、旧姓原田菜摘が酒のグラスを持って立っていた。


一年ぶりの中学のクラス会。

後半とはいえ、まだ二十代の若者の集いはそれらしく居酒屋を騒がしくしていた。


菜摘はさっさと松崎の隣に座ると目の前の唐揚げをつまみながら、


「で、あれからどうなったの?」


と聞いてきた。

彼女の言う「あれから」が、一年前のクラス会の3次会のその後、を指しているのに気づくまで、松崎はやや時間を要した。

松崎が口ごもっていると


「なにしてんのよ」


何かのサワーらしいものをぐいっとあおり、菜摘が背中を叩いてきた。


「相変わらずだね。元気?」

「私の話はいいのよ。もう二人できあがってるかと思った」

「できるって?」

「だから。くっついたと思った」


いやいやと呟き、松崎は煙草に火をつけようとして聞いた。


「煙草いい?」

「嫌だけどいいよ」


ごめん、と謝って、松崎は煙草に火をつけた。菜摘のペースに巻き込まれたくなかった。

菜摘は更に唐揚げに手を伸ばすと、なんでよ、と呟いた。


「いい雰囲気だったじゃん。あたし、これは完全にいったなと思ったよ」

「いい雰囲気だったよ。途中まではね」


アイツには会社に気になる男がいるみたいなんだ。

41のオッサンで既婚者で、奥さんとラブラブで娘可愛くて、家庭第一の男らしい。

そんなオヤジになぜだかアイツは夢中なんだよ。


他人の個人情報を話すのは気が引けたので、松崎は苦笑いしながら煙草を吸うことに勤しんだ。


ふと茉依花の声が脳裏をよぎった。


それでも好きなんだよねえ、その人のこと。ソウちゃん馬鹿だと思ってるでしょ、私のこと。既婚者のオヤジ好きになるなんて。馬鹿なの。諦めきれないんだあ。

だから狙ってるの。その人が奥さんと仲悪くなるときを。狙って一気に既成事実に持ち込む。


あ、本気にした。うそうそ。んなこと考えてません〜。

うそうそ。

うそうそ。

うそうそホント。


「そんな男忘れろよ。俺がいるじゃない」


ありったけの勇気を振り絞って言ったつもりが、冗談にしか聞こえない自分の声がうらめしかった。

茉依花は笑ってまるで本気にはしてないようだった。


うそうそ。

うそうそ。

うそうそホント。


茉依花は歌うように呟いていて。楽しそうでもあった。


「え?なにい?」


菜摘が周囲の喧騒に負けじと声を張り上げた。

我に返った松崎はあわてて煙草を揉み消して、ついでに茉依花の残像も頭から振り払った。



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