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咆哮。傷つきたいのはお前か。  作者: 片埜 モリ
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朋実はいつものように5時に起きた。

まだはっきりしない頭のまま洗濯機を回し、洗面所で顔を洗う。

優姫はぐっすり寝ているのだろう、子供部屋からは何の物音も聞こえてこない。

新しいタオルで顔の水分をとり、化粧水と乳液で肌を整え、日焼け止め効果のあるBBクリームを塗り、軽く眉を描いて、素早くメイクを終わらせた。

思いついて自分のスマートフォンを寝室に取りに行く。

お気に入りのグリーンのiPhone5cは角に傷が目立つ。

先月、夫と喧嘩したときに思わず投げてできた傷だ。

落下場所が良かったのか電話機そのものは壊れずにすんだ。

その夫とのLINEは朋実からのコメントが既読がつかないまま放置されていた。


「何時に帰ってくるの」


疑問符も絵文字もないそっけない文字の羅列。

ここのところの朋実夫婦の仲をずばり表していた。


LINEでコメントを送るのは専ら朋実だけで、夫の佳也が返事を返すことはほとんどない。

最もLINEというアプリケーションソフトが存在しない時代、まだ朋実と佳也の間に温かい繋がりがあった頃も、朋実が送ったメールに佳也が返事を返すことは稀だった。

多くの場合、佳也はすぐに電話をかけてきていた。

どんな些細なことでも。

朋実の声が聞きたいんだ。

そう言ってた。


夫婦の仲が氷河期を迎えてから、佳也からの電話は途絶えた。

そうは言っても同じ屋根の下に暮らしているので、毎日佳也は帰ってきていたから朋実は電話について深刻に考えたことは無かった。

考える余裕も無かった。

専業主婦の朋実は幼い優姫の世話と自治会の役員と幼稚園のPTA活動と、毎日のように行われる幼稚園のママ友同士の「お呼ばれ」に忙殺されていた。

変に融通の効かない性格のせいで様々な用事を抱え込むはめになり、そのしわ寄せは全て家庭に押し寄せるという事態になっていた。

その頃から佳也との仲が怪しくなってきたのだが、それすら朋実にはよくわかってなかった。

彼女は彼女で夫の家事手伝いが足りないと大いに不満を持っていた。

不満を口にも出し、態度にも出した。

彼女のスマートフォンが宙を飛んだのはそういった事情だった。


スマートフォンに命を狙われたせいかどうか、帰りの遅かった夫が一日起きにしか帰らなくなった。

朋実は子どもっぽい振る舞いだと気にも止めなかったが、無断外泊が4回目になったあたりで流石に問いただした。


「まさか女のところに行ってるんじゃないでしょうね」


朋実の言葉に佳也は真底軽蔑したような眼差しを彼女にくれただけだった。


本当に浮気してるんだろうか。


卵焼きを作りながら朋実はぼんやり考えた。

優姫に持たせる弁当のおかずだ。


綺麗に焼き上がった卵焼きを皿に乗せた瞬間、玄関ドアに鍵を差し込む音と共に佳也が帰ってきた。

振り返った朋実と一瞬目が合ったが、何も言わず寝室へ入る。

着替えをしているようだ。


「遅いじゃない」

「会社に泊まったの?」


「そうですけど、何か」


何の感情も無い声を残して、佳也はすぐに家を後にした。


朋実は怒りを押し殺していた。


何あれ。何なのあれ。


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