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act.1
「もう春だね」
「そうですね」
車を運転している男の言葉に後ろへと流れていく景色を眺めながら生返事で返す。
今は人の話を聞いていられる程の余裕は無かった。
それも当然だ。
俺は今、流刑地に流されに行っているようなモノだから。
隣を見ると長い移動に疲れたのか夏希がゆっくりと寝息をたてながら静かに眠っていた。
「夏希ちゃんも疲れているようだね。純君も一眠りしたらどうだい?向こうに着くまでもう少し距離があるから」
「自分は大丈夫です」
__誰の所為でこうなってると思ってるんだよ__
なんて言葉が口から出そうになったけれど、すんでのところで我慢した。
大丈夫。今はまだ我慢だ。
そう自分に言い聞かせ、また窓の外へと意識を移した。