エピローグ
エピローグ
放送を見て、宮本は「ヨシッ」とガッツポーズをした直後すぐため息をこぼす。
「お店の紹介、まごころデコレイツ、真悠さんのお店、どれも良かったなぁ」
でもため息。
「僕のシーン全カットとかヒド過ぎる」
その代わり、梓とミヅキこと智美のケンカや真悠が転んだ所等、カットしそうな所まで放送している。
「いいよ。僕は主人公じゃないし、クロジナイトで充分だよ」
ふて腐れながら宮本は、録画した番組を再生。
放送してから次の日。宮本はドキドキしながら商店街へ向かう。
ちなみに昨日は本放送込みで四回番組を見ている。その後、ネットで話題になってないかと検索エンジンで「もだん花鳥風月」「まごころデコレイツ」「まごころ商店街」で検索。
ルンブログ
「隠してたんだけど、二ヶ月前からマユさんとアズさんで、一緒にアイドルしよーって練習してましたー。イロイロ大変だったけど(中略)もし、マユさんのお店に行った事ない人は、ゼッタイ食べに行ってね☆ 後、マユさんとアズさんのおっぱいばかり見たら許しません」
ミヅキブログ
「ニッポン元気なトコ特集~まごころ商店街編を見て、アクセスしてくれてありがとう。アイドル×商店街のコラボ企画「まごころデコレイツ」は二ヶ月前から始まっていました。始まりは、ルンに誘われて喫茶店ソルベに寄った事でした(中略)公式HPを見落とした方へ、まごころデコレイツの活動のチケットは「まごころ商店振興組合」限定販売です。あしからず」
もだん花鳥風月で検索した結果。ルン・ミヅキ共にブログはアクセス数と書き込みは、共に盛況だ。
だけど、テレビの発信能力がインターネットに負けているとか、視聴者がまごころ商店街を魅力に感じてくれるか、商店街を利用してくれるか不安になる。
商店街の看板に近づく。
通りを歩くお客さんは、お店に目を留めてくれる。でも、梓がいる筈の八百屋に、お客さんがあまり寄っていない。
(うわぁー、マジかよ。大丈夫かな)
足取りが重い。
サイン攻めに大激怒して、お客さんを引かせたんじゃないかと心配だ。
「いらっしゃい。宮本君じゃないか、こんにちは」
頭を下げる。
梓に比べて小柄で声が高く、頭が少し後退している梓の父。
「梓なら配達だよ。ここに人だかりができると、不便する人が多いからね」
「ありがとうございます」
宮本はそう言ってお辞儀して後にする。
梓の不在を知らずやって来るお客さん。手にはピンクのバラ、フラワーアレンジメント対決でルンが使用した花だ。
遠くからでも分かる堂ヶ島のオンエア記念サービス。
(いやー、あの人は放っといても大丈夫だな。ホント)
まごころデコレイツが食われない事を祈る宮本。
行列ができてない喫茶店ソルベ。
退店を告げるベル。涼やかと言うより乾いて聞こえる。
そこを出てくるカップル。
(やっぱり、転んだシーンのせいかな)
襲い来る不安から、急いで宮本も喫茶店の扉を開ける。
「いらっしゃいませー。現在、お席の方は空いておりません」
お辞儀をするのはメイド服を着た梓。
「あの~レモンさんですよね。握手してください」
「しょーがないっすね」
笑顔でお客さん達に握手する。
でもお客さんは、席が空くのに待てないのか退店してしまう。
「いらっしゃい。お客サマ。現在、おせきの方は空いてオリマセン」
馬子にも衣装。否、可愛いけどギャップに耐えられず、萌えを超えて宮本は笑う。
「テメッ」
お客さんと真悠の視線を気にして、梓は怒りを堪えて拳を握る。
「と、と、とにかくお席が空くまで、時間がかかりますよ」
青筋を立てた接客スマイル。
「アズちゃん」
真悠の怒った声。宮本は戦略的撤退をする。
通りを歩くお客さんから、白い目で見られる宮本。それもその筈、アウトドアで使う折りたたみチェアに座っているからだ。
(オタクの行列スキル舐めんなよ。精神だけならメテオ百発撃てんぞー)
携帯ゲームをしていると退店を告げるベル。
やっとの思いで宮本は入る。お客さんの数を把握しているので空いていると確信。
「いらっしゃいませ」
お辞儀。
「何名様ですか?」
「一名です」
顔を上げる真悠。宮本を見て口を開けたまま驚く。
「マユ先輩。デコレイツのシンフォニー、二つ入りましたー」
「ハ、ハイ。すいません、空いてる席へどうぞ」
案内された通り、宮本は空いている席へと座る。
「お冷です。ご注文が決まったら、お呼びください」
たどたどしい敬語。梓がお冷を運んできてくれた。
「アイスティーでお願いします」
「かしこまりました」
それにしても混んでいる。初めて来ただろうお客さんばかり。
(隠れ家が無くなるって、こういう感覚かな)
気落ちしている宮本。テーブルにコースターが置かれる。
「お待たせしましたお客様。ご注文のアイスティーです」
ろくに真悠と会話できない。でも喉が渇いたからアイスティーがゴクゴク入る。
「オッ」
宮本はコースターに何か書かれている事に気付く。
「宮本君。いつも、来てくれてありがとうございますね」
忙しい中、真悠は宮本を一瞥して微笑みかける。
真悠の微笑み。宮本はそれが見られただけで、会話できなくても充分幸せだ。
終了