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気づけば殺気さえ漂っていそうだった殺伐としたアノ空気が霧散していた。
代わりに野太い歓声がマダ続いてんだが…。
あー…煩せー。
耳がキンキンして痛てーよ。
思わず両耳を手で塞いだが全く意味が無い。
不機嫌に顔をシカメテいれば、一瞬だけ奴と目が会った。
無言で頷きを返して来た奴に寒気を感じる。
一体、何の頷きだ!?
奴が手を上げ、周囲に視線を配ると止まなかった歓声が終息していく。
お陰で耳が助かった。
この部分だけは、感謝してやっても良い。
だが、あの頷きは此だけじゃねーだろ。
其にしても…さっきの奴は王様より王様っぽかったぞ。
もう少し頑張れよ…王様。
俺が王様に憐れみを感じている内に、奴は近寄って来ていた。
その顔は蕩ける様な微笑みを浮かべている。
何だ、その最高の笑顔のオマケ付きは。
嫌な予感しかせん、そんなもん、俺は要らんぞ。
さっさと持ち帰れ!!
俺の気持ちなんぞ、お構い無く、奴は何の障害も無く、目の前で立ち止まった。
奴の手が遠慮無く延びてくる。
「私達のこれからが決まったよ。」
頭を鷲掴みして、お前は何を言い出しやがる!
「私達じゃねーだろ、お前のこれからだろーが。」
鷲掴みした奴の大きな手がワシャワシャ動く。
どうやら、鷲掴みでは無いようだ。
頭を撫でてるのか?
「やめろ、髪がグシャグシャになんだろが!!」
まだワシャワシャ続ける手を払い除けながら、苦情を訴えた。
「この世界の人達を救う為の旅に出る事になった。」
奴の手を払い除けきれんとは!ぐぬぬぬぬぅ〜悔しい!!
「お前、俺の話聞いてるか!?」
俺の頭から、奴の手が外れた…いや、ちげぇーなぁ、移動しただ。
俺の頬に触れて来やがった!
「目的地は魔族の本拠地、ウェルネルラに有る魔王城。」
ハッ。
何処まで行っても、ガチガチの定番だな。
とにかく俺はごめんだな。
「そうか、じゃぁ、死なない程度に頑張って来いよ。俺はこの城下町で何とかやって行くからよ。」
俺の事は気にするなと言外に告げた。
頬を擦る奴の手から逃れ、掌をヒラヒラ振って別れの挨拶だ。
魔王討伐を成功させた奴が元の世界に返される時にチョロっと乱入して一緒に帰る、それまでの事だ。
間違っても奴が死ぬって事は無いだろう。
半端じゃねー神様の愛情を受けてる身だからな。
かかって数年って所じゃね?
その位なら俺も何とか生活出来んだろう。
俺の言葉にキョトンとした奴は、何気無く爆弾を投下してきた。
「あれ?もしかして、気付いて無いのかい?」
俺は、運悪く巻き込まれただけの“村人3”みたいなもんだ。
その“村人3”に何を気付けってんだ。
荷が勝ちすぎんだろ。
「はあ?何の話だ。」
俺の答えに奴は参ったなぁ。とでも言いたげな苦笑を浮かべた。
「勇者には専用の武器があるんだ。」
なんだ突然?自慢か?
「?、ほぉ、そんなら万端じゃないか、良かったな。」
伝説の武器って奴か?
御大層なこった。
「ああ、最高の武器に成るらしくてな。」
最高の武器ね、まぁ、興味は有るな。
触る必要は無いが、見るだけなら見てみたい。
が、それでグダグダ言われんのも面白く無いからな。
見れんなら見れんで良いわ。
「なら、俺なんかに構って無いで、さっさと貰って来いよ。」
こんな所で言い合いするよりも、お前にはやることが有るだろ。
その勇者の武器を使いこなすにも時間が掛かんじゃねぇのか?
「貰いに行く必要は無いんだよ、勇者(私)の武器は目の前にいるんだからね。」
俺の肩をポンポンと奴が叩く。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ!?」
頭が追い付かねぇ。
口をパクパクさせてるが暫くは言葉が出なかった。
頭、真っ白って状態だな。
忍び笑いを漏らした奴と目が合い、急速に頭の混乱が落ち着き始める。
「な、何おかしな事ほざいてんだ!馬鹿かお前は!!」
全く、なんて飛んだ頭してんだ。
真面目な顔で、からかいやがって!
マジに動揺した俺が、すっげぇ〜間抜けじゃねぇか。
「おかしくは無いさ。君が私の武器なのは事実だよ。」
不機嫌丸出しの俺のご機嫌を取る様に、またクシャクシャっと頭を撫でる。
「触るな、将来禿げたらどーすんだよ!!」
やっぱり払い除けられなかった奴の手。
ムカツク。
「そうだね…、じゃあ私が“お嫁”に貰うよ。どんな君でも私は大好きだから問題無い。だから、その事は心配要らないよ。それよりも、ちゃんと詳細を見てごらん。」
サラッとトンデモナイ事ほざいたぞ!!コイツは!
がああぁぁぁぁあああ!!
口パクパク再びの俺…。
そんな状態の中、突然鳴り出した音。
酷く音階のズレタ、ハッキリ言っちまうと“音痴”に分類出来るメロディー。
ぴぃ〜ろ♪ぴぃ〜ろ♪ぴろろろろん♪♪♪ろん♪
これが俺の頭の中だけで鳴り響く。
力、抜けちまったよ…。
ガクっと来たぞ!!ガクっと!!
一体何だ、この音は!!
緊張感も何もかんもを見事に駄目にする。
ガックリと力無く項垂れていると、目の前に文字が表示された。
やっと表示された詳細・・・遅すぎじゃね?
フォログラフの様に浮かぶ文字列は、高速でスクロールされ、全く判読出来ない。
何だコレ、意味ねーなぁ…。
意味ねーついでか?
ドルルルルルル〜〜…って鳴ってるドラムロールも音痴風味だ。
目的の項目になったのだろうか?
パタリと動きを止めた。
勿論、音も一緒に鳴りやんでいる。
小細工が好きなのは何処のどいつだ!!
苛つきを含んだ目で開示された項目を確認した。
そこには、見たくなかった文字が確かに有る。
“勇者の武器”
の文字が………。
はああ!??
何で俺が武器なんだ!?
しかも奴専用だど!?!!
冗談じゃねーぞ!
俺の動揺が伝わったのか、奴が“ほわぁん”っとした笑みを送って来る。
その幸せそうな顔を見て寒気を感じたのは、きっと気のせいだ。
気のせいにチガイナイ。
目線をステータスに戻した俺は、項目に変な物を見つけた。
“勇者の武器”の横のボッチ。
そこに意識を向けると、ペコンペコンと赤く点滅。
OKとキャンセルの選択画面が表示された。
その画面をビミョーに思いながらも、OKを選択。
ピコン!!と音を立てて新たな窓が開く。
目に飛び込んで来た文字に頭痛を覚えた…。
“ユートへのご褒美《願いの成就》の対象者”
はあぁあああああぁぁぁ!?何だよコレ!!
“常にユートの傍らにあり守り、共に生きていく運命への変換”
・・・つまり、あれだな。
俺が巻き込まれ召喚で異世界にイル理由(訳)も、奴専用の武器に成った理由(訳)も“ユートへのご褒美”が原因だったって事だな!!
こぉんのぉ〜大馬鹿者!
何もかんも全て願いを叶えれば良いってもんじゃねーだろうが!!
ひとまず願い元(原因)の奴は後でシメルから良いとして…。
神様(責任者)ちょっと顔貸せや!!
俺が徹底的にトコトン説教してやる!!!!!
覚悟しろ!!
こうして、俺《御劔 碧》は勇者《華総 優翔》の武器として魔王討伐の旅に共する事になった。
紆余曲折、大事も小事も雪崩を起こす程巻き起こった奴との魔王討伐の旅は、それから3年の月日を費やして終了した。
魔王が勇者(奴)にベタ惚れすると言う反則の様な展開で・・・。
まぁ、そんな冒険談は、又いつか機会があったら聞いてくれよな!
って事で、
今回は此処まで!
じゃあ、又な!ヾ(^▽^)ノ