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私と兄弟の乙女ゲーの世界

私と兄と乙女ゲーの世界

作者: 小林晴幸

何となくで書いていたら、こんな話になった訳ですが…

ゲームの世界に転生って、楽しそうですよね。

そのゲームを好きな人だったら。


そして乙女ゲームと言いつつ、その内容は全然出てきません。



 この世には、様々なジャンルのゲームがある。

 RPGや格ゲーには、男兄妹がいたお陰で私もはまったものだ。

 例えばほんの僅かな時間潰し、暇潰し。

 そんな僅かな時間にやるゲームでも、お気に入りのジャンルってあるでしょ?

 沢山あり過ぎて、雑多なゲームの数々。

 それらの中に、『乙女ゲーム』というジャンルがあるのをご存知だろうか。

 それは謂わば、擬似恋愛を楽しみたい乙女の為のゲーム。

 現実では得られない夢の様なシチュエーションを楽しみたいと、親友Dは手を伸ばした。

 魅惑的な声を持つ、超大物声優さんの甘い囁きを楽しみたいと、親友Iは手を伸ばした。

 まあ、つまり。

 要はゲームの中でハイスペックイケメン共との恋愛を楽しみましょ、という趣旨だ。

 ちなみに私は、兄の影響でRPG攻略専門だった。

 だけど相次いで親友二人が手を出したものだから…

 まあ、つまりはなんだ。

 魔が差したんだ。


 そうして出来心+友人との会話で置いてきぼりになりたくないという一心で、私は性に合わない乙女ゲーなるモノに手を出した。うん。

 その時はこんな未来を招くなんて、思っちゃいなかったんでね。


 


 購入する前から、微妙な居たたまれ無さ。

 レジに持っていく時の、気恥ずかしい感じ。

 これはどんな羞恥プレイだと己を罵りながら、勇気を振り絞って買った1枚のディスク。

 私の人生初の乙女ゲーは、親友二人のお薦めを素直に信じて選択した。

 内容は、王道ファンタジー世界で頑張る健気な女の子が、ふとした偶然に導かれ、何故か自国の王子やら貴族やら騎士やら魔法使いやらと愛を深めていくというモノで。

 私からしたら謎設定だが、親友曰く、『王道』?

 え、マジで? マジでコレが王道なの?

 そんな疑問を抱えながら、私はゲームを家庭用ゲーム機にセットした。

 勿論、居間のテレビではやれません。

 だって家族の前でやるのって気恥ずかしいじゃん。

 親友Dには、そんな感覚は全く持って理解できなかったらしいがな!!

 私は恥ずかしい。恥ずかしいのだよ!

 だって今まで、RPGだの格ゲーだの、下手すると男臭いゲームばっかりやってたんだ。

 それがいきなり、擬似恋愛ゲーム…

 私の家族には、男兄妹だっているのだよ。

 兄やら弟やらに馬鹿にされたくなくて、私はこっそり自室でゲームを起動した。

 …ら、何故か速攻で兄にばれた。

 兄妹仲が無駄に良かったことが悔やまれる。

 私の部屋に遊びに来た兄に、OPムービーの時点でゲームの内容がばれた。

 お前もそんなのする様になったのかーと言いつつ、苦笑を噛み殺したナイス笑顔。

 首を絞めて埋めるべきかと、一瞬本気で算段しかけた。

 それでも兄が好奇心を瞳に宿し、一緒にやってみたいと言う。

 何だかんだで兄に甘い私は、結局兄の同席を許可していた。

  

 そんな訳で、私は乙女ゲーをプレイすることになった。

 美麗なイラスト、豪華な声優、無駄に充実した機能面。

 並々ならぬ制作者サイドの執念を感じる…

 若干引きつつも、こんな奴ら人間じゃねぇよ!!って野郎共を翻弄すべくゲームスタート。

 …そしたら、何故か私じゃなくて兄がはまった。

 兄よ、お前の人生に、何があった…?

 お前は、生粋の女好きじゃあ無かったのか…?

 思わず、兄の人生に疑問を抱いてしまう。

 だが、兄は潤んだ瞳に熱情を乗せて、引いちゃってる私に力説したのだ。

「こんなに健気で、素直で、一生懸命で…可愛い良い子、他にいないよ! 俺は、この子を幸せにしてあげたい。この子が幸せになるところが見たいんだ…!!」

 どうやら、ゲームと言うよりもヒロインにはまったらしい。

 どの攻略キャラよりも先に攻略されたのが、私の隣に座る、この兄だとは…

 それで大丈夫なのか、兄よ…

 自分とヒロインが…なんて妄想は一切せず、純粋にヒロインが幸せになるところが見たいと、ピュアな目で語る兄は、正直気持ち悪かった。傷つくから言わないけれど。

 最終的にはヒロインを「俺の娘」と呼んでいた。兄よ、そこは「嫁」ではないのか。

 普段は三人の彼女と要領よく付き合い、良い意味でも悪い意味でも女という生き物を見てきたはずの兄が、乙女の様に一喜一憂しながらヒロインを応援している。

 そんな姿を見ると、何故か私も応援してあげたくなった。

 兄を。

 だってドはまりしちゃった兄貴、今までの人生で知る限り、一度も私の見たことがない真剣な目つきで言うんだもん。この(ヒロイン)を幸せにするのが、俺の使命だって。

 この健気な娘さんが幸せになれることが、俺にとっても幸せなんだ…って。

 おい、兄貴。その娘さんは非現実の存在だって覚えてるか?

 あ、それでも構わないんですか。そうですか。

 

 そうして私は、兄と二人で乙女ゲーをプレイすることになった。

 何だかんだ言って、私はお兄ちゃん子なんだ。ああ、ああ、認めるよ。

 ヒロインの幸せな姿を余すところなくコンプリートするという使命と野望に燃える兄。

 そこまでのめり込めないけれど、兄を喜ばせたい、幸せにしたいとゲームに向き合う私。

 傍目から見たら、中々に歪んでいそうだ。

 現に私と兄が夜な夜な部屋に籠もって何をしているのか目撃した弟君は、私と兄に冷たく蔑んだ笑みを贈ってくれた。良し、覚えてろよー。今度仕返しすっからなー?

 ちなみに私の攻略状況…環境込み…を知った親友二人は、爆笑という贈り物をくれた。

 …今度、二人の鞄に素敵なプレゼントを仕込んでおこうっと。


 兄の完璧な攻略計画(笑)に従い、何故か律儀に二人でゲームを進めること、数週間。

 兄と私の時間の都合を付けようと思ったら、思った以上に攻略に時間を掛けてしまった。

 だけどその甲斐あって、兄貴の達成感溢れる笑顔が眩しい。

 隠しキャラ等の攻略制限がかかったルートも全部開拓してスチル回収も終わったし、全ルート完了させないとルートが開かないという大団円ルートも達成した。

 各キャラベスト・ノーマル・デッドエンドの全てをコンプリートした。

 デッドエンド回収している時の、兄の顔が凄まじかったけど。

 それでも兄は良かったと呟いて、感動の涙をボロボロ…兄貴、頭は未だ大丈夫か?

 画面の向こう、幸せになったヒロインを前に、兄がとても幸せそうに笑う。

 攻略キャラに対する嫉妬などもないらしく、本当に晴れやかに笑う。

 その顔にイケメンの笑顔眼福とか思いつつ、私は情けなく、悔しく思う。

 だってこの馬鹿!! 本当に良い笑顔なんだよ!!

 今までの人生で、初めて見たよ!? 兄貴のこんなに良い笑顔!!

 最後の最後だからと何故か同席していた弟も、ポカンと口を開けて固まっている。

 アンタ…こんなことでそんなにいい顔しちゃって…

 アンタに三股かけられてる彼女達も、愛情一杯アンタを育てた両親も、アンタを兄と慕って盛り立ててきた私達弟妹も、本気で立つ瀬無いじゃないか!!?

 私は本気で、兄の首を絞めて庭に埋めるべきかも知れない…

 弟と顔を見合わせて算段を練りつつも、結局は兄が喜んで私達も嬉しいと無難に流した。

 …父さんと母さんには見せられない光景だと、そっと胸の奥に兄の笑顔を封印して。

 

 それから兄は、以前に比べると微妙に楽しそうに毎日を生きている。

 嬉しそうに、嬉しそうに柔らかく笑う回数が増えた。

 兄が前よりも確実に幸せになったのなら良いかと、私は兄を生温く見つめる。

 最初で最後にプレイした、あの乙女ゲー。

 あれ以来、他の乙女ゲーをプレイしたことはない。

 兄も他の乙女ゲーには興味を示さなかった。

 だからこれからも、もう乙女ゲーを買うことはないかと思っていました。

 

 そんな折、兄を変えた運命のゲーム(笑)のファンディスク発売の情報が舞い込みまして。

 それを耳にした兄は、今まで以上に目を輝かせた。

 期待と懇願の込められた目で、私をじっと見つめてくる。

 兄…自分で買うという発想はないのか………

 それでも珍しい兄のお強請りだ。非常に出来のよろしい彼が、弟妹に頼ることは滅多にない。

 それが乙女ゲーかと思うと笑うしかなくて虚しくなるのだが。

 なんであれ嬉しいとも思ったから、私は購入することに決めた。兄と折半で。

 兄があんまり楽しみにするので、予約特典付きの限定版を注文したさ。兄と折半だし。

 そして今日、発売日当日………なのですが。

 あまりにも楽しみにしすぎた兄を引きつれ、予約したお店に向かう私。

 そんな私達を乗せたバスが、転落事故を起こしたのは何の因果なんでしょう?

 奈落の底へと引きこまれ。

 確実に助からない。

 それを自覚しながら、私はバスごと落ちていく。

 せめて、兄だけでも助かってくれたら…

 私の切実な最後のお願いが、神様に叶えて貰えないことは、とてもよく分かってた。

 それでも願わずにいられなかったんだ。

 最後のなけなしの時間を使って、私を少しでも庇おうと抱きしめる兄。

 その腕の中、大好きな兄に死んで欲しくないと、それだけを願い続けた………



 ………結果。

 やっぱり、私達は助からなかった。

 でも、再びこの言葉を言うよ。

 何の因果、なんでしょう。


 私の疑問。私の困惑。

 それらを引きつれるけど、どうしてこんな事になったのか…

 その原因は何かと考えたら、私は多分「兄」だと答える。

 いや、だって他に原因が考えられない。

 これは絶対、兄が楽しみにしすぎていたせいだ。

 急の転落事故で、未練が残ったせいだ。

 極めつけは、今日が例のゲームの発売日で、それを購入に行く土壇場だったせいだ。

 そう自分に言い聞かせて、私は何とか自分を納得させるしかない。

 …納得できる事じゃなかったけどな!!


 バスの事故で、死んだはず。

 そんな私と兄は、何故か兄がドはまりしたあのゲームに…

 あの乙女ゲーの世界に、何故か二人揃って登場人物として、転生を果たしていた。

 やっぱり今回も、兄妹として。

 ちなみにヒロインではない。ヒロインであるはずがない。ヒロインなど有り得ない。

 私のポジションは、殆ど敵役(ラスボス)と言っても過言はない、ライバルポジションさ!!

 うん。本当。笑うしかないと思った。


 色々と現状にも不満はあるし、何コレと叫びたいことこの上ないけど。

 何の因果かはわからない。

 この皮肉な運命をくれた誰かを、もしかしたら『神』と呼ぶのかも知れない。

 だけど意味不明の人生を与えられ、私は困惑することしきりで。

 別段、感謝何てしてない。うん。してないよ。

 でも、死んだはずの私の側に、死んだはずの兄がいるから。

 姿形は変わっても、終わりしかなかった筈の兄を、また「兄」と呼べるから。

 この世界で与えられた役割に、げんなりすることも多いけど。

 それでも私達は、この不思議な世界で再度兄妹としての始まりを得た。

 だから。

 そのことにだけは。

 本当に、そのことにだけだけど。

 相手は神様ってやつか、運命ってやつか、得体なんて知れないけどさ。

 そのことに関してだけは、私も感謝して良いと、複雑ながらも思えたのでした。




ちなみに兄貴は攻略キャラとして転生。

しかし既に愛情が深すぎて、ヒロインを「娘」としか見れないという弊害。

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