三題噺「子供」「永代供養墓」「怪人二十面相」
「そこでなにやってるの」
その声に男はぎくりとした。
しかし、それが子供の発したものだと分かると、安堵してから作業に戻る。その正面には土を盛って作った山があり、不格好ではあるが、なにかを供養しているお墓のようにもみえる。
「脅かさないでくれ」
「べつに、おどかすつもりなんかないけど」
「脅かすつもりがない時は後ろから声をかけてはいけない」
「なにそれ、しゃかいのルール?」
「そんなところだ」
すると律儀にも子供は正面に回ってきた。
まだ小学生の低学年くらいにみえるが、それにしては背筋をぴんと伸ばしているし、なんだかしっかりした印象を受ける。私が子供のころは、こんな風に『気を付け』の状態では五秒と止まっていられなかったものだが。親がよほど厳格なのに違いない。
「それで、おじさんはなにをしているの」
「見ての通りだ。ペットの供養をしている」
男は地面を指差して答えた。
子供は供養という言葉を理解していないような顔だったが、俺の指の先を目でたどると、何かに納得したようにうなずいた。
「どんなペットだったの?」
「知らん」
「自分のペットなのに?」
「自分のペットじゃないからだ」
子供は、俺を怪しむような顔を向けてきた。
「……永代供養墓、って知ってるか?」
「しらん」
俺のまねをして、子供が答えた。
「遺族の代わりに、誰かが供養してやるお墓のことだ。俺もこのペットの飼い主に頼まれて、こうして世話をしている」
子供は、知らない言葉を省きながら、なんとか俺の言った言葉を飲み込んでいく。とても素直で好感が持てる。
「かわりにやってあげてるの?」
「そう。給料……お小遣いをもらってな」
へえ。と子供は呟いてから、墓の周りをぐるぐる回り始めた。
品定めするような目で、ぐるぐるぐるぐる。
「なにをしているんだ」
「どうしようかなーと思って」
「なにがだ」
「どう考えてもね、ここいがいにありえないんだよ」
「なんの話だ」
ところで、ずっと気になっていることがある。
「なあ、聞いていいか」
「なに?」
「お前が手に持ってるものはなんだ」
「これ?」
子供が、手に持ったそれをこちらに見せる。
「スコップだけど」
「……なにに使うつもりなんだ」
すると、子供は笑いながら答えた。
「掘り返そうと思って」
なにをだ。俺はぎょっとして、ぞっとした。
2
ひとりの男が歩いている。
帽子をかぶり、サングラスをかけ、果てはマスクをつけているので傍からそうとは分かりづらいが、本人はかなり焦っている。
いつ失くしたかと言われれば、あの瞬間以外にありえない。
子供とぶつかったあの時。やけに落ち着いた子供だったが、しかし子供である以上、あれを見て行動を起こさないはずがない。
ぶつかった現場は穴が開くほど探した。それでもないと言うことはあの子供が持ち去ったに違いないのだ。
冗談じゃない! 走る速度が自然とあがる。
あれを持ち去られた。盗品の隠し場所を記した地図を。
そう。ただ埋めただけでは、時効が切れるまでの長い月日を耐えることができない。盛られた土は崩れ、名を記した墓標はどこかへと流される。だから永代供養墓として、誰かに管理させる必要があった。
本当は人間の墓を用意すればいいのだが、逃走中の身である以上、公的な手続きを踏むのはリスクが高かった。
「この子のお墓は私の手でつくってあげたいんです」と説得し、墓の中身を誰にも見られないようにした。
そして長い逃亡生活を終え、いよいよ時効が明日というところで!
男は足に鞭を打ち、墓の前へと向かう。
だが、男を待ち受けていたのは掘り返された墓穴と、もっとも聞きたくないサイレンの音だった……
お付き合い頂きありがとうございました。初めての三題噺ということで、やや緊張を残したままの後書きとなります。
三題噺を書くときに、適当に3つの単語を選出してくれるツールがあるんですどね。もう「怪人二十面相」と「永代供養墓」っていう食べ合わせの悪さとか、誰かが裏で操作してるんじゃないかな? と疑っております。
そしてそのツール、使っている自分も単語を足せるみたいです。
これを書き終えたのち、足してこようと思います。
「俺が苦しんだぶん、お前も苦しめ!」
ということじゃないですよ。……ホントダヨ?
足そうと思う単語は『生麦生米生卵』
もしあなたがこのツールを定期的に使っているかたで、この単語を引き当て、なおかつこの単語のせいでストーリーがまとまらない! という場合は、僕に対する「ばかやろう」という気持ちでその逆境を乗り切ってくださいね!
重ねて、お付き合いありがとうございました。