表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【OLふたり、今日も明日も】  作者: 桜餅 詩音


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

9/40

第9話「静かな仕事」

【第9話:前書き】

第9話は、澪の視点の仕事回です。

今回は、派手な活躍はありません。

劇的な展開もありません。

でも、とても大切な話だと思っています。

さりげなく、静かに、誰かを支える。

そんな仕事のスタイル。

目立たないけれど、

確実に誰かの役に立っている。

澪の、縁の下の力持ちとしての魅力を、

感じていただけたら嬉しいです。

それでは、第9話をお楽しみください。

火曜日の午後。事務部のフロアは、いつもの静けさに包まれていた。


私は、デスクで伝票の処理をしていた。


営業部から上がってきた受注データを、システムに入力する。地味な仕事だけど、ミスが許されない大切な作業だ。


隣の席では、入社2年目の佐藤くんが、同じように入力作業をしている。


彼は真面目だけど、少しそそっかしいところがある。


私は、自分の作業を終えて、念のため佐藤くんの入力内容をチラッと確認した。


すると、一つ気になる点があった。


納品日が、一日ずれている。


多分、打ち間違えだろう。


でも、このまま処理が進むと、お客さんのところに商品が届かない日が出てしまう。


私は、佐藤くんに声をかけようとして、やめた。


彼は今、電話対応中だった。


まあ、いいか。


私は、自分のパソコンで、そっと修正した。


佐藤くんのアカウントでログインして、該当の伝票を開いて、納品日を正しい日付に直す。


それから、念のため他の伝票も確認した。


もう一件、数量の入力ミスがあった。これも、直しておく。


全部で5分もかからなかった。


私は、何事もなかったように、次の作業に移った。


こういうことは、時々ある。


後輩のミスに気づいた時、わざわざ指摘するより、静かに直してしまった方が早い。


本人も恥をかかないし、仕事も滞らない。


それでいいと思っている。


午後3時。


佐藤くんが、突然「あっ!」と声を上げた。


「どうしたの?」


 向かいの席の先輩が聞いた。


「や、やばい……納品日、間違えてたかも……」


佐藤くんは、慌ててパソコンの画面を確認している。


「え、どれ?」


「昨日入力した、マルヤマスーパーの伝票なんですけど……」


佐藤くんは、必死にスクロールして、該当の伝票を開いた。


そして、固まった。


「あれ……?」


「どうした?」


「い、いや……直ってる……」


「直ってる?」


「はい。間違えたと思ったんですけど、正しい日付になってます……」


佐藤くんは、画面を何度も確認している。


「他の伝票も……あれ、これも直ってる……」


私は、黙って自分の作業を続けていた。


佐藤くんが、ふと私の方を見た。


「霧島さん……」


「ん?」


「もしかして……」


私は、何も言わずに、微笑んだ。


佐藤くんは、ハッとした表情になった。


「霧島さん、直してくれたんですか……?」


「さあ、どうかしら」


「いや、絶対そうですよね……誰も気づいてないのに、直ってるなんて……」


佐藤くんは、深く頭を下げた。


「本当に、ありがとうございます!」


「別に、気にしなくていいわよ」


「でも……」


「誰にでもミスはあるから。次から気をつければいいの」


私は、そう言って、また作業に戻った。


佐藤くんは、しばらく私を見つめていた。


それから、小さな声で呟いた。


「霧島さんって……すごいな……」


その言葉は、聞こえないふりをした。


でも、少しだけ嬉しかった。


夕方、定時が近づいた頃。


佐藤くんが、私のデスクにやってきた。


「霧島さん、今日、お時間ありますか?」


「どうしたの?」


「お詫びに、コーヒーでも奢らせてください」


「そんな、気にしなくていいのに」


「いや、でも……」


佐藤くんは、困ったような、でも嬉しそうな顔をしている。


「分かった。じゃあ、少しだけ」


「ありがとうございます!」


会社を出て、近くのカフェに入った。


佐藤くんは、コーヒーを2つ注文して、私の向かいに座った。


「霧島さん、いつもありがとうございます」


「別に、特別なことはしてないわよ」


「いえ、してます。僕、気づいてるんです」


「何を?」


「霧島さんが、いつも僕のミスをフォローしてくれてること」


私は、少し驚いた。


「気づいてたの?」


「はい。最初は偶然かと思ってたんですけど、何度もあるので……」


佐藤くんは、少し恥ずかしそうに笑った。


「僕、まだまだダメですね」


「そんなことないわ。あなた、ちゃんと成長してるもの」


「本当ですか?」


「ええ。最近は、ミスも減ってきてるし」


「それは……霧島さんが、いつも見守ってくれてるからです」


佐藤くんは、真剣な顔で言った。


「霧島さんみたいな先輩になりたいです」


私は、少し照れくさくなった。


「大げさよ」


「いえ、本当に。霧島さんは、静かだけど、いつも周りを見てる。そして、必要な時にさりげなくフォローしてくれる」


佐藤くんは、コーヒーを一口飲んだ。


「僕も、いつかそういう先輩になりたいです」


私は、彼の言葉に、少し胸が温かくなった。


自分の仕事は、地味で目立たない。


でも、こうやって誰かの役に立っているなら、それでいい。


それが、私のやり方だから。


「佐藤くん、これからも頑張ってね」


「はい!」


カフェを出て、駅で別れた。


帰り道、私はふと思った。


ひよりは、派手に活躍する営業。


私は、静かに支える事務。


それぞれのやり方で、私たちは働いている。


どちらが偉いとか、そういうことじゃない。


それぞれが、自分の場所で、ベストを尽くす。


それが、仕事なんだと思う。


家に帰って、いつものように料理を作った。


今日は、シンプルに生姜焼き。


一人分だけど、丁寧に作る。


それが、私のスタイルだから。


静かで、穏やかで、でも確実に。


そうやって、私は生きている。

第9話、いかがでしたでしょうか。

澪の静かな優しさ、感じていただけましたか?

派手な営業のひよりと、地味な事務の澪。

どちらが偉いとか、そういうことではありません。

それぞれの場所で、ベストを尽くしている。

そんな二人の対比が、この物語の魅力の一つだと思っています。

澪の、さりげない優しさ。

それが、誰かの支えになっている。

素敵なことだと思います。


次回、第10話はひより単独回。外回りの途中で出会う、ちょっと不思議な物語。

第10話もお楽しみに。


最後まで読んでくださって、

ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ