第7話「パンケーキとふたりの秘密」
第7話は、二人で日曜日デート。
でも、今回はいつもと少し違います。
お互いに、言えない秘密を抱えている二人。
その微妙な空気感が、
何だか面白くて、可笑しくて。
でも、それも含めて、
二人の関係なんだと思います。
全部を話さなくても、
全部を知らなくても、
それでいい関係。
そんな二人の距離感を、
楽しんでいただけたら嬉しいです。
それでは、第7話をお楽しみください。
日曜日の昼、駅前で待ち合わせた。
「澪さーん!」
改札から出てきたひよりが、手を振ってこちらに走ってくる。
「おはよう」
「おはよう! 楽しみにしてたんだ、今日!」
ひよりは、いつものように元気いっぱいだった。
でも、なんとなく、いつもより少しだけ頬が赤い気がする。
「どうかした?」
「え? 何が?」
「なんか、顔が赤いような」
「そ、そう? いや、ちょっと走ってきたから!」
ひよりは、慌てて顔を手で扇いだ。
私は、少しおかしくなって笑った。
「じゃあ、行きましょうか」
「うん。」
パンケーキ屋さんは、駅から十分ほど歩いたところにあった。
日曜日のランチタイムということもあって、店内は賑わっていた。女性客が多い。
「わあ、すごい人気!」
ひよりは、目を輝かせている。
席に案内されて、メニューを開いた。
「何にする? 私、このベリーのやつ食べたい!」
「私は……シンプルなバターとメープルシロップのにしようかな」
「澪さんらしい!」
注文を済ませて、紅茶を待つ間、ひよりが話し始めた。
「昨日さ、何してた?」
その質問に、私は一瞬、ドキッとした。
「昨日? 特に何も……家でゆっくりしてたわ」
「そっかあ。私も、一日中家にいたんだ」
「珍しいわね。いつもは出かけるのに」
「うん、なんかね……疲れてて」
ひよりは、少し視線を逸らした。
私は、心の中でクスッと笑った。
実は、私も昨日、一日中家にいた。
そして……
木曜日の夜、焼き鳥屋で出会った男性との一夜。あの記憶が、まだ身体に残っていた。
金曜日の夜、ひよりにその話をして、彼女がすごく驚いていたのを思い出す。
そして、昨日。
一人でいる時、ふとあの夜のことを思い出して……身体が、反応してしまった。
久しぶりに、一人で……。
でも、もちろん、それをひよりに言うわけにはいかない。
「澪さん?」
「ん?」
「なんか、ボーッとしてるけど」
「ああ、ごめん。ちょっと考え事してて」
「何考えてたの?」
「え? いや……別に」
私は、慌てて紅茶を飲んだ。
ひよりは、不思議そうな顔をしている。
その時、ふと気づいた。
ひよりの様子が、なんとなくおかしい。
いつもより少し落ち着きがないというか、時々視線が泳いでいるというか。
まさか……。
私は、ひよりの顔をじっと見た。
金曜日にあの話をして、彼女はすごく興味を持っていた様子だった。
もしかして……。
「ひより」
「な、なに?」
「昨日、本当に何もしてなかったの?」
「え!? う、うん! 何もしてないよ! 一日中、ゴロゴロしてただけ!」
ひよりは、明らかに動揺していた。
ああ、やっぱり。
私は、心の中で笑いを堪えた。
きっと、彼女も……。
でも、お互い言えないよね。
そんなこと。
「そう。私も、一日中ゴロゴロしてたわ」
「そ、そうなんだ! じゃあ、同じだね!」
「ええ、同じね」
二人で、ぎこちなく笑い合った。
その時、パンケーキが運ばれてきた。
「わあ! すごい! めっちゃ美味しそう!」
ひよりは、すぐに話題を変えて、パンケーキに夢中になった。
私も、自分のパンケーキにフォークを入れる。
ふわふわで、口の中でとろける。
「美味しいわね」
「うん、最高!」
二人で、黙々とパンケーキを食べた。
でも、心の中では、お互いに秘密を抱えている。
きっと、ひよりは昨日、私の話を聞いて、色々考えて……
そして、一人で。
私も、あの夜の記憶に浸って……一人で。
なんだか、おかしかった。
二人とも、同じようなことをしているのに、お互い言えない。
私は、紅茶を飲みながら、ふと笑ってしまった。
「どうしたの? 澪さん」
「ん? いや、このパンケーキ、本当に美味しいなって」
「そうだよね! また来ようね!」
「ええ、また来ましょう」
きっと、いつか笑い話にできる日が来る。
もっと時間が経って、もっと色々な経験をして。
その時は、こんなことも笑って話せるかもしれない。
でも、今は、まだ秘密。
二人だけの、言えない秘密。
「ねえ、澪さん」
「何?」
「今度、また新しいカフェ見つけたら、一緒に行こうね」
「ええ、行きましょう」
私たちは、パンケーキを食べながら、他愛もない話をした。
仕事のこと、最近のドラマのこと、来週の予定。
でも、心の中では、お互いに思っている。
昨日のこと。
言えないこと。
秘密のこと。
それが、なんだか可笑しくて、私は何度も笑いそうになった。
ひよりも、時々妙に顔を赤くしている。
きっと、同じことを考えているんだろう。
ふふっ。
私たちは、そんな関係なのかもしれない。
全部を話せるわけじゃないけど、でも、心のどこかで繋がっている。
それでいいんだと思う。
パンケーキを食べ終わって、店を出た。
「美味しかったね!」
「ええ、とても」
「また来週も、どこか行こうね!」
「分かった。でも、お店選びはよろしくね!」
「任せて!」
ひよりは、笑顔で手を振って、駅に向かった。
私も、反対方向の駅に向かう。
帰り道、私は一人で笑った。
なんだか、今日は特別な日だった気がする。
秘密を共有しているようで、でも何も言わない。
そんな不思議な関係。
でも、悪くない。
むしろ、少しドキドキして、楽しかった。
第7話、いかがでしたでしょうか。
二人とも同じことしてたのに言えない、
というコメディタッチの展開、楽しんでいただけましたか?
お互いに察しているけど、でも口には出さない。
そんな微妙な空気感が、何だか可愛らしいなと思いました。
言えない秘密も、二人の関係性の一部。
それでいいんだと思います。
次回、第8話はひより視点。
月曜日、営業の仕事で新規開拓に挑戦します。最初は冷たい反応でも、諦めずに食い下がるひより。果たして、契約は取れるのか? 成長するひよりの姿を描きます。
第8話もお楽しみに。
最後まで読んでくださって、
ありがとうございました。




