表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
34/35

EX2 石板の行方

 十戒、それはモーセという昔の偉い人が神様から授かった十項目のルールである。

 二枚一組の石板に刻まれたという原版は偶像崇拝やらかした連中にブチ切れたモーセが破壊し、しゃーないので神様がもう一組をモーセと一緒に作り直したという御茶目なエピソードもある。


【貴方が授けられたのは破壊された方の原版を修復したものです】


 誰がどうやって修復したのかは考えないことにする。

 ダンジョンの起源もあいまって泥沼に陥る羽目になるからだ。鑑定魔法が【知りたいでしょ、知りたいでしょ】とか言いそうな雰囲気を出しているけれど迂闊に触れる訳にはいかない。内包する魔力量も半端ないし、歴史的意味とか宗教的な意味を考えると素手で触れることすら冒涜とされるだろう。

 そんなものを中近東ダンジョンは寄越した訳である。


【だって作り直した方は歴史の中で消失したって言うし、それなら原版を蘇らせた方がいいよね?】


 とかぬかした中近東ダンジョンコアはよほど人類に恨みがあるようだ。

 もちろん即座に米軍や自衛隊に預けようとしたんだけど「超古代の遺物を収集する国家秘密機関などというのはフィクションだけの話だよ」と申し訳なさそうに頭を下げられた。それどころか「君が正当な所有者だと我が国も保証する用意があるが、この遺物を隠し通すことへの全面的な協力も約束しよう」と言ってきた。元ゴルフ場もその一環だろう。

 宗教に疎い自分でも分かる。


「しか?」


 エゾオオツノシカ君はよくわかってない。そりゃそうだ。

 収納空間から取り出した途端に紫電を帯びて宙に浮く二枚の石板とか、物語のジャンル変更待ったなしである。合衆国は喜んで回収すると思っていただけに意外というか残念というか。幕末ゴブリン達は興味を持たず、わんこ達は自分の背中に隠れながらときどき吠えてる。

 どうしようかね。

 一部界隈には需要高いと思うんだけどね。

 欧州が燃えるだろうなあ、物理的に。


「じゃあ、どーすんの?」


 そこなんですよねえ。今のところ考えているのは……

 ……

 ……

 ビキニ姐さん?


「はろー。アラスカ土産を貰いに来たわ」


 帰国してずいぶん経ってるのに今更っすね。土産になるのか分からないですけどアラスカのスーパーで買った冷凍ピザなら残ってますよ。

 あ。

 そうだ、姐さん。この石板いります?


「あたしはアラスカ土産が欲しいの。これ中近東のじゃない、組合で肉屋(ブッチャー)からキラキラしたもの受け取ったりしないようにってガチめの注意勧告出てるわよ」


 あー、うん。先手を打たれてしまった。

 この調子だと市内のミッション系女子高に潜入してキリスト像の中に石板を埋め込もうとしても阻止されるだろう。お嬢様学校だから一般人が立ち入りそうにないし良いカムフラージュになると思ったんだけど。


「そういう責任逃れとか好きじゃないくせに」


 ……それもそっすね。

 珍しくも真っ当なビキニ姐さんの意見に、己の頭を軽く叩くと収納空間から冷凍ピザを取り出した。




◇◇◇




 箱館湯滝温泉ダンジョンの最深部には他ダンジョンへの転送門がある。

 アラスカと中近東ダンジョンの初期化報酬という形で用意してもらったものだが、踏破者のみが利用できる仕様になっている。

 色々考えたが、別に考えるまでもなく元あった場所に戻すのが無難だろう。中近東ダンジョンの最深部、厳かな神殿を模した場所、聖櫃と呼ばれるものに似た箱へと二枚の石板を納める。おさまりがいいというか、実にしっくりくる。


【良いのですか。この石板があれば富も名声も思うがままでしょうに】


 いーんです、いーんです。

 使い方次第ではその通りなんですが、自分の器量じゃ碌な目に遭わないのは分かり切ってるので。それにまあ、このダンジョンにこんなお宝があると分かれば、真っ当に試練を乗り越えようって挑戦者も出てくるかもしれませんしね。


【分かりました。掟の書を託すに相応しい者を待ち、その行いを見届けることにしましょう】


 というダンジョンコアさんの音声と共に聖櫃へと収められた石板の映像が、それから数日後に全世界に向けて公開された。心神喪失していた者たちは画面越しに石板より放たれる光を浴びて僅かに正気を取り戻し、ラピスラズリの石板の美しさに多くのものが心を奪われた。


【――正しき挑戦者に敬意をもって試練と祝福を】


 皮肉な話だが、この映像をきっかけに欧州をも巻き込んだ戦乱は終息し、兵士たちは銃を捨ててダンジョンに挑むことになった。銃火器も爆薬も通用せず太古の神魔が現れる其処は世界屈指の難易度を誇り、敬虔な信者以外は潜ることも許されなかった。邪な念を抱いて聖遺物を狙うものは誰一人として最深奥に到達することは出来ず、いつしか教徒たちにとって中近東ダンジョンに潜ることは信仰の正しさを内外に示す儀式として見做されるようになっていた。



+登場人物紹介+


●米軍の偉い人

ブリカスの手に渡るよりは肉屋の方がマシ!と判断した。


●日本政府の偉い人

英国にだけは渡らんようにしてくださいよと胃薬片手に祈っていた。


●ビキニ姐さん

偉い人達に頼まれて肉屋の様子を見に行った。冷凍ピザはいかにもな味で笑った。


●中近東ダンジョン

石板が戻されるのは予想していた。真面目て真っ当な信者なら攻略できるダンジョンを作った。攻略できるほどの敬虔な信者は聖櫃を前にしても手を付けることなく帰還し、欲深い者は最深奥に到達できずに攻略を諦めた。いつしか信者たちの信仰を証明するための巡礼の場所として機能するようになる。


●ミッション系女子高

あやうく世界大戦の火種を仕込まれるところだった。


●掟の石板

それ自身はただのルールブックである。しかしルールを守る限り神は契約者を見捨てることはないだろう。なお肉屋は神の存在を認めても神の異存は別問題の人なので契約は結ばれなかった模様。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
>米軍や自衛隊に預けようとしたんだけど「超古代の遺物を収集する国家秘密機関などというのはフィクションだけの話だよ」と申し訳なさそうに頭を下げられた。それどころか「君が正当な所有者だと我が国も保証する用…
「中近東ダンジョンは、いつしか信者たちの信仰を証明するための巡礼の場所として機能するようになる。」←そのダンジョンの最高の目玉商品・宝物を奪われる事なく巡礼者という形でのダンジョン攻略者たちが途切れる…
失われてない聖櫃w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ