EX1 アラスカダンジョンおしまい
アラスカ番外編はこれにて終了。
それから三日経った。
アンカレッジの空港滑走路を利用した特設会場にて、大統領は特別機から姿を見せた。USA!コールの中、拳を突き上げながらダンジョンの初期化とアラスカ全域の正常化を宣言し技術士官のおっさん達と握手する姿が全世界に中継された。なお握手対象には有休消化中の自衛隊の皆さんも含まれる。魔石メーサー戦車は劇物すぎるので紹介されなかったが、中継映像の片隅に映っており専門家と評論家を中心にSNSで色々と語っている模様。
自分?
初期化したアラスカダンジョンを探査中です。
銃火器ダンジョンには懲りごりだという米軍関係含めた偉い人の要請で、初期化したダンジョンの探索を依頼された。やり方はある程度一任されているので、徒手空拳で突入。ドロップアイテムや宝箱の道具が出たらそれを使うという、由緒正しいストロングスタイルである。
「りゅ」
訂正。
自分の後ろを竜の幼生がついて回っている。尻尾を含めて体長1メートル程度という竜種としては小柄な姿で、愛嬌のある面立ちだ。自分が薬草を摘めば生えている他の薬草を喰い、食糧になりそうなモンスターを自分が狩ればその肉を貰って喰らい、弱そうな雑魚敵がいれば喧嘩を吹っ掛けては返り討ちに遭っている竜の幼生。ダンジョンコアの守護者のはずだが、ダンジョンに潜ると入り口で「りゅ!」と嬉しそうに待っている。
あざと可愛い。
不必要な戦闘を避け、罠を解除し、謎を解く。
道中の戦闘は竜の幼生の躾に近い。これまでに発生した戦闘の八割は竜の幼生が喧嘩を吹っ掛けてボコられ、こちらに泣きついた結果発生したものである。
「りゅ」
幕末ゴブリン族とエゾオオツノシカとわんこはオーバーキルになってしまうので連れてきていないが、彼等の食料にもなるので食べられそうなモンスターは回収しておく。
「りゅりゅ」
そうやって最深奥まで歩みを進め、ダンジョンコアに竜の幼生を返却するまでがアラスカダンジョンにおける探索活動のワンセットとなっている。なお竜の幼生は自分も外に出たいと強請っているけれど、純粋魔力で構成されたモンスターなので魔力供給が途絶えると消滅するから駄目である。一度こっそり付いてこようとして尻尾の先が崩れ消えたのを見て泣きながらダンジョンに戻ったので、その辺の学習は出来ている模様。
【ごきげんよう踏破者。当ダンジョンは初期化後の設定が完了しました。】
幾度かの踏破を終え、そろそろ陸路でも旧バローに人が到達する頃。
イマジナリ音声さんが朗報を持ってきた。
【以後このダンジョンでは通常の銃火器および爆発物によるダメージを無効化する仕様になりました】
よかった。
これで核テロで再び核ドラゴンを誕生させようとする企みを阻止できるだろう。これは他のダンジョン初期化でも今回のやり方を下敷きにできるということ。
【ダンジョンに入ったものには魔力・初期スキル・初期相棒モンスターが与えられ知恵と勇気でダンジョン攻略に臨むことになります】
……
……
初期、相棒……モンスター?
【はい。探索者はパートナーとなるモンスターと共にダンジョン攻略を行い、その育成も進めていきます】
いや、待って。
足元を見ると竜の幼生がしがみついている。
【探索の過程で増えていくモンスター! 高まる親密度! 覚醒する能力と秘められた姿! パッチを集めて自分だけの戦闘服を完成! これぞ新時代のダンジョン攻略、名付けてパッチワーク・モンスター! 略してパッチm】
迷わず解体魔法をダンジョンコアに炸裂させた自分の判断は間違っていないと思う。
その後。
再度初期化させたダンジョンコアに竜の幼生を縛り付け、モンスター蒐集要素の排除に成功した。しかし日本のダンジョンに比べてモンスターテイム成功率が極めて高い特殊なダンジョンとして、アラスカのダンジョンは注目を集めることになる。
<EX1 アラスカダンジョン完>
+登場人物紹介+
●大統領
まだ安全が確保されていないアラスカまで来てダンジョン解放を宣言した。その胆力は本物。
式典前に旧バローまで赴いて肉屋と接触しており、ダンジョン解放前に放射能除去の異常回復薬を飲みながら感謝を伝えている。本人的には今回の業績をもって大統領引退の花道とする腹積もりだったが、肉屋が全ての核ダンジョンを初期化するまでは全面的に協力を惜しまないと約束した。
●技術士官のおっさん
肉屋の代わりに式典で全世界中継された救国の英雄。
肉屋直々に頼まれて断り切れなかった。式典後に陸路で旧バローを目指し、ダンジョン攻略のための探索者組合設置に尽力することになる。巨大わんこの仔を一匹譲り受けた。
●自衛隊の皆さん
肉屋の代わりに式典にて日本代表として感謝を伝えられた。
魔石メーサー砲でアンカレッジ解放に大活躍したのは事実なので問題はない。大統領がホットラインで自衛隊の上層部にきっちり話をつけたらしく処罰対象にはならなかった。ダンジョン初期化に成功した肉屋を回収して次のダンジョンを目指す旅に出る。
●米軍の皆さん
アラスカの復興に尽力する。試製魔石エンジンを搭載した工作艦を自衛隊の魔石輸送船に同行させることにした。工作艦とは名ばかりの、わんこ喫茶と化すのは公然の秘密である。
●わんこ
一部を除き、アラスカダンジョンで暮らしている。
時々気合の入った探索者と意気投合してテイムされる模様。一部は肉屋についていった。船の上では走れないのでイライラしてたら海の上を走る特技を身につけた。わんわんお。
●エゾオオツノシカ
準モンスター化した野生動物をアラスカダンジョンに誘導した。モンスター化していない野生動物もごくわずかに生き残っている(人間と一緒に避難させられた)ので、その後のことは人間と自然に任せることにした。
●幕末ゴブリン族
しばらくの間ダンジョン周辺の警備にあたり、不埒者を相手に思う存分攘夷しまくって大満足である。
●竜の幼生
パッチモン失敗。ダンジョンコアの守護者としてダンジョン最深部にいる。転移門を通じてときどき肉屋が来るのでそれで満足している。
●アラスカダンジョン
テイマーの聖地と後世呼ばれるようになる。
魔力の無い場所でも弱体化モンスターを飼育できるアイテムを産出するようになり、世界中の愛好家を羨ましがらせた。アラスカダンジョンでテイムしたモンスターはワッペン状の契約媒体とリンクさせることで飼い主の魔力を常時供給する仕組み。魔力が乏しいとたとえドラゴンでもチワワに負ける。肉屋の場合、魔力オバケなので竜の幼生が超強化される恐れがあった。
●イマジナリ音声
なんだかんだ日本ダンジョンと差別化できる形で再起動できたので満足。そのうち竜の幼生を肉屋に付いて行かせようという野望は捨てていない。
●肉屋
わんこが八匹ついてきました。竜の幼生はダンジョンに預けてあります。鹿とゴブリン族を北海道に戻す旅なのになんで増えているんだろう、とか悩んでいる。アラスカダンジョン解放した後に日本の探索者組合に報告した。日本の探索者組合から旧バローに職員派遣することが決まったらしい。海の上を走りだすわんことエゾオオツノシカの群れを見て考えるのを止めた。なんかアラスカで活躍した凄腕テイマーがいるとSNSで話題になっており、そいつに会って色々相談に乗ってもらえばよかったと若干後悔している。




