あとのしまつ。
誤字報告、感想ありがとうございます。
ひとまずの完結でございます。
ダンジョンモンスターの身体は主に魔力で構成される。
カエルやイノシシなど現実にもいる動植物の素材はそのまま残りやすいが、アンデッドや精霊種など非現実的なものは身体を魔力で構成しており中核である魔石を破壊されたりダンジョンからの魔力供給が途絶えると霧散消失してしまう。その辺の消滅を逆手にとって素材として変換する魔法なども存在するのだが、それはさておき。
竜種は活ける幻想の筆頭である。
身体のほぼすべてが魔力で構成されている訳で、魔法陣で元居た場所より無理矢理呼び出された核ドラゴンは力尽きると共に土くれのように潰れて崩れた。崩れたものも塵となり、宙に溶けるようにして消える。
残ったのは自称主人公君。
ビキニ姐さんの必殺剣を受け止めようとしたのだろう、持っていた装飾剣が真っ二つだ。そのお蔭なのか本人に怪我らしい怪我もなく、魔力が完全に尽きた状態で仰向けに倒れていた。
「……六本木・断は、ねーよ。なにそのネーミング」
うん、それは完全に同意だ。
指一本動かす気力も無いのか、都内らしからぬ澄んだ青空を見上げたまま自称主人公君は呟いた。包囲している警官や自衛官もうなずいているので、ビキニ姐さんのセンスが時代遅れとかそういう次元の問題ではないと思う。
「なあ莫逆の友よ」視線は動かない「還暦すぎたコスプレBBAに救われた世界って、考えるとスゲーな」
そうだね。
ただひとつ訂正させてもらうけど、世界を救ったのは姐さん一人の仕事じゃあない。核ドラゴンが消えた後の亡国を立て直して、ダンジョンを初期化もして、それに関わったすべての人が世界を救ったことになると思う。自分はそう考えているよ。
あ。
いま自分すっげー恥ずかしい思いを我慢しながらイイこと言ってるつもりなんで、誰かビキニ姐さんを押さえておいてください。なんなら押し倒してもいいです。
「いやーん☆」
「うるせえ黙れBBA」
「ふんっ★」
おおう。
セクシーポーズで腰を振ったビキニ姐さん、自称主人公君が素で突っ込んだから反射的に全力パンチを……うわ、地面がボコって凹んでる。
あのさ、生きてる?
「――公式にはコレで死んだことにしてくれよ莫逆の友よ」
自称主人公君が力なく笑うと、彼を中心とした地面に魔法陣が浮かび上がる。
探索者達が即座に自衛官や警官たちを引っ掴むように退く中、魔法陣は強い光を発しながら自称主人公君の身体を呑み込んでいく。ダンジョンでは時々見かける転移トラップの前兆そっくりなので、職業病みたいな反応をしてしまうのは探索者ならでは。
あ。
これ、世界をひとつにも使っていた召喚魔法陣ですね。
「正解。俺は、俺を主人公として必要としてくれる何処かへ飛ばされる。街か国か、それとも世界なのかは分からねえけど……俺は主人公だから、主人公なんだよ」
その言葉を残して、自称主人公君は魔法陣に呑み込まれて消えた。
解放された警官や自衛官たちが彼のいた場所に何か残っていないか調べているが、召喚魔法陣はガバ設定すぎて下手すると別世界に移動した可能性すらあるというのが探索者側の総意だ。
「召喚先の世界がごっつエグいBL世界観だったらどうする気なのかしらね、アイツ☆」
やめてくださいビキニ姐さん、考えないようにしていたのに。
◇◇◇
核ドラゴンの脅威は去った。
世界規模で見ればこれは割と凄いことである。少なくとも十億近い難民による問題に頭を抱えている各国はこれを朗報と受け止めた。あとは誰かがダンジョンに潜って初期化に成功すれば、やり直すことは出来る。ダンジョン根絶派にとっては歯がゆいことだが、穏当な攻略を心がければ災いだけではなく益をもたらすことは日本が示してくれた。
「それで、誰がダンジョンを初期化するのかな☆」
紛糾した。
主に日本の外と内とで。
以前より探索者の派遣を熱望していた友好国はヒートアップし、幾つかの亡命政府は核ドラゴン討伐に貢献した有名探索者を指名して「今こそ国際貢献と世界平和の実現を」と熱弁を振るう。なお彼らは名誉以外の報酬を一切提示していない。
日本国内の反応は複雑だ。
なにしろ革新政権が政党ごとダンジョンの怒りを買って姿を消した。代議士のほとんどが都内に居らず、国会の再開すらままならないのが現状である。核ドラゴンの一体が議事堂を破壊しているので仕方ない、そういうことになった。
とにかくまずは総選挙である。
政界を退いていようが使えそうな人材は容赦なく候補に祀り上げられ、引退を考えていそうな代議士は笑顔で引き止められての総選挙。核ドラゴン襲撃に同調したテロリストたちの検挙により諸外国工作員の影響は減ったのか、候補者に対する世間の目は割と同情的らしい。テレビも大阪など地方局を中心に番組を維持しているが、何かに怯えつつも手探りで番組を作っている姿が垣間見えて初々しいとの声も聞く。
探索者の海外派遣は組合でも幾度か議題に上がっていた。
浪漫を求めて海外より日本に来た、あるいは母国滅亡して難民になった外国籍探索者を中心に動けば良いのでは、というのが無難な提案。しかし現行法ではいちど日本で探索者となったものは国外への移動が制限されており、それは外国籍探索者にも適用されている。
核ドラゴンは討伐された。
しかし早いうちにダンジョンを初期化しないと核ドラゴンもしくは別の脅威が復活する可能性が高い、専門家でなくとも探索者なら誰でも予測できる未来だ。
まあ、自分には関係のない話なんですけどね。
エゾオオツノシカ君の群れと幕末ゴブリン族を箱館に帰すために奔走し、特例ということで自衛隊が試作した魔石輸送船を手配して貰ったんですよ。万が一に備えて魔石戦車もご一緒に。いやあ、至れり尽くせり。
現在自分は海の上。
陸路だと各都道府県の許可を得ないといけなくて、その申請だけで数年かかりそうだったから渡りに船とはまさにこのこと。助かるなあ。
……
……
ハイ、そろそろ現実に向き合います。
この魔石輸送船(と呼ぶには物資のみならず武装の充実も尋常ではない)、外洋に出ています。太平洋、横断する気満々です。最初の目的地はアラスカだそうで、核ドラゴンの出たダンジョン踏破が目的だとか。
そっかー。
それで一緒に米国さんの艦が護衛についていると。アラスカを解放出来たら中近東、カシミールを経てロシアと中国。政治的に問題なければ半島の北側、ですか。箱館はその後だと。戦車や船を動かす魔石補充のためにも途中でのダンジョン攻略は必須ですもんね。
なるほどなるほど。
世界がビキニ姐さんを知るにはまだ早い、ってことですね。
「しかぁ」
『帆風』
見なよ、この開放感たっぷりのエゾオオツノシカ君と幕末ゴブリン族の顔。
しかたない。
尻拭いするのも莫逆の友の勤め、ということで。
<氷河期ダンジョン・連載版 完?>
+登場人物紹介+
●自称主人公
核ドラゴンが倒された後、異世界召喚を受けた。召喚先の世界がBLなのかガチ●モなのかケモ●モなのかTS召喚なのか倒錯世界なのかは不明。おそらくダンジョンの意思が召喚先の選定に関与している。主人公プレイは大好きだがヒロインには慣れていなかった模様。ひぎぃ。そんなの入ら(キタナい喘ぎ声で以後判読不能)
●ビキニメイル姐さん
核ドラゴン討伐の象徴となった。ミステリアスな方が魅力的ということで外見情報以外のプロフィールは秘密にされ、様々な憶測が飛び交いつつも青少年の性癖を大いに歪めた。面白そうということで肉屋の珍道中に付いていこうとしたけれど文字通りの国防の要なので引き止められた人。
●探索者組合の皆さん
以前よりは多少は動きやすくなった。最近の悩みは都内にナラタケが生えまくっていること。騙し討ち気味に肉屋を海外派遣したことで恨み節を聞かされ各地のおいしくない土産物を送り付けられている。
●自衛隊の皆さん
魔石戦車を現地改修しつつ貴重なデータを収集出来てラッキー。米軍に技術提供もしているが評判はよろしくない。なお公的には魔石戦車も魔石輸送船も人体に影響のある武器はついていない非武装車輛船舶らしい。
●米軍の皆さん
都内の核ドラゴン襲撃後に色々手伝ってくれた。お返しに肉屋をアラスカ派遣してくれよと強請った。
アラスカで核を使おうと言い出した連中はダンジョンで今日も鉛玉の標的になっている。
●エゾオオツノシカ
合体は解除された。大きさも8メートルに戻った。しかし群れである。アラスカの地ではモンスター化したヘラジカ軍団が待ち構えているなど知る由もなかった。
●幕末ゴブリン族
当たり前のように肉屋に同行した。あたま幕末族とはそういうものである。おそらく欧州では騎士ゴブリン族とかそういうのと戦うことになるだろう。
●主人公(肉屋)
ほぼ一人だけ海外派遣の話を聞かされず素直に箱館に戻るものとばかり思っていた。実は核ドラゴン襲撃後にものすごい勢いでレベルアップしているのに気付いた。やべえ、どうしよう。目下の悩みはパスポートを作ったことが無いため、海外で単独行動した途端に非常にマズい事態に見舞われることである。つまり。




