第二十六話 このセカイのシュジンコウ⑩
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魔石戦車が市街地を爆走する。
見る者が見れば卒倒し、また別の者が見れば興奮で鼻血を噴くであろう光景である。
ダンジョンモンスター由来の魔石エネルギーで駆動する魔石戦車は、対モンスター特化の兵器として開発された。浄化系魔法を付与された魔石メーサー砲はモンスターの肉体のみならず、様々な属性魔力の分解消滅も期待された文字通りの切り札なのだ。
「具体的に、どんだけ凄いの?」
砲塔に立つビキニ姐さん。少しは知ろうよ。
この魔石メーサー砲ね、核ドラゴンの放射能火炎による放射線汚染を分解できるんですよ。
「すごーい☆」
あと今ちょっと鑑定魔法で分かったんですけどね、この魔石メーサー砲って通常の放射性物質とかもまとめて無害化できるみたいですよ。
「な、なんだってー!」「本当かね解体屋」「このタイミングで驚愕の事実が発覚したんだが」「……魔石メーサー砲があれば世界の原子力産業が一変するのか」
搭乗している自衛官さん達、あとは無線越しの反応が色々と怖い。
探索者は表向きは自衛隊と一緒に行動してはいけないので、鑑定魔法を使う機会も無かったのだろう。メーサー砲の威嚇射撃でも合体核ドラゴンの余分な突起等が破壊され、その思わぬ威力に自称主人公君は『やるな地球を防衛する軍隊よ!』とか『だが俺にも闇に堕ちた主人公としての矜持があるのだ!』とかノリノリで叫び返している。楽しそうで何より。
「ねえ、肉屋。これ誘導してるのよね☆」
ときどき飛ぶ斬撃で巨大エゾオオツノシカ君の尻を叩いてご満足なビキニ姐さんが、砲塔の上から視線だけこちらに向ける。自分も今は魔石戦車の上に乗っており、核ドラゴン達の逃げ行く先が予定を外れないよう他の探索者と連携すべく探査魔法を駆使している。
本来ならここまで動き回れるほど魔力は残っていないはずだが、合体したことと中核に自称主人公君が入ったことで相当持ち直している。本気で破壊活動を始めれば数分で都内は火の海だ。その意味では自称主人公君が強引に合体して主導権を奪ったことに意味はある。間違いなく。
「港区ダンジョン。肉屋とアイツの因縁が始まった場所よね☆」
因縁というほどではないんですけどね。
自称主人公君、いや核ドラゴンの破壊も割とひどい箇所だけど瓦礫は撤去済み。巨大化したエゾオオツノシカ君も動けるでしょう。探索者組合も十重二十重に布陣して待ち構えてますよ。
◇◇◇
港区ダンジョン。
それは世界で初めて攻略されたダンジョンであり、東京タワーの足元に誕生した異空間である。
『フハハハハハ! 俺を追い立てながら露骨に誘導されていると気付いた時はどうかと思ったが、なるほど! これは俺の最期の場所として相応しい。粋なことをするな莫逆の友よ!』
そだね。
ダンジョン周辺はスタンピードに備えて周辺を整地しているから、君らみたいな巨大生物でもある程度は動けるだろうよ。ダンジョンモンスターは竜種のように20メートル級もいると分かっているし、魔法の余波もそれなりにある。とはいえ都内でこれだけ贅沢に土地を使えるってのは、有難いんだか勿体ないんだか。
それでさ。
君、素直に倒される気はないでしょ。
『無論! 俺は主人公として世界中に夢と希望を与えたい! だが、そのためには! ありったけの恐怖と絶望を用意して全ての人類を破滅の一歩手前まで追い込んでしまいたい!』
君は何処かの漫画家か何かかい。
それはアレだよ、何も考えていないのと同義だな。おっけい。分かったとは口が裂けても言えないけれど。武装解除して投降する気とかはない?
『無粋な話はよせ莫逆の友よ! 俺は魔力の続く限り人の世を破壊し尽くすかもしれん男だ!』
だよねえ。
魔力の続く限り――続くとイイネ。ニヤリと笑う自称勇者君と目が合った。
核ドラゴンたちは気付かない。ただ召喚された身であるし、最強の竜種は多少のことなど気にはしない。今までも探索者が様々なスキルや魔法攻撃を仕掛けてきたし、多少の痛痒はあっても致命の攻撃とは言えないものだ。
だからその足元に絡みつく黒褐色の紐も、単なる植物属性の拘束技と思っていた。核ドラゴンは。
横に並ぶエゾオオツノシカ君と幕末ゴブリン達の表情が強張っているのは、まあ御愛嬌。見てる間に核ドラゴンに絡みつく紐の数が増え、その範囲も足下から膝を超えて全身に達する。本土で活動してる探索者の多くはぎょっとして退いている。
大丈夫ですよ。
魔力を吸収して際限なく成長するだけの、ただの根状菌糸束。魔力が無ければセルロースすら分解できない、辺りの魔力を消費尽くしたら枯れるだけのナマモノです。
ギャオオオオオン
おや、合体していた核ドラゴンさん達が制御を外れて断末魔ですか。苦しいですよね、存在維持する魔力すら奪われて。合体する前なら自身の熱で焼き尽くせたかもしれないって? そうですね、菌糸の生長力といい勝負できたかもしれませんね。
たら、れば。
良い言葉です。自分らの世代もそうやって愚痴ってましたよ。自分らが氷河期でなければ、もしもダンジョンが無かったら。どんな人生を送っていたのかってね。
何の話かって?
いえ、単なる時間稼ぎです。ほら、もう肉体を維持できず塵に還ろうとしている核ドラゴンさんが港区ダンジョンに逃げ込もうとしてます。ダンジョンモンスターだから、他所のダンジョンでも大丈夫かもしれないですね。
大抵のダンジョンなら、君たちの願いは叶った。
だけど、残念。
自称勇者君、港区ダンジョンを出禁喰らってるんです。誰かさんの功績を奪って初踏破報酬を横取りしたペナルティで。港区ダンジョンは君たちに一切の魔力を寄越さない。
そして――
「港区の力を借りてぇ……いま、必殺のぉ☆」
ビキニ姐さんの持ってるエゾオオツノシカの剣に、港区どころか二十三区全てのダンジョンから莫大な魔力が供給されている。可視化できるほど濃密な魔力は光の刃となって天高く掲げられ、
「ろっぽんぎぃぃいいいい☆だぁあああああんっ★」
推定1キロメートルを超えて伸びた光の剣は核ドラゴンどころか地下鉄六本木駅のあたりまで縦二つに両断した。
姐さん、やりすぎ。
+登場人物紹介+
●魔石メーサー砲
別名魔力中和破砕砲。ダンジョンモンスターの天敵として市街地や非魔法使いに被害を及ぼさない兵器としても開発された。実は放射線物質を分解したり放射線を相殺できると判明。どえらいことになった。魔石の魔力で動く。自衛隊の切り札だった。
●合体エゾオオツノシカ君
なんとなく肉屋の思考を読み取り、東京タワー周辺にオーク(植物属性)を配置していた。目の前で起こった惨劇にヒュンと来ている。
●幕末ゴブリン軍
流石にこのキノコは喰えんなあとか考えている。
●ナラタケ君
肉屋が確保していた原種ナラタケ君。核ドラゴンと東京タワー周辺の魔力を根こそぎ奪い、オーク(植物属性)に寄生して子実体を作るだけの簡単なお仕事。周辺に菌糸を伸ばそうとしたとたんに察知した探索者によって焼却された。ヒュンと来た。
●核ドラゴン達
合体前なら体熱でナラタケ菌糸を寄せ付けなかったが周辺魔力を奪われては運命は一緒だった。菌糸拘束はそれほど強くはないが魔力ドレインが半端なかった。ダンジョンモンスターなのにダンジョン出禁喰らってヒュンと来て真っ二つにされた。
●自称主人公君
港区ダンジョン出禁を喰らい、正当な踏破者としての資格を取得できないというペナルティを受けていた。肉屋がナラタケを持ち込んでいることも知っていた。港区ダンジョンに誘導されたことで大体の作戦を理解したが、最後の一撃はヒュンヒュン来ながら真っ二つにされた。
●主人公(肉屋)
魔力枯渇までの道筋は用意した。ねえ姐さん、最後の一撃物凄くヒュンと来たんですけど。
●ビキニ姐さん
六本木・断を縦方向に繰り出した。横一文字切りも考えていたのでヒュンと来た。
●六本木・断
港区ダンジョンの魔力を受けて形成された高密度圧縮魔力剣による唐竹割。刃の長さは1キロメートルを超え、合体核ドラゴンどころか幾つもの高層建築物を切断、地下にまで剣先は到達している。
この技を放ったビキニ姐さんが六本木に特段恨みがあった訳ではなく地名を見てテキトーに名付けたら六本木まで真っ二つにしてしまった。




