第二十五話 このセカイのシュジンコウ⑨
誤字報告本当に助かっております。
感想いつもありがとうございます。
『武』
『豪分』
『臨吾不護』
東京の街を幕末ゴブリン族が駆け抜けていく。
核ドラゴンの出現でパニックを起こしかけた群衆を鎮め、火事場泥棒を成敗し、どさくさに紛れて襲ってきた連中を次々に返り討ちにしていく。尊王攘夷をゴブリン語で何というのか知らないけれど、少なからぬ幕末ゴブリン達が攘夷を堪能している訳で。
世界をひとつにと示し合わせていたというよりも便乗したと思しき、いわゆる滅亡したとされる国の工作員達がどさくさに紛れて重要施設の襲撃をしているのを嗅ぎつけては次々と天誅を喰らわせている。あちらさんも事前に何か掴んでいたのだろう、なかなかに物騒な装備で犯行に臨んでいたようだが相手が悪すぎた。
『鵬武五封凛!』
池袋か秋葉原あたりからよろしくないフィードバックを受けたっぽいホブゴブリン武将が、やたらキラキラした特殊効果を伴って重武装の覆面犯罪者の五体をぶちのめしていく。吹っ飛び方も昔のアニメというかテレビゲームのノリですよ、犯罪者の皆さんてば四肢の関節砕かれてて受け身すら取れない大惨事。
『不侮、誤互武吾』
何を言ってるのか分からないけど、季節外れの桜吹雪のエフェクトはやりすぎだと思いますヒコ様。
はい。
現在自分は瓦礫を回収しながらエゾオオツノシカ君を追いかけてる最中に幕末ゴブリン族と合流を果たしました。知ってますか、エゾシカの歩行速度。野生動物のエゾシカですら最高時速70キロあるそうです。ちなみにガゼルは推定時速90キロオーバー。エゾオオツノシカはモンスター化しているので余裕で100キロを突破し、現在謎のパワーアップを果たしたエゾオオツノシカの群れは公道の最速伝説を更新する勢いで二十三区を暴れまわり、轢き逃げ気味に核ドラゴンへコレダーを叩きつけては次の獲物へと突撃している。
平均身長8メートルの巨体が、である。
なお24メートル強のエゾオオツノシカ君は彼らと歩調を合わせているが、その気になれば余裕でその三倍は早く動きそうな気配がある。地上を亜音速で走り回るのはやめていただきたい。
核ドラゴン討伐状況は随時端末を通じて伝わってくる。
インカム無線に携帯端末はもとより、人力伝言ゲームも有効だ。核ドラゴン周囲では電波障害が出やすいという話は伝わっているが、それでも魔力反応でおおよその位置と数を把握している。思った以上に討伐が順調であること、残された三体が集結し一つになろうとしていること、そこに人間にしては桁違いに大きい自称主人公君の魔力が重なったこと。
えー。
最初はですね、合体したドラゴンに戦いを挑んだんだなーって思ってた訳です。
文字通りのラスボス相手に主人公を自認する男が燃えない訳がない。最終決戦こりゃ勝ったぜガハハハ風呂入ってくる、いやいや都内には案外いい銭湯残ってるんですよヒコ様とか軽口叩く余裕もあったくらいには。現場にはエゾオオツノシカ君たちの魔力も集結していたし、消化試合だと。
えー。
自分、あの男のことを少し甘く考えていました。
主人公プレイするなら手段を選ばないけど、主人公はあくまでも主人公なので。ラスボスを倒して今までの罪を償ってハッピーエンド目指すのが主人公と思う訳で。
「解体屋、あの自称主人公がやりやがった! 残った核ドラゴン三体と合体して主導権奪いやがったぞ!」
その伝令、貴重な転移能力者を使ってまでやって来た訳で。
幕末ゴブリン族ですら豆鉄砲喰らったような顔してる。だって魔力反応見る限り、核ドラゴンはエゾオオツノシカ君と対峙――ん、エゾオオツノシカ君の反応がいつもと違うというか。
「あとエゾオオツノシカの群れが本体と合体して更にでっかくなったぞ!」
……
……
え、なんで自分の責任っぽく言われてるんだろう。
こっち見ろよホブ三様にヒコ様、隅っこで頷き合わないでほしいんだけど。
◇◇◇
でかい。
それが合体した核ドラゴンへ抱いた印象だ。
ただでさえ二十メートル級の巨体だったのが三つ合わさっての姿である。雑に見れば二十階建てビルの高さ相当の大きさで、逆に言えばその程度である。映画史に残る伝説の怪獣王サンの初代サイズにようやく届いたと考えると目元を黒い棒線で隠したくなるが、それが人型になっているということで、もはや全身モザイクかけた方がいいかもしれないと思う。
よりによって人型である。
出版社とゲーム会社が許してくれるのだろうか。あとアニメ会社。マニアとかオタク層はもうぶち切れどころの話ではなく、SNSは自称勇者への罵詈雑言が凄まじい。
【馬鹿かこいつは】
【角を増やすな】
【おいカメラ止めろ、公共の電波に乗せるな】
【よりによって駄目な方向でドラゴン再現しやがって】
【分かった。自称勇者にデザインセンスはない】
【昭和ロボだってまだ自粛する造形】
【画伯だってもう少し手心を加えるぞこの場面では】
そして、その合体核ドラゴンと相対するエゾオオツノシカ君。
こちらも合体核ドラゴンと同じくらいの大きさで、角に浮かんでた紋様が全身に及んでいる。よくよく見れば紋様の意匠が楢だけでなくキノコとかオークとか幕末ゴブリン族とかカエルなどが描かれており、神々しいというかメカメカしい感じが凄い。
【乗れそう】
【額のクリスタルからビーム出る奴、鹿びーむ】
【処刑BGMはよ】
【対抗して美少女ロボになれよおおおん】
【やめるのじゃ、千代田区と財団Bが本気を出してしまうのじゃ】
余裕あるな日本国民。
戦うなら被害は少ないからって江東区の埋め立て地区に移動しているが、その途中で放射能火炎の流れ弾で有名なテレビ局の建物が吹き飛んでいる。ニュースやバラエティ番組で自称主人公をオモチャにしてきた局だったのは、多分偶然だろう。国際展示場も念入りに破壊されている、次の即売会でまかり間違ってビキニ姐さんがコスプレ会場に現れないための予防措置かもしれない。
『莫逆の友よ、この合体核ドラゴンはオレが抑えている……だが、いつまで人としての理性が保つかわからん! オレを人として死なせてくれ!』
微塵もそんなことを考えてなさそうな自称主人公君、ノリノリである。制御不能な筈の放射能火炎が六本木とか赤坂とか東新橋にあるテレビ局をピンポイントで直撃しているという阿鼻叫喚ニュースも流れてくる。なんか有名人(?)指名される展開とか激しく萎えるのだけど、探索者としての役目を果たさねばね。
『フッ……思えば最初のダンジョンで出会って以来、俺とキサマの運命は決まっていたのかもしれないな』
額からビーム発射しそうなポーズで意味深な台詞を吐く自称主人公君。
合体しないの、と期待の眼差しを向けてくるエゾオオツノシカ君。
え、合体したいの?
「しかぁ」
そっか。
合体したいそうですよ、ビキニ姐さん。
「はぁい、お・ま・た・せ☆」
うん。
自衛隊の魔石戦車隊、爆走するその砲塔の上に立ってビキニ姐さんがやってきた。以前姐さんが切り落としたエゾオオツノシカ君の二本の角もご持参で、パーフェクトモードへの合体も準備万端である。
「……しかぁ」
あ、逃げた。鹿も核ドラゴンも。
+登場人物紹介+
●幕末ゴブリン族
池袋と秋葉原より人の業を受信した結果、なんかスマホゲームみたいな感じに戦うようになった。箱館に戻れば程よく毒も抜けるだろう。沖田総司っぽい美少女ゴブリン(Aカップ)は出現しなかった。肉屋と都内を駆け巡れて、たーのーしー☆
●火事場泥棒の皆さん
幕末ゴブリン族が刀や槍を振るう度に派手なエフェクトと爆発音で吹き飛んだが命はある。警察の人達が実に複雑な表情で逮捕していった。
●一般視聴者
多方面からの映像中継でおなか一杯。とりあえずシリアスが破壊された空気だけは読めた。核ドラゴンと鹿それぞれの合体場面動画が早速加工されて全世界に出回っている。
●自衛隊
一般市民の避難も終了。虎の子の魔石戦車隊を繰り出すも威力が高すぎるので市街地ではナー、せやお台場に核ドラゴンとか誘導しよう。
●合体核ドラゴンの被害
主に民放TV局が狙い撃ちにされた。国営はギリギリかすめたが次は無いぞという意思が見え見えだった。公式発表では全員避難したことになっている。
●合体核ドラゴン改
詳しく描写するとダイナミック訴訟不可避。コントロールは自称主人公が掌握している。核ドラゴンは分離したいが逃げられない。
●エゾオオツノシカ君キング形態
詳しく以下略。肉屋が今までかかわったモンスターの力を宿したエゾオオツノシカ君のイレギュラー合体形態。トラフグカエルの力も宿しているので実は美味しい。通常攻撃がMAP兵器で四回攻撃のぐう畜はお好きですか?
●主人公(肉屋)
ビキニ姐さんを召喚した。
●ビキニ姐さん
来ちゃった☆




