第二十四話 このセカイのシュジンコウ⑧
誤字報告、感想いつもありがとうございます。返信遅れて申し訳ありません。
ども、自分です。
先刻までSNSが自称主人公君のグロ配信で阿鼻叫喚だったのが、今は別の意味でおかしなことになっています。
【が、ガンダ――じゃなくてガゼル!】
【でも「しかぁ」って叫んでるガゼル】
【むうんっ、あれこそは英祖王角鹿!】
【エゾオオツノシカって蝦夷大角鹿じゃなかったの?】
【しかつよい】
以上、一部抜粋。
もう大惨事。
出現と同時に二足歩行の核ドラゴンを踏み潰し、後から現れたエゾオオツノシカ軍団と幕末ゴブリン族を率いて都内を大驀進。他に出現した核ドラゴン八体も、向かってくるもの、逃げようとするもの、傍観するものと、行動が一致しないほど混乱している。いったい誰がこんな恐ろしいことを――いや、ちゃうねん。自分は人手足りないから鹿とかゴブとか居たら助かるのになぁとは思いましたけど。
あ、放射能火炎を吐きながら襲ってきた翼竜型が集団コレダーで叩き落されてやんの。
「総員、吶喊!」
なんかもう事前の段取り吹っ飛んでごめんなさい。
現場指揮官もノリノリだし、探索者達もある意味ガン極まりで突っ込んでいる。おいおい自衛隊が魔石戦車を引っ張り出してきたけど、あれ他国にも秘密の新型兵器じゃ。
「てめえも突っ込め解体屋ぁ!」
はぁい、よろこんで。
とはいえ身体能力が高い方ではない自分は、前衛系の探索者達が戦いやすい道筋の確保が最重要。邪魔な瓦礫を解体あるいは収納して皆の足場を提供する。自分だけで戦うならともかく、あれほどの大きさの核ドラゴン相手に解体魔法を使えば間違いなく一緒に戦う仲間も巻き込んでしまうのだ。
「自称勇者、杉並区にてワニ型の核ドラゴンを撃破! 渋谷区方面に向かっています!」
おやまあ念願の初撃破おめでとう。
組合の職員さんが核ドラゴンの進路予想図に加えて自称勇者君の移動経路も端末に送ってくれている。
現在自分らが対応しているのは西洋竜型の核ドラゴン、さっきまで飛んでいたけれど翼を失い墜落している。
核ドラゴンは合計九体、撃破済みが四体。
エゾオオツノジカ君が二体、自称主人公君が一体、そして遊撃のビキニメイル姐さんが一体。街はどんどん壊れていくが、収納持ちがどんどん回収していくので案外綺麗だ。自分らは空飛ぶ奴は叩き落し、アタッカーに程よく無力化調理された核ドラゴンを提供する仕事に専念中。
避難が間に合わなかった住民の救助と治療も並行している。携帯端末で撮影しようとするバカもとい命知らずも、一定数いるので後方に。この状況でなおカメラを向ける彼らの情熱には驚き半分。ヘリごと放射能火炎で撃墜された報道関係者よりはマシと思いたい。
……
……
弱体化しているとはいえ、こちらの攻撃が面白いくらい通用しているなあ。
銃火器だと人が持てない規模の大口径でも跳ね返してる映像が多かったから、中継への反応も凄まじい。もちろん放射能火炎は恐ろしいが、物理ではなく魔法の産物。なので、日本のダンジョンに慣れた者にとっては属性魔法と変わらないから防御どころか反射に成功するのもいるわけで。
【何これコワイ】
【アイツら社会の底辺でしょ? どう言うことなの】
【ちょ、ビキニの美少女剣士がドラゴン二体目】
【叡智だ】
【嗚呼、人類の叡智だ】
【自称主人公も二体目なのに】
ビキニ姐さん、へそと脇と谷間を惜し気もなくさらしていらっしゃる。一般男性の夢と興奮と、一般女性の怨嗟の声がSNSに渦巻いている。
自称主人公君、強く生きろ。
◇◇◇
あれほど苦戦した核ドラゴンを、剣で容易く両断できる。
弱体化の度合いは、想定以上。
アハハハハ、なんだよあの鹿。いや莫逆の友が手懐けたと噂になっていたが、核ドラゴンの召喚陣を逆手にとって来るか。馬鹿じゃねえの、最高。ゴブリン共もイカすじゃないか、クソザコなモンスターなんて前評判をすげえ形で裏切ってくれるじゃないか。
周囲に飛ばしている配信用カメラと端末は、状況を伝えてくれる。
核ドラゴン九体中、これで六体が倒された。自分が二体倒したスピードは想定内だが、他の連中も決して雑魚じゃねえ。
世界中の軍隊が討伐を諦めた、あの核ドラゴンを!
配信コメントは海外っぽいのが多数。汚い言葉も多数混入。核ドラゴンが倒されたことへの喝采と、それをあっさりと成し遂げた日本の探索者達を恐れる声! 今頃気付いたのかよと更に笑う。幾つもの国を滅ぼした竜を屠るモノが、この国では虐げられた立場にいる。最底辺に居て当然と思われている。海外では一定の尊敬を受けているというのに、日本では就職難世代の処分先。死んで当然、生きてて不思議。ダンジョンが消えたら無能に逆戻りの厄介者。
さあ。
さあ、さあさあ。
お前たちは見たぞ世界は知ったぞ。放射能火炎を弾き返し、巨体を叩き飛ばし、その首を斬り落とす。たとえ今日を生き延びたとしても、明日以降お前たちは俺達をどんな目で見る?
核ドラゴンは残り三体。
各個撃破を嫌ったのか生き残りの核ドラゴンは集結し、ある程度の距離まで近付いたら合体する仕掛けでもあったのだろう――おそらくは世界をひとつにが召喚魔法陣に仕掛けたとみるべきか。ラスボスか、ラスボスだな。世界をひとつにのくせに主人公を引き立てる方法を心得てやがる!
待ってな合体ドラゴン!
俺が、俺こそが、俺だけが――
「しかぁぁぁぁあ!」「しか」「しかしか」「しかっ」「しかかかかっ」
え、待って。
待てよ鹿ども。
なんで黄金の光を発しながら集結してるの、なにそのカッコいいポーズは。
あっあっあっ。
が、合体するのかっ。
ズルいぞ、そんなカッコイイのは! 俺よりも目立って俺よりも活躍するとか、これじゃあ主人公の立場がねえ! しかもドラゴンの方はパーツが足りてないのか絶妙にかっこ悪い! これじゃあ少年少女の心がときめかない!
そんな最終決戦、俺が許すものか!
俺は現場に到着すると、中途半端にクソだせえ合体しかけたドラゴンに向かって力いっぱい叫んだ。
「待たせたな合っ体ぇドラゴン!」
横に立つ俺の姿に困惑を隠せないドラゴン。
分かるぜ、今ならお前の気持ちがよく分かる。こんな半端な形で散りたくはないだろう。仮にもダンジョンボスとして生まれるも本懐遂げず核汚染されて国を焼き、世界をひとつにの怪しげな召喚魔法で弱体化した状態で異国に呼び寄せられたッ。滅びは避けられないが、カッコよく散りたければ俺が力を貸してやる!
……
……
なんで嫌がってるんだよ。
俺が同胞を二体撃破したことが気に入らない?
そもそも今まで何度も戦ってきた敵との合体とか正気とは思えない?
俺と合体するとダンジョンから怒られる?
……
……
うるせぇ、黙って俺と合体するんだよッ!
+登場人物紹介+
●ビキニ姐さん
真っ赤なビキニメイルでぶるんぶるん言わせて核ドラゴンを二体倒した後はマスコミに囲まれてご満悦、というか次の核ドラゴンを倒しに行こうとするも野次馬が多すぎて困っている。何も知らない少年たちの性癖に深刻なダメージを与えた。
●自称主人公
核ドラゴンをサポートありとはいえ2体撃破している。
ビキニ姐さんが注目を浴びてちょっと焦ったところに残ったドラゴンが無様合体しているので強引に合体に参加した。主人公らしく目立てるなら人類を護りつつ闇落ちプレイも一興とか思っている狂人。
●エゾオオツノシカ君と愉快な眷属
全長25メートル超のビッグな鹿君を中心に8メートル級の鹿の群れ。核ドラゴン2体倒したあたりで黄金に輝き始め謎の合体モードが始まった。幕末ゴブリン族は満足げに戦っている。
●核ドラゴンの皆様
召喚時に必要以上に弱体化喰らった上に、居合わせた人間は核ドラゴンの天敵ども。本来は九体で東京を蹂躙した後で合体する仕様が、三体で合体することに。無様な合体を晒していたところに自称主人公が合体に介入してきた。あのー、貴方は我々の宿敵だったはずでは?と宇宙核ドラゴン顔である。
●主人公(肉屋)
エゾオオツノシカ一行が出現した途端、なんか凄いエネルギーが自分に逆流しているけど表には出せず支援魔法とか解体魔法で瓦礫とか片付けている。エゾオオツノシカ君が合流したがっているのが見え見えなので送り出された。え、本当に合流するの?




