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第二十三話 このセカイのシュジンコウ⑦

誤字報告、感想いつもありがとうございます。いよいよ不定期更新になりそうです。

 その日、ネットで散々オモチャにされてきた自称勇者君のSNSが久しぶりに更新された。

 核ドラゴンに焼かれた国々を巡っていたことを定期的に報告するだけのメモ帳と化していただけに、かつて彼とレスバしてきた者達は玩具の帰還を昏い気持ちで歓迎した――動画を開くまでは。


【よお、諸君。オレだ】


 底抜けに明るい笑顔だ。彼の後ろで折り重なるように倒れ伏す人間達は、辛うじて息があるようだ。それが反社グループに加担した元勇者一万人計画の残党や、世界をひとつに(ユニオンプロジェクト)の構成員と気付くものは無い。ただ日本ではまず見かけることのない銃火器などで武装し、探索者のような武具を持った者達だ。尋常な状況ではないと視聴者の多くは気付く。


【先日38度線を越境して攻撃してきた放射能火炎を吐くドラゴン、あれな。いま東京に襲ってくる。オレが今ここでぶっとばした連中が魔法陣使って世界中の核ドラゴンを東京に呼んだ、悪いなオレは間に合わなかった。残念だなー、最初からオレが日本に居れば間に合ったのに☆】


 それが録画ではないと気付いたのは、都内の住民だった。

 巨大な光の柱が地面から空へと伸びていく。

 朝だというのに日差しの眩しさに負けないほどの強烈な光。そしてガラスを割ったような破砕音と共に聞こえてくる獣の咆哮。本能的な恐怖を呼び起こす、竜の叫び。ただそれだけで複数の建物が吹き飛んでいる。

 光の柱より姿を見せるのは、二足歩行の竜。

 忘れるはずもない、つい先頃にあらゆるメディアを賑わせた大怪獣だ。


【俺以外にもドラゴンと戦ってくれそうな奇特な奴がいるよ。テメーらが社会の底辺って馬鹿にしてきた連中がな。そいつらに無様に尻尾振って命乞いしてもいいし、オレが到着するまで逃げるのもいいぜ。選ぶ自由はテメーらにある、嫌なら自分で立ち向かうのもアリだ☆】


 再び破砕音。

 別の、都内の別の場所にも光の柱が立った。あたりで悲鳴が上がる。何かを見てしまった自動車が衝突しそうになって慌てて路肩に停止する。恐ろしい気持ちがありながら、携帯端末のカメラを向けようとする無数の歩行者たちがいる。その全てから悲鳴が上がった。


【――知ってるか、分かってるだけで核ドラゴンは九体いる。それを討伐できれば、そいつらの国も日本も助かって万々歳。討伐に失敗すれば、九体の核ドラゴンが列島を蹂躙する。良かったな、昔みたいに唯一の被爆国として世界中から同情を集められるぞ】


 じゃあな、と配信は終わる。

 破砕音は続く。

 ふたつ、みっつ。

 まだまだ続く。

 数えてる間も悲鳴が聞こえる、男も女も関係ない。都内のあちこちに光の柱が次々と生まれ、それは九個では終わらなかった――




◇◇◇




 朝から酷いものを見てしまった、と青年は携帯端末を収納した。

 青年は探索者である。

 氷河期世代からは一回り以上若く、いわゆる勇者一万人計画の世代ではあったが彼は国家に選ばれない形で探索者の門を叩いた変わり者である。青年が探索者を志したのは単純に家庭の事情であることと、一度くらい経験してみたかったからだ。

 結果として青年はダンジョン探索をやめることなく本日に至り、そこそこの実力を認められている。

 そこそこの実力をだ。

 北海道への派遣組にも選ばれたし、そこでは巨大な鹿を仕留めて驚かれたりもした。青年としては、あの巨体を五分足らずで綺麗に解体したベテラン職人の技にこそ驚愕したものだが、とにかく探索者の世界には多くの達人がいると知れただけでも収穫だった。

 さて。

 青年は普段都内を拠点に活動する探索者である。

 都内にある幾つかの探索者組合は核ドラゴンによるテロの情報を隠しておらず、出現予測地も割り出している。警察や自衛隊の事前協力も得ており、自称主人公の犯行声明みたいな映像が流れた途端に都内には非常事態ということで住民の避難誘導が始まっている。とはいえ都内といえどダンジョン周辺はある程度の人払いがされており、避難誘導そのものに支障はない。

 青年も含め最寄りの光の柱に向かう探索者は複数。


 逃げようと思えば逃げられる。

 でも、いつか逃げ続けるのに疲れたり飽きるんだから、だったら最初から立ち向かう方が楽っしょ。


 ドラゴンとの戦いは箱館でも経験していない。

 戦った中で最も強かったのは、8メートル強のエゾオオツノシカだ。あれだって並のダンジョンモンスターを蹴散らす強力な存在だったわけだが。それでも映像で見た核ドラゴンは推定20メートル強で、こちらの攻撃がどこまで通用するのか分からない。

 

「自称主人公クンはそこそこ通用してたっぽいよね」「まっっったく参考にならねえ」「だよねー」


 光の柱を囲む探索者達が苦笑する。

 青年が最年少で、主力は氷河期世代だ。核ドラゴンの放射線障害がどれほど影響出るのか分からない以上、年配者達が志願して先陣を切る形になった。


「――来る!」


 誰かの警告と共に割り砕ける光の柱。

 現れるのは二足歩行の核ドラゴン、映像で見たものより一回り小さい……と、それを頭から踏んづけて地面に縫い付けている一匹の獣。


「しかっ」


 そう啼く獣は、楢の木を思わせる紋様を二本の巨大な角に描き、周囲にある魔力をその角と体毛に蓄えていた。足元の核ドラゴンが呼吸困難を起こしかけているのは、存在維持に必要な魔力すら獣――エゾオオツノシカに奪われているからに他ならない。


(やべえ)


 かつてそれを狩ったことのある青年は、目の前にいる個体がとんでもない存在であることを一目で理解した。そもそも肉屋(ブッチャー)の従魔じゃないかと疑われている特異種で、ダンジョンの奥にいるオークマザーより莫大な魔力を得ているとの噂も聞いている。

 身長制限が無ければ間違いなく東京までついてきたと言われていた、その獣が。

 エゾオオツノシカ君が。

 どういう訳か核ドラゴン召喚用魔法陣を乗っ取る形で出現してしまった。本来の身長より三倍ほど大きくなって。


「しかーっ!」




 世界をひとつに(ユニオンプロジェクト)が核ドラゴンを無差別召喚する魔法陣は、こんな条件が設けられていた。


【身体から強大なプラズマを放つ有角の巨大な獣】


 である。

 九体ある核ドラゴンに共通する要素を挙げたらそうなった。世界をひとつに(ユニオンプロジェクト)は大真面目に話し合い、その要素での召喚条件に組み込んだ。仮に条件が近いモノがいたとしても、核ドラゴンは確実に召喚されるはずという世界をひとつに(ユニオンプロジェクト)側の確信があった。

 つまり、偶然である。

 召喚用魔法陣を描いたポスターが肉屋(ブッチャー)と呼ばれる探索者の手元にあったことと、その存在が一種の触媒となって召喚魔法陣が起動していたことと、二十三区のダンジョンが放出する魔力配分を肉屋(ブッチャー)の持つポスターの召喚魔法陣に密かに集約させていたことは、全くもって偶然の積み重ねである。多分。

 たとえエゾオオツノシカが召喚魔法陣を通過する際に過剰魔力で通常の三倍となったとしても、同時召喚された核ドラゴンをうっかり踏み潰したとしても、そこに悪意はない。一度開いた魔法陣を経路として通常サイズのエゾオオツノシカの群れと、その背に乗った幕末ゴブリン族が出現して核ドラゴン達に注がれるはずの魔力の相当数を奪い取ったとしても。それはもう彼らが用意した魔法陣の仕様なので致し方のない話である。


「しかっ」

『布武』

『護府臨』

 

 こいつら合戦準備して来やがったと青年は気付いていたが、それを口にする前に頭部を完全に踏み砕かれた核ドラゴンを見て沈黙することを選んだのは英断であった。 



+登場人物紹介+


●自称主人公

 ノリノリで配信し一般市民を絶望のどん底に叩き落した。配信後、出現したエゾオオツノシカ君が核ドラゴンの一体を踏み潰した映像を見てなんかもう物凄く愉快な表情になって固まったが、配信終了後の出来事だったので威厳は保たれた。なあにアレ?


●ユニオンプロジェクトと愉快な仲間達

 用済みになったので我慢できずに自称主人公が壊滅させた。元々その予定だったしイイよね?ってノリで。彼らとしても東京に核ドラゴン呼べたら死んでもいいので別にええで気分の幹部たちだったが、エゾオオツノシカ君の出現で頭が真っ白になった。なあにアレ?


●青年探索者

 箱館でエゾオオツノシカを狩った事もある中堅以上の探索者。若手でも有望株。なんか見覚えのあるケモノとゴブリン族が目の前に現れて核ドラゴン一匹ぶっ潰した後に都内爆走し始めてるんですけど。なあにアレ?


●エゾオオツノシカ君

 ユニオンプロジェクトの魔法陣の設定ガバの被害者。

 むしろ魔法陣の召喚条件のガバ具合に肉屋が「これエゾオオツノシカ君来れそうだな」とかぼそっと呟いたのをダンジョンの意思が聞き取って二十三区結託してパスをつなげ、箱館湯滝ダンジョンに話を通した。普段の三倍くらいの巨体になっているし、ユニットと武装が各十五段階くらい改造済みにもなっている。なあにコレ?


●エゾオオツノシカの群れと完全武装幕末ゴブリン族

 エゾオオツノシカ君が偉大なる戦いに招喚されたのでついていった。準備万端完全武装なのは幕末ゴブリン族の嗜みである。話には聞いていたが江戸の街はもう微塵も面影が無いのだな、なあにアレ?



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― 新着の感想 ―
やったね 本来の仕事の首都の治安維持が出来るよ! (幕末脳筋に出来るのかは考えない物とする)
奈良の鹿たちも来い、間に合わなくなっても知らんぞ(何が?)
と、登場人物みんな困惑してるーっ! シリアスさんはちょっぱやでお亡くなりになりました。立派なサイゴでした。
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