第二十話 このセカイのシュジンコウ④
超超不定期連載です。
世界をひとつに、という組織がある。
正確には組織ですらない可能性もある。
御存じなければこの話はここまで。別の話題に移りましょう、要するにそういう痛々しい連中がいるってだけの話ですし。
「……勇者一万人計画を役人達に吹き込んだ団体と聞いています。計画自体はあっさり破綻したものの、魔法やスキルに覚醒した相当数をテロリスト予備軍として自らの手駒に引き入れたとも」
そっすね。
連中は魔法やスキルに精通し、ダンジョンの仕組みもある程度は理解しています。東アジアにいた核ドラゴン、38度線を越境して攻撃仕掛けるパフォーマンス見せたくらいですからね。
「その核汚染竜種を東京に嗾けると言っていたな」
嗾けるというか、擦り付けというか。ですかね。
核ドラゴンさえ居なければ解放できるダンジョンは幾つもあります。彼はこれまで自身の名声を高める手段として、核ドラゴンに焼かれた国の解放を目指してました。
半島に一体、元中国に三体、元ロシアに二体、アラスカに一体、カシミールに一体、それから中近東に一体。
すべての核ドラゴンに彼は戦いを挑み、撃退にこそ成功していますが撃破には至っていない。
もし撃破できれば、そのダンジョンの仕様を初期化できる可能性がある。
「……初期化、できるというのか」
正規の踏破者にはできます。
そのためには核ドラゴンを撃破し、ダンジョンの意思に認めさせないといけない。でもそれは彼には不可能な事なので、出来る人材に丸投げしようってのが今回の彼の目的ですね。この国にはドラゴンを討伐できる探索者が複数いるけど、国の方針で外国に派遣できる可能性は低い。
だから倒せる相手の前に核ドラゴンを届けようって考える人や国が現れても不思議じゃないと思いません?
「……国」
そりゃあ、ねえ。
難民として迎えてくれないなら、自分達の故郷を取り戻したい。そういった人達が世界をひとつにの思想を支持し、魔石を提供させ、国際機関に浸透させる。
彼、そういった国々では本物の英雄扱いですから。
放射線障害でボロボロの身体をレベルアップで誤魔化しながら戦ってきた、本物のカッコつけですよ。人の悪意とか汚いものを散々見せられて、バカみたいな思想のカルト団体と手を組んでまで、核ドラゴンに焼かれた国を取り戻そうとしてると言えば美談にしかなりません。
もっとも核ドラゴン嗾けられる日本はいい迷惑ですがね。
「まったくだ。ドラゴンを倒せる人材を海外派遣させることが出来れば、奴は――いや、それでは探索者を人身御供にしろと言ってるようなものか。すまない」
結果は変わらないから謝罪は不要っすよ。
それに真っ赤なビキニメイル着た外見美少女だけど還暦すぎた姐さんを日本代表として送り出すのは、ねえ。
……
……
どうしました刑事さん。
どうもしませんよね刑事さん。
では自分はこれで。
◇◇◇
探索者組合に戻ると、自衛隊っぽい制服の人達がちらほらと。
警察や消防の人、役人さんも見える。
はてこういう時は有識者による対策会議とか開くのではと思ったら、外遊から帰って来たばかりの内閣の皆さんが国会中継中に真っ白な手に掴まれて地面の下に引きずり込まれたと職員さんが忙しくも楽しそうに教えてくれた。もはや対策会議どころの話ではなく、政権与党の皆さんは現在東京から総出で脱出中とのこと。
東京から逃げ出しても助からないのにね。
唖然としていると、探索者組合相談役とかそういう肩書をいつの間にか引っさげた親友が来た。
「新しい内閣が出来るまで時間がかかる。探索者組合の一部有志が勝手に迎撃に動き出し、善意の協力者が有給とって探索者組合に職場体験するそうだ」
いいのか親友。
めっちゃいい笑顔で金属バット持った官僚さんがダンジョンに潜ろうとしてるぞ。放っておけばいい? 他の探索者も袋叩きに参加すると、なるほど。
それで警察で色々ゲロってきたけど、あの主人公君は核ドラゴンを東京で始末する気でいる。うん、東京滅亡とか攻撃したくてたまらない連中と手を組んでるのも多分事実。とにかく東京まで誘導する手段があって、東京滅ぼせてもオッケー、でも核ドラゴンはぶっ潰したいって考えてると思うよ。
「なんだそりゃ面倒くさいこと考えやがって」
十中八九、東京滅亡させたい勢力と核ドラゴンどっちも潰したくて自分ら巻き込みに来たと思うよ。その方が主人公っぽいから、とかそんな理由で。
「考えそうだ。そして実行するだろうな」
……
……
このままアレの思惑通りに動くのも、腹立たしいよね。
「うむ」
狙い通りの結末は実現するけど、結末さえ帳尻あわせたら許されるような気がしてきた。
「……うむ?」
それじゃあ、組合側の陣頭指揮とか諸々お願いしますね。
自分チームプレイとか向いてないし、今まで通り。スタンピード予防のために無茶した二十三区のダンジョンに頭下げに行かなきゃいけない。定時報告には戻るし端末も持っていくから緊急時には呼び出しよろしく。
◇◇◇
自称主人公と呼ばれた男は笑っていた。
今回の計画、反社系探索者の武装蜂起に呼応する予定だった攻略者養成校がいつのまにか潰れていた。正確には世界をひとつにが工作員として送り込んだ者がダンジョンの裁きを受けて心を砕かれて自滅していただけの話。
都内で混乱を引き起こす予定だったモンスター愛護団体も、箱館に興味を持ち始めた。四肢欠損すらたちどころに再生し、若返り効果さえある回復食材。しかも少なく見積もって数百人分が振舞われた話を聞けば目の色も変わるのは仕方ない。
なんだそりゃ。
警告を発する前から既に計画の一部を潰されていたのだ、流石は莫逆の友と上機嫌になる。
「魔石によるダンジョン領域外へのモンスター誘導には成功している。魔法陣によるモンスター召喚技術の応用で、地球の何処にいても核汚染竜種を呼び寄せることは理論上可能な筈」
他のモンスターでは成功している。最弱のモンスターとはいえ、スタンピードで市街地に溢れていた猛毒カエルを都内まで魔法陣で呼び出す予備実験は幾度も行った。魔石さえ十分に用意できれば問題ないはずと世界をひとつにのメンバーが胸を張りながら自称主人公を見てきた。
「核汚染竜種が暴れてくれるなら、貴方が竜と共に東京を滅ぼそうとも竜を倒して英雄に返り咲こうとも我々は関知しない。その代わり、核汚染竜種の召喚までは力を貸してもらう」
「おっけー。俺も主人公らしく輝けるなら正義とか悪とか関係ないぜ」
心底楽しそうに、自称主人公は笑っていた。
+登場人物紹介+
●警察の皆さん
少しだけ肉屋と情報交換できた。ユニオンプロジェクトが勇者一万人計画の発端であることを思い出して色々動いたが、少し前に後継組織である攻略者養成校ごと事実上解体されていることに気付いた。その過程でモンスター愛護団体の動きが怪しいと動くことになる。
●探索者組合の皆さん
多方面から人がやって来た。有休消化を兼ねての休日探索者活動は政府も推奨している対スタンピード運動です。肉屋にフリーハンド与えて放り出したぞこいつら。
●自称主人公
世界を救えればよし。救えなくともよし。世界を回ってる最中に主人公らしく振舞って、その過程で核ドラゴンに滅ぼされた国々を直で見てきた。国を失いどこにも行けない民を見てきた。ヨシ、こいつらを救えたら俺はますます最高の主人公だな!
●ユニオンプロジェクト
秘密結社ユニオンプロジェクト。なお作者の他作品にも同名の存在がたびたび出ているが本作品との関連性は不明。とりあえず能力者をかき集めている段階。召喚魔法の知識とか魔石誘導の技術はある日突然頭の中に情報が入ってきた。勇者一万人計画とかの黒幕。探索者弾圧法案とかモンスター愛護団体の運営もやっている。
●放射能汚染竜種
核ドラゴン。半島に一体、元中国に三体、元ロシアに二体、アラスカに一体、カシミールに一体、それから中近東に一体いる。自国ダンジョンで核落とされて誕生したのもいれば、別の核ドラゴンが誘導されて襲撃した結果誕生したのもいる。半島は二足歩行、元中国は龍、元ロシアとアラスカは西洋竜、カシミールはワニとかトカゲのミックス系。放射能火炎(ただし魔力によって生み出された)を主武器とすることで共通している。自称主人公君は撃退は出来るが撃破できるほどの決め手がない模様。吸収した魔力によって身体のサイズが変化する。
●新総理と愉快な内閣
国会中継中に白い手が伸びて地面に吸い込まれた。核ドラゴンの話は既に伝わっているので野党側も政権に就きたがらないという国会空転状態が発生した。この状態だけでも自称主人公君は満足している。
●主人公(肉屋)
今度の警察は話を聞いてくれて有難い。探索者組合になんか人沢山で陰キャは辛い。ダンジョンに詫び入れに行かなきゃいけないという口実で単独行動開始。




