第十一話 休みの日はダンジョンに潜る
超不定期掲載です。
最底辺の探索者に休日はない。
嘘です。むしろ仕事したいのに怪我とか疲労で動けない休日を過ごすベテランが多いです。
自分です。
ダンジョンが外部に露出浸食している北海道のこの街では、溢れ出る魔力が探索者の自動回復系スキルを刺激してあっという間に休息要らずの身体を仕上げてくれます。バトルジャンキーにとっては天国仕様ですね。自分らはそうじゃないんで。
そういや探索者相手の風俗とか最近見かけません。風俗側が御断りしている事情もありますが、男女間の距離感への耐性なくて過剰に貢いで借金漬けになった探索者が一時期大発生した結果、法規制されました。
探索者と一般人が交尾した場合、問答無用で探索者が強姦罪で捕まるという法律です。
探索者のスキルや魔法を一般層に拡散したくない思惑が見え隠れしますが、借金の取り立てに来たはずの怖いお兄さんたちがダンジョンに打ち棄てられたり、ガチ恋された嬢の真実に気付いて発狂した探索者達が減るのは大変良いことだと思います。
最近はそろそろネット配信者へのガチ恋勢と課金が規制されるんじゃないかなと思っています。同じ探索者なので分かりますが、他人との距離が全く分かりません。
「しかぁ」
いや野生動物となら距離感ばっちりという訳でもないんですよ、エゾオオツノシカ君。
◇◇◇
日常の仕事が解体テント固定なので、たまの休日にダンジョンに潜ろうと思う。
「本末転倒では」
分かっちゃいるんですよ職員さん。
趣味でダンジョンに潜るようになったらおしまいだって。自分らは終身雇用を目の前で粉砕されて、年金開始年齢とかのゴールポストを目の前でどんどん動かされている身ですからね。自分、地元じゃ天下りの支部長にダンジョン出禁喰らったことあるんで、潜れる内に動きたいです。
後ろをついてるホブとシカは徘徊ボスであって従魔ではありません。
はい。
違うんです、信じてください。
「しか」
『歩武』
徘徊してるんです。たまたま行き先が一緒なだけで。隊列なんて組んでいませんからね。
はい、入ぅ場ぉ。
箱館湯滝ダンジョン。
地元民だけでは対処が追い付かないほどモンスターがあふれたが、全国から駆け付けた探索者と地元民の奮闘で現在は以前ほどひどい状況ではない。なにより溢れたモンスターが幕末ゴブリン族で、城郭公園で合戦を始めるという予想外の展開が不幸中の幸いではあった。
幸いであってたまるか。
さてダンジョン。
医薬業界を発狂させたダンジョン薬草にダンジョン茸。これは今のところ発見されたすべてのダンジョンで採れているが、生息地と産出量はダンジョンによって異なる。湯滝ダンジョンは比較的入り口に近いところに密生しているが、これはスタンピード後に出現したもので界隈では「ダンジョンの詫び入れ」と呼ばれている。その生息地には、学校指定のジャージ姿にプロテクターを装着した数名の少年少女がいて採取に勤しんでいた。
はい、ステイ。
エゾオオツノシカ君もヒコ様もストップ。距離をとる。
少年少女諸君も驚かせて済まない。
いや驚いていないのか、それは逆にびっくり。ええと、高校生くらいかな。自分らは、ですね。はい探索者組合のテントでモンスター解体してるひとです。お邪魔しました。本当にね。
◇◇◇
若い子との会話が、できない!
というか二十代の子とも会話が噛み合う自信がない!
ましてや中高生!
叫びながら、奥の方で薬草をむしり取る。そのままでは調合に使えないけど上級ポーションの材料になる薬草だ。しかも加工は採取直後にやらないといけないので、自分のような解体スキル持ちや調合スキル持ちが現地で採取する必要があるから組合でも採集対象として明示していない。
若い子との体臭が、違いすぎる!
肌艶とかもそうだけど、なあ。ダンジョンでレベル上がったり特殊スキル使ったりアイテム使うと外見が若返る傾向にあるんだけど、本物とは違うんだよ。
『不誤』
ヒコ様、あそこを見てほしい。
徘徊モンスター、トロウル雷電為右衛門と戦ってるビキニメイルの露出度くっそ高い女戦士。
『御婦』
あの人な。
中高生にも見えるけど、還暦。孫にちゃんちゃんこ代わりにビキニメイルを送ってもらったんです。
『吾、誤婦期輪?』
うん。お孫さん、大学生。学生結婚して子供生まれるから出産費用稼ぐんだーって暴れているのがアレです。
アレとは会話が成立します。
自分らとほぼ同期ですし。年齢は大分先輩でしたけど。当時の旦那さんがギャンブル狂いで失踪して、借金返済と子供の進学費用のためにダンジョンに自ら潜った人でね。
いいですか、アレと本物は違うんです。
油断して若い振りして駆け出し探索者とワンナイトするような噂もありますがね。返済途中で悪いホストに捕まって随分貢いだって噂もあるし。間違ってもあんなフリル付きの真っ赤なビキニメイルを……おえっ。
「やあ肉屋、遺言はそれでいいのね?」
あ、やべ。
逃げますよ皆さん。アレにはコレダーとか通用しないので全速力で。あと明後日まで姐さんの獲物解体は五割引きで引き受けますんで。
「よし許す」
『武業!』
「あら可愛い」
ひ、ヒコ様あああ!
なんで強そうな相手だからってウキウキと斬りかかるんですかあ! ああもう振り向いたら既に襲って返り討ちに遭ってるし! リスポーンできるからってこの幕末脳! 鹿君はそのまま逃げるように!
「し、しかあ」
ああっ、コレダー発生器の片方が切り落とされてっ!
「いやね。孫の旦那が探索者やるって話だから丁度いい素材探してたのよお☆」
「しかああああ」
逃げてえ、逃げてエゾオオツノシカ君っ!
ああもうっ!
◇◇◇
ボロクズのようになりながら帰還しました。
鹿君、角を両方失いました。
回復魔法で生えるけど、まだ短いです。コレダー出ません。なんか自分が虐めたみたいな風に思われてて職員さんの視線が厳しいですが、真相を話したら支部壊滅不可避なので語れません。
おや学生諸君。
薬草採取ありがとうございます。
……
……
うん。このポーションはサービスだから飲んで欲しい。飲んだね?
今から露出高めのビキニ鎧姿の探索者が来るけど、声を立ててはいけません。どれだけ驚いても、沈黙を。そうすれば君たちは生き残れます。いいね? それだけが自分が君たちに出来る精一杯です。
「やっほー肉屋、思わずドラゴン狩ってきちゃったからよろしくねえ☆」
はい、そこのヒコ様とホブ三。いくさ人の貌にならない。解体テントでの合戦は御法度です。
+登場人物紹介+
●地元学生探索者
地元高校に通いながらダンジョンで採取活動をする。小遣い稼ぎとしては上々だが修学旅行生にカツアゲされたりしていた。主人公のことを解体テントの職人と思っている。
●主人公
仕事のストレスをダンジョン探索で解消するワーカホリック。手数料的にダンジョンに潜ると懐が温かくなるしエゾオオツノシカ君の餌代も稼げる。昔の交友関係が少しずつ出てきた。
●エゾオオツノシカ君
野生動物としては北海道最強。でもそれは野生動物としての話ッ!
しばらく赤いものを見ると逃げ出したくなった。
●ヒコ様とホブ三様
充実している。
●赤いビキニメイルの美少女
主人公の同期だが年齢は大分離れている。露出高めでフリル付きの真っ赤なビキニメイルに大型両手剣を装備して戦う。本作屈指の探索者。迷宮の奥でドラゴンを狩れてしまう。しかも単独で。名誉より金、そしてイケメンが好き。女の子はいつまでたっても恋をするイキモノな☆の★




