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冒険者になるのは大変でした(前編)

「お姉さん、薬草を採取してきました」

「お疲れ様。ここに出して」


 私はインベントリから採取してきた薬草を出すとお姉さんは「ひー、ふー、みー」と薬草を数えた。


「問題ないわ。これが報酬よ」


 10円玉のような小銭が五枚。50円かな?

 それでも初めての仕事の報酬だ。

 大事にしよう。


「さて、次の試験よ」


 試験って一つだけじゃなかったんだ。


「これから、試験官と戦ってもらうわ。それであなたがどのくらい戦えるか見せてもらうの」

「勝ったら合格ですか?」

「ふふっ、そうね。勝てば問題なく合格よ」


 いつも眠そうにしているお姉さんが笑った。

 私はお姉さんに案内されて裏にある別の建物に向かった。

 建物の中は体育館のような部屋だった。

 木造家屋で柱もなく鉄筋の支えもないのにこんな広い部屋の建物を作れるって凄いなと感心していると、奥から一人の男の人がやってきた。

 年齢は私のお父さんより一回りくらい年上の人だと思うけど、筋肉粒々で全然おじいちゃんっぽくない。

 持っている木刀も、大きすぎてまるで形を整えた丸太みたいだ。

 この人と戦うのか。


「この人はクレハスさん。冒険者ギルドの教官を務めてるわ。あと、この会場は模擬戦闘用のセフティーゾーンになっていてHPがゼロになっても死ぬことはないから安心して」

「なんだ、テルミナ。今回は一人だけか?」


 お姉さんが私を紹介してくれると教官のクレハスさんが私を見て露骨にやる気をなくしている。


「さっきは同時に十人以上を相手にしたから少しは楽しめたんだがな」


 あ、他のプレイヤーさんだ。

 やっぱりみんなもう冒険者試験を受けたんだ。

 私が一番最後だったりして。


「まぁ、規則だからやるとするか。嬢ちゃんの武器は双剣だな。早速構えろ」

「はい」


 小さく息を吸い双剣を構える。


「ほう、構えは中々いいな。じゃあ、かかってこい。安心しろ、俺からは攻撃はしねぇ」

「いきます!」


 私は接近するとクレハスさんに一撃を入れようとした途端、身体が勝手に動き、綺麗な型でクレハスさんに攻撃をした。

 クレハスさんはそれをいとも簡単に避ける。

 この人、大きな体なのにフットワークがとても軽い。


「いいぞ。攻撃モーションを取ると、自動的に最適な型で攻撃が行われる。これがオートモードの補助動作。設定からマニュアルモードに変更すれば補助動作は全てなくなるから気を付けろ。もっと攻撃を続けろ!」

「はい」


 私は攻撃を続けたけれど、全然当たらない。


「そこまで! 次は双剣をこのように構えて動きを止めろ」

「こうですか?」

「そうだ。三秒したら剣が青く輝く。そうしたら攻撃をしてみろ」

「はい!」


 私が攻撃をすると、クレハスさんは大げさに避けてみせた。

 すると、私の剣先から何かビームのようなものが出て壁に激突した。

 なにこれ?


「いまのが双剣のチャージ攻撃だ。間合いの狭い双剣使いにとって唯一ともいえる遠距離攻撃手段だ。覚えておけ」

「わかりました」


 これは確かに便利だと思う。

 

「よし、覚えたな。次は防御のやり方を教える」


 とクレハスさんはオートモードでのガードのやり方や回避のやり方、さらには回避した後にできるカウンター攻撃のやり方を教えてくれた。

 これがゲームの戦い方なのかと感心する一方、覚えることがいっぱいで頭がいっぱいになりそうになる。


「よし、一通り戦えるな。では、最後に模擬戦を行うぞ。俺を倒してみせろ」


 そう言ってクレハスさんは置いていた木の剣を手に取る。

 私は二本の剣を構える。


「来い!」


 クレハスさんが低い声で言った瞬間、私は前に出た。

 あの大きな剣相手に間合いの狭い双剣であの大きな剣と戦うなら長期戦は不利。

 間合いを詰め、一気に叩く。

 と攻撃をしようとした瞬間、身体が勝手に動いた。

 鋭い斬撃の相手に、クレハスさんは剣を叩きこむ。


 お、重い。


 でも、剣を落とすほどではない。


 本来なら体格差、力の差で剣を落としていてもおかしくないが、鈍い音が鼓膜どころか骨に響くだけで剣を落とすことはなかった。

 これもゲームの力なのかと不思議に思う暇はない。

 次の一手をと思ったが腕が痺れたのか、動かない。

 クレハスさんはその隙を見逃さなかった。

 上段に構えた剣が私に振り下ろされた。


 私はさっき教えてもらった動作で躱し、背後に回り込み剣を振る。

 だがクレハスさんはこちらを見ずに大剣を振るった。

 私はその風圧に押し戻される。


 いくら剣が大きくて私の身体が軽いといっても現実ではありえない力だ。

 クレハスさんは頬を指で撫でる。

 小さな傷ができていた。


「俺に一撃を入れたか。期待の新人ってところだな」


 クレハスさんは笑ってるけど、緑のゲージはほとんど減っていない。

 でも、いまの感じで繰り返していけば――


「ここからは本気で行くぞ。少し痛いと思うが覚悟しろ!」


 クレハスさんの気迫が増した。

 いままで手加減してくれていたの?

 ダメだ。

 たぶんこのままでは私は負けてしまう。


「こちらから行くぞ!」


 クレハスさんの剣が私の眼前に迫っていた。

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