釣りダンジョンに行きました(その5)
蛇を倒し終わって私たちはようやく釣りを開始――
「できないわよ?」
できなかった。
せっかく魔物を退治したのに。
「なんでだ? 魔物退治も終わっただろ?」
「これだけ川辺で暴れて魚が逃げていないわけないでしょ? 岩の陰に隠れて出てこないわよ」
周囲を見回す。
ブラックスネークが暴れたから川が濁ってる。
ミミーさんの言う通り、こんな場所でまともに釣りができる気がしない。
「それなら川上に向かおう。釣りについてはミミーの方が詳しい」
「そうね。少し歩けば魚もいるはずよ」
「わかりました」
と三人で川上に向かおうとするが、ガンテツさんが立ち止まって言う。
「俺は索敵に行く。フィールド型のダンジョンはボスを探すのが面倒だからな。マッピングを持っている俺がボスを探すのが最適だろう。ボスを見つけたら合流する」
「いいの? せっかく釣りダンジョンに来たのに」
「ああ。俺は釣りより身体を動かす方が性に合ってるからな。役割分担も立派なチームワークだ」
ガンテツさんはそう言って手を振って森の中に分け入っていく。
去り際、私の方をちらっと見た気がした。
本当に私のファンなのかな。
剣道でテレビに出たときは少しだけそういう人がいたけれど、最近はほとんど見なくなった。
少し嬉しいけど、でも恥ずかしい。
「ねぇ、ことねちゃん。さっきあいつと何を話してたの?」
「え? えぇと……」
別に隠すことじゃないと思っているけれど、ガンテツさんが秘密にしてくれるって言った手前、ここで話すのも変な気がする。
もしかしたら、ガンテツさんは私のためだけじゃなく、自分が私みたいな女の子のファンだってことを隠しておきたいのかもしれないし。
というかその可能性は高いと思う。
だったら――
「お、美味しいパンケーキのお店があるか話してたんです!」
「パンケーキ? あいつそんなのが好きなんだ。意外ね」
よし、なんとか誤魔化せたかな。
「ミミーさんってガンテツさんと仲がいいんですか?」
「仲がいいっていうか、一緒にパーティを組んだことがあるのよ。ギルドのパーティ募集掲示板でね」
「パーティ募集掲示板?」
「一緒にダンジョンを行く人を募集したり、ボスに挑んだりするときに使うの。ガンテツとリーフとは釣り竿の糸の素材を採取する手伝いをしてもらったときに知り合ったのよ。強靭な蜘蛛の糸が欲しくてね」
その言葉にビクッとなる。
ていうことは、ミミーさんの釣り竿って蜘蛛の糸?
……大丈夫、蜘蛛の糸は無害、蜘蛛じゃない。怖くない、怖くない、怖くない。
「コトネちゃん、大丈夫?」
「大丈夫ですっ!!!!!」
「ならいいけど。一緒に冒険をする繋がりっていいわよ。コトネちゃんともこうして知り合いになれたし、あとで連絡先交換しましょうね」
「はい!」
きっとガンテツさんも連絡先を交換してくれる。
いいなぁ、こういう友だちの輪が広がるのって。
考えてみれば、テストプレイヤーって二十五人しかいないんだし、全員と仲良くできるかもしれない。
学校の1クラスの人数くらいしかいないんだもん。
「ただ、パーティ募集掲示板には気を付けてね。変なプレイヤーもいるから」
「変なプレイヤー?」
「ええ。ストーカーだったり、女の子とおしゃべりすることだけが目的の奴だったり……それらはまだマシなんだけど、PK――プレイヤーを殺すことが目的の奴だっているから」
「え!? なんでそんなことをするんですか!?」
「他人が嫌がることをするのが好きな奴もいるのよ。卑猥な言葉を使ったり誹謗中傷したりするのは規約違反だから流石にしないけど、プレイヤーを殺すことは規約違反じゃないから。もちろんゲーム的なペナルティはあるにはあるんだけどね」
卑猥な言葉や悪口を言うのはダメで殺すのは問題ないって、凄い世界だ。
パーティ募集掲示板……やっぱり怖いかも。
ちなみに、他プレイヤーや中立NPCを殺した人はゲーム内では賞金首扱いになって、名前が赤色に変わるらしい。
そして賞金首になると一部施設が使えなかったりとデメリットもあるみたい。
そうまでして他のプレイヤーを殺す価値があるのかは私にはわからない。
ミミーさんも言わなかった。
「湖が見えてきたぞ」
リーフさんが言った。
湖というよりは池のような大きさだ。
透き通る水面に小魚が舞い泳ぎ、睡蓮が静かに揺れる幻想の湖だった。
「綺麗。モネの絵みたいだな」
「モネの絵?」
「フランスの画家、クロード・モネの代表的な絵、『睡蓮』のことだ」
「そういえば、SNSでも『モネの池』って写真を見たことがあったわね。確か岐阜県だったかしら?」
「ああ。睡蓮に似たその池は元々は名前のない池だったが、いまでは有名な観光地になっているそうだ。」
観光地っ!?
やっぱりダンジョンって観光地があるんだ。
思い出になるなぁ。
「スマホがあったら写真を撮れるのに」
「あら? ことねちゃん。写真が撮りたいならスクリーンショット機能があるわよ」
「え?」
「全VRゲーム共通の方法なんだけど――」
とミミーさんがスクリーンショットを使って写真を撮る方法を教えてくれた。
写真のデータは保存され、いつでも見ることができるだけでなく、メッセージに添付して仲間に送ることもできるらしい。
あくまでゲームプレイ中で、一ヶ月のプレイが終わったらデータも消されるかもしれないけれど、スタッフさんにお願いすればゲームの発売後に写真のデータくらいは送ってもらえるかもしれないとミミーさんが言った。
私は教えてもらった方法で、この綺麗な湖を撮影した。
しかも、これってカメラと違って、離れた場所から自分も撮影できるんだ。
自撮りも簡単だね。
だったら――
「三人で写真……じゃなくて、スクリーンショットを撮りませんか?」
「いいな」
「ええ、撮りましょう」
こうして私たちは思い出の一枚を手に入れた。
釣りはまだ始まらない。
~この作品と関係のないお知らせ~
アニメ『勘違いの工房主』の二期が決定しました!




