釣りダンジョンに行きました(その2)
「これがダンジョン?」
私はてっきり、ダンジョンというから洞窟や遺跡のような通路の中で、地底湖とか洞窟の中に流れ込む海とかそういう場所で釣りをすると思っていた。
でも、扉の先は洞窟でも遺跡でもなく森の中だった。
「そういう反応になるよね。ダンジョンのイメージと全然違うし。でも、三割くらいはこういうフィールド型のダンジョンだよ」
ミミーさんが笑いながら言う。
こういう屋外にしか見えないダンジョンをフィールド型というらしい。
「水辺はこっちのようだな」
ガンテツさんが森の中をかき分けて進む。
なんでわかるんだろ?
ダンジョンって入る旅に地形が変わるんだよね?
「マッピングのスキルか?」
「ああ。使い勝手がいいぞ」
リーフさんが尋ねガンテツさんが肯定する。
どうやらマッピングというスキルのお陰で水辺がわかるらしい。
「ガンテツさん。マッピングってどんなスキルなんですか?」
「単純に、地図の開拓範囲が広がるだけのスキルだ。熟練度が上がれば魔物やNPC、プレイヤーの位置もわかるらしい」
「ガンテツさん地図を持ってるんですね。あれ? でも、ダンジョンって入るたびに地形が変わるから地図なんて売ってませんよね?」
「「「――えっ!?」」」
三人が声を上げた。
まるで珍獣を見るような目でこちらを見ている。
「私、変な事言いました?」
「いや、すまない。コトネがゲーム初心者なのを忘れていた。ステータス画面を開くときのように、地図を見たいと念じれば地図が表示されるぞ」
「え? ……あっ! 本当に地図が出ました。あれ? でもほとんど真っ白で何もわかりませんよ」
地図というより白紙のノートに近い。
これだと何もわからないよ。
「地図は行ったことのある場所しか表示されないのよ」
「ダンジョンの複雑な迷路のような場所では便利だから覚えておくといい」
「そっか……ダンジョンで我を失って暴走して気付いたら知らない場所にいた――なんて時には便利ですね」
「「いや、そんな時はない」」
ミミーさんとガンテツさんに同時に言われた。
あれ? 私って現実でもよくあるんだけどな。
「まぁ、魔物から逃げているうちに知らない場所に迷い込んだ――みたいなことならあるかもな」
「そう、それです!」
リーフさんがフォローしてくれたので私もそれに乗っかる。
魔物か蜘蛛かの違いだけで同じことだよね。
「とにかく行くとしよう。道はあるので迷うことはなさそうだ」
「獣道だけどね」
道というには何もない地面の上を私たち四人が歩く。
街の近くの森よりも木々が生い茂っている。
地図と道がなければ直ぐに迷いそうだ。
それに森の奥から動物の鳴き声のような声が聞こえる。
街の近くの薬草採取をした森が白雪姫の七人の小人が住んでいるような森だとしたら、この森はどちらかというと魔女が住んでいそうな森だ。ヘンゼルとグレーテルが迷って出られなくなるような。
お菓子の家とかあったらいいんだけど、魔女には出くわしたくない。
「そういえば、リーフはなんでこのダンジョンに参加してくれたの?」
「誘ったのはミミーだろ?」
「いや、でもリーフってトップ攻略者でしょ? 既にレベルも40だし、シロップワールドで最速クリアしたファーストラビットの称号持ちなんだから、ベータテストとはいえこういう寄り道はしないと思ったんだよね」
「別にシロップワールドで最速クリアをしたのは、栄誉や称号が欲しいからではなくクリア後のフリーモードであの世界を堪能したかったからだ。それに、このゲームは案外、こういう寄り道をしたほうが強くなれる気がするぞ」
「俺も同意だ。このゲームのレベルアップによる強化には限度がある。どちらかというと操作技術と装備の強化、そして称号の獲得が鍵になってくるだろうな」
「そうだな。特に称号が重要だろう」
三人の話についていけない。
リーフさんって、実は凄い人だったのかな? ってことくらいはわかったけれど。
でも、称号?
「称号ってそんなに大事なんですか? 貰えると言っても、経験値が1%アップとか与えるダメージが1%アップとかですよね?」
「その1%が大事なんだ。例えば、特定の相手に与えるダメージが1%増える称号を100個持っていたとしたら、何倍のダメージを与えられると思う?」
「100%増えるから……2倍です」
「いいや、2.7倍だ」
「え?」
どういうひっかけ問題?
「コトネちゃんの言ってる100%っていうのは1%+1%+1%+……って100回して合計100%になるって感じよね?」
「そうじゃないんですか?」
「このゲームの称号による効果は1.01の100乗、つまり1.01×1.01×1.01×……って100回掛け合わせた分だけ増えているのよ。それでもたった0.7倍の差だけど、称号の中には2%アップや5%アップのものもあるから、組み合わせていけばかなりの強化になるの」
「でも、称号ってそんなに数があるんですか?」
「ある。現在情報屋が掴んでいるだけでも123種類。おそらく、その数十倍、下手すればそれ以上の称号があるだろうな」
知らなかった。
でも、適当にしているだけの私も既に9種類の称号を持っているんだし、意図的に称号を手に入れようと思えばもっと集まるのかも。
「じゃあ、リーフさんが参加するのって称号目当て」
「まぁな。こういう普段行かないようなダンジョンに参加してこそ得られる称号があるのかもしれないって思っている。それに――」
「それに?」
「仲間たちと釣りをして手に入れた魚をその場で焼いて食べるのは、なんとも冒険者らしくていいではないか」
そのリーフさんの屈託のない笑顔に、私も頷いた。
美味しい魚が釣れるといいな。
と思っていたら、綺麗な小川が見えてきた。
よし、頑張って釣るぞ。
でもその前に、小川を占拠する蛇の群れをなんとかしないといけない。
釣りの前に魔物狩りの時間だよ。




