初めてのゲームはわからないことだらけでした
「右手の小石が――左手から出てきました」
私は誰に見せるでもなく手品の練習をしていた。
インベントリという収納スペースからアイテムを出し入れする方法を塔の上にいたお爺さんに教えてもらったので、その辺の小石を拾って入れたり出したりしていた。
「私、プロのマジシャンになれるかも――右手に石を一個握りまして……なんと手を開いたら石が三個出てきました!」
インベントリから石を取り出す。
ゲームって初めてしたけど面白い。
遊んでいる間に、お爺さんに教えてもらった冒険者ギルドという建物にやってきた。
ここで仕事を斡旋してもらえるんだっけ?
中はホテルのフロントみたいな感じかな?
背の高いテーブルはいくつかあるけれど、椅子はない。
中には何人かの人がいるけど、私と同じプレイヤーっぽい人はいないな。
もうみんな帰っちゃったのかな?
「はじめまして! 仕事を探しに来ました!」
元気よく挨拶すると、カウンターの向こうで何か書類を書いていた女性は眠たげな顔を上げて私を見た。
「はじめて?」
「はい!」
「だったら、登録試験を受けてもらう必要があるから。そうね、あなたには――」
彼女はカウンターから出てきて、壁の掲示板に貼られている紙を二枚はがして手続きをしてから渡してくれた。
紙には【ウッドポルの森の薬草採取】と書いてあるけど、ウッドポルの森がどこにあるかはわからない。
「この建物を出て右にずっと真っすぐ行くと、南門に出られるよ。そこの門番に依頼書を見せたらどこに行ったらいいか教えてくれる。収穫した薬草はここに持ってきてね。もう一度説明を聞く?」
「はい、念のためにもう一度お願いします」
「この建物を出て右にずーっと真っすぐ行くと、南門に出られるよ。そこの門番に依頼書を見せたらどこに行ったらいいか教えてくれる。収穫した薬草はここに持ってきてね。もう一度説明を聞く?」
お姉さんが一言一句さっきと同じ説明をしてくれた。
えっと、右に真っすぐ行って、門番さんに話したらいいんだっけ。
よし、覚えた。
「大丈夫です。覚えました」
「そう。じゃあ頑張ってね。あと、街の外は魔物が出るから注意してね」
「え!?」
魔物?
もしかして、狂暴な熊とか猪とかが出るのかな?
「街の近くはそれほど危ない魔物も出ないから安心して」
お姉さんはカウンターの向こうに戻ってそう言うと、書類仕事の続きを始めた。
つまり街から離れたら危ないってことか。
気を付けないと。
私は南門に向かった。
「この人形かわいい!」
途中、可愛い木彫りの人形が売っている店に立ち寄ること三十分。
「あのお肉美味しそう!」
途中、露店で売っている肉を眺めること五分。
「よしよし、いい子だねぇ」
途中、かわいい子犬とじゃれること三十分。
「よし、いっくよー!」
広場で子どもとボール遊びをすること一時間。
等々があって。
私は何事もなく南門に辿り着いた。
「いや、時間かかりすぎだろ! 何してたんだよ」
門番さんに怒られた。
依頼書に依頼を受けた時間が書かれていたらしい。
今何時くらいなんだろう?
「急がないと夜になるから早く済ませろよ。目当ての薬草はそこの獣道を真っすぐ進んだ先の開けた場所だ。青い花の草を手でちぎって持ってこい。根っこを残しておけばまた生えてくるから多少多めに取っても問題ないぞ」
「わかりました、ありがとうございます」
私はお礼を言って森の中を進んだ。
魔物が出るって言ってたけど、それほど危険な感じはしなかった。
小さな鳥の声とかが聞こえてきて、平和そのものという感じだ。
受付のお姉さんもそれほど危険はないって言ってたし、大丈夫かな。
でも、ちょっと怖いから歌いながら歩こう。
私はジ〇リ映画のオープニングの歩くのが楽しくなる歌詞を口ずさみながら、森の奥に向かった。
歩いた時間は五分にも満たないと思う。
開けた場所に出て、そこに色とりどりの草花が生えていた。
確か、薬草は青い花って言ってたよね。
青い花を見つけてじっと見つめると、
【薬草】
と文字が浮かび上がった。
え? 凄い。
植物の名前がわかるアプリみたい。
他の植物を同じように見ても、何も表示されない。
薬草だけ表示されるのか。
茎のところを摘んで捻ってみると、簡単に摘むことができた。
根っこを残しておけばまた生えてくるって言ってたし、これでいいんだよね?
手に入れた薬草はインベントリの中にいれる。
じゃあ、頼まれていた分だけ採取しちゃおう。
「これでよし!」
頼まれていた分だけ採取を終えたから帰ろうかと思ったそのときだった。
何かが木の陰から飛び出してきた。
「かわいい!」
小型犬くらいの大きさのハムスターだった。
ひまわりの種を持っていたら美味しく食べそうだ。
【ワイルドハムスター】
さっきの薬草と同じように名前が表示された。
やっぱりハムスターなんだ。
名前の上に、なんか緑の棒みたいなのが見えるけどなんだろ?
まぁ、かわいいからいいや。
「おいでおいで。こわくないよ――そうだ、これ食べる?」
私はその辺の雑草を抜いてワイルドハムスターに差し出した。
すると、ワイルドハムスターはこちらにむかってトットコ走ってきて、私に体当たりをした。
「いたっ……くない。うわぁ、もこもこしてる」
ワイルドハムスターは私の腕をカジカジ噛むけれど、全然痛くない。
甘噛みしてるのかな?
「よしよし、いい子だね……あれ?」
なんか視界の上に、さっきとは別の緑の棒が表示されて、その緑がだんだんと減っていって赤いゲージが伸びてきた。
なんだろこれ?
だんだんと緑が減ってきて、そして緑がなくなったときだった。
「あれ?」
視界がぼやけて、気付けば真っ暗になった。
【ことねは死んでしまいました。復活ポイントに転送されます】
え? 私死んだの?
そう呟き、気付けば私は建物の中にいた。
ステンドグラスの天使の絵がとてもきれいだ。
もしかして、ここって天国?
「さっきから動かないが大丈夫か?」
声を掛けられた。
金属の鎧を纏った騎士様だ。
でもあれ? この顔どこかで見たような。
「あ! 同じテストプレイヤーの」
「リーフだ。そちらはことねでいいのか?」
「え? なんで私の名前を知ってるんですか?」
「頭の上に文字が浮かんでいるだろ?」
え?
彼女の頭の上を見ると、【プレイヤー:リーフ】が緑の棒と一緒に表示された。
さっきのワイルドハムスターと一緒だ。
「あの、ここって天国ですか?」
「いいや、レクシアの教会だ。復活ポイントは更新しない限りこの街の教会に設定されているからな」
「復活ポイント?」
さっきも言ってたけど、それってなに?
「ことねは初心者なんだな。ということはガードウルフにでもやられたのか?」
「えっと、薬草採取中にワイルドハムスターと遊んでいたら死んじゃったみたいで」
「薬草採取にワイルドハムスター? 最初の魔物にやられたのか。まだギルド登録も済ませていないのか……もう五時間経過しているぞ?」
「えっと、街を見て回っていたらこんな時間になっちゃいました」
私が恥ずかしそうにそう言うと、リーフさんは苦笑した。
「まぁ、楽しみ方は人それぞれだからな。ことね、私の名前の下に緑の棒が見えるだろ? これはHPバーといってプレイヤーの生命力を表している。敵の攻撃を受けると赤く染まり、全て赤になったら死んでしまう。ことねはワイルドハムスターの攻撃でダメージを受けて死んでしまったのだろう。かわいくても魔物だからな」
「ワイルドハムスターも魔物だったんですか。それに噛まれたのも甘噛みだと思ってました」
「甘噛みか。まぁ、ワイルドハムスターは攻撃モーションもかわいいからそう勘違いするのも無理はない。この後、冒険者ギルドに薬草を納品したら、戦い方やステータスの割り振りのチュートリアルを受けることができる。そうだな、ことね。せっかくだしフレンド登録しないか? 今度一緒にパーティを組んで戦おう」
「一緒に戦うのは嬉しいですけど、フレンド登録ってなんですか?」
「登録しておけばメッセージを送ったりできる機能だ。待ち合わせに便利だぞ」
私はリーフさんにフレンド登録のやり方とメッセージの送り方を教えてもらって、フレンド登録をした。
そしてお礼を言って別れたんだけど、すぐに引き返した。
「リーフさん! 冒険者ギルドってどっちですかっ!?」
リーフさんに、地図の出し方を教えてもらった。




