スキル屋に行きました
金の宝箱を開け終えて窓から外を見たらもう日が沈みかけていた。
Immersiaの二日目の夜が来る。
今日はいろいろ楽しかった。
現実世界ではまだ3分くらいしか経過していないなんて言われてもまだ信用できない。
それはそうと、晩御飯だ!
昨日とは別のレストランに行く。
「これ、全部オーストリアの料理か」
聞いたこともない名前だけのメニュー。
肉料理のメインディッシュってことはわかるけれど、頼んでみないとわからない。
店員さんに聞けば教えてくれると思う。
でも、敢えて詳しく聞かずに頼んでみようかな?
そうしたら料理が運ばれてくるまでドキドキできる。
まるで、さっき宝箱を開けるときのような感覚。
最初に運ばれてきたハーブエキスの入ったレモネードみたいなジュースを飲みながら周囲を見る。
やっぱり肉料理を食べる人が多い。
あとはパン。
黒パンと白パンが半分半分かな?
ただ、みんなワインかビールを飲んでいる。
「姉ちゃん、エールもう一杯!」
おじさんがビールのおかわりを注文する。
この世界だとビールをエールって言うのかな? それとも何か違うのかな?
んー、わからない。
目を凝らして見ても、
【エール:麦から作ったお酒。SP10回復。状態異常:酩酊付与】
と簡単な説明と効果しか表示されない。
こういう時、スミスの持つ鑑定スキルがあったら便利なんだろうな。
きっと、鑑定スキルがあったら、
【エール:麦から作ったお酒。その起源はなんちゃら歴の皇帝うんたら王が発見した木の実をなんたらかんたらして偶然発見したなんやかんやをあれこれしてできたお酒。今では一般大衆も楽しむようになった。ビールとの違うはあれやこれや――】
って表示されるに違いない。
これから運ばれてくる料理も詳しくわかる。
「お待たせしました」
目の前に料理が運ばれてきた。
【シュニッツェル:肉を叩いて薄くし、パン粉を付けて揚げた料理。HP50回復】
美味しそうな料理だ。
とっても美味しそうなんだけど、
鑑定スキルがなくてもわかるよ。
これ、トンカツだよね?
私はナイフとフォークで切り分けて、レモン汁を絞って口に運んだ。
そして己の間違いに気づく。
トンカツではなく、牛カツだった。
どちらにしても――
「レモン汁とパンじゃなくて、ソースとご飯が欲しいよぉ。あと、できればお味噌汁も」
世界の料理に舌鼓を打つはずだった私だけど、牛カツっぽい料理に少しだけホームシックになる私だった。
ゲーム開始三日目の朝。
私はスミスに教えてもらったスキル屋に行った。
まだ朝の九時くらいだったので開いているか心配だったけれど、。店の扉は開いていて『OPEN』の札が掛かっていた。
店にはガラスのケースがあって、中にはスキルオーブが飾られている。
二百個くらいあるけれど、商品の説明はなく、値段だけ書いている。
【スキルオーブ(上級回復魔法):上級回復魔法が使えるようになる】
魔法かぁ。
値段は……高っ!?
いま持っているお金じゃ逆立ちしても買えないよ。
この世界だと一生働かずに過ごせる額だと思う。
お世辞にもセキュリティが優れているように見えないのに、置いてていいのかな?
悪い人が来たらガラスを割って中のスキルオーブを全部盗んでいきそうだ。
ガラスが割れなくても、店員さんを脅して鍵を開けさせるとか。
うん、簡単に盗めそうだよね。
「何かお探しかね!?」
「盗むつもりはありません!」
突然声を掛けられて、変な事を言ってしまった。
店のお爺さんが不思議そうな顔でこっちを見ている。
「ごめんなさい、友だちにこのお店のことを教えてもらって。私に使えそうなスキルを探しているんです」
「そうかいそうかい。いっぱいあるからね――予算と欲しいスキルを教えてくれたら見繕ってあげるよ」
予算……考えてなかった。
一ヶ月は食事と寝る場所に困らないだけのお金を残しておくとなると――ううん、回復魔法のスキルがあんなに高かったんだもん。
その値段だと冷やかしにきたと思われそう。
私は所持金の半分の値段を言った。
「それで――欲しいスキルですけど。どんなものがいいかいまいちわからなくて」
「そうかいそうかい。まぁ、その予算だとスキルの数も少ないから全部見ておいき」
お爺さんはガラスケースの鍵を開けて、四つのスキルオーブを置いた。
【スキルオーブ(穴掘り):穴を掘ることができる】
【スキルオーブ(狸寝入り):死んだふりができる】
【スキルオーブ(投石):石を投げることができる】
【スキルオーブ(噛みつき):噛みつく攻撃ができる】
……なにこれ?
変なスキルばかりだ。
石を投げたり噛みついたり死んだふりしたり、スキルがなくてもできるんじゃない?
「あの、ちなみに鑑定のスキルオーブっていくらします?」
「鑑定かい? それなら――」
予算の五倍だった。
スミス、よくこんなに高いの買えたなぁ。
「……あ、これ欲しい」
視線を落とした先に、私が欲しいスキルがあった。
「あぁ、これは人気だからね。でも、今聞いた予算だとだいぶ足りないよ」
「あの、お爺さん、取り置きって出来ますか!?」
「在庫は十分あるから売り切れることはないよ。お金が貯まったらおいで」
「はい!」
お金を稼ぐには…………冒険者ギルド!
私は即座に行動に出た。
頑張ると決めたときの私の行動力は凄いよ。
友だちからも「ことねは反射神経で生きているね」って褒められるくらいだもん。
「テルミナさん、楽してお金の稼げる仕事をください!」
「うわぁ、ことねさんが同僚のダメ彼氏と同じことを言ってる」
テルミナさんが悲しそうな目で言う。
カウンターの奥から、「トニーはダメ彼氏じゃありません! 大きな夢を目指して頑張ってるだけです!」と別の女性の声が聞こえてきた。
「急にどうしたの? ことねさん、昨日まではお金にあまり興味がなさそうだったのに」
「欲しいスキルオーブがあって、それを買うためにお金を稼ぎたいんです」
「なるほど、そういうこと。大金を稼ぐには『冒険者ランクを上げて高難度の依頼を受ける』『賞金首モンスターを倒す』『盗賊を捕まえる』『ダンジョンで財宝を手に入れる』『広場で行われる大会で上位の成績を収める』等いろいろあるわね。特別にお勧めの賞金首モンスターの情報をプレゼントするわ」
「賞金首モンスターってなんですか?」
「倒したらお金がもらえる魔物よ。ことねさんにお勧めよ! 面倒で誰もうけてくれな……じゃなくて、大型ルーキーのことねさんにしか頼めないのよ」
私しかできない仕事かぁ。
そう言われると照れるなぁ。
よし、期待に応えて頑張るよ!




