鍛冶師と友だちになりました
ダンジョンから出た私は、ギルドで魔物の素材を売却し、おやつを買いに行くことにした。
アップルパイみたいなクレープ。
名前は……アップリストルールー?
そんな名前のお菓子だ。
そうだ、テルミナさんへも差し入れに買っていこうかな?
クレハスさんにも……甘い物を食べるかな?
食べ終わったら武器とか防具を買いに行こう。
リーフさんも初心者ダンジョンより先に進むとなると、強い武器や防具が必要になってくるって言ってたし。
あ、でもこの街にずっといるならそこまで強い武器はいらないかな?
洋菓子店への近道で公園の中を通り過ぎていくと、ベンチに座っている男の人がいた。
初心者ダンジョンに入る時に見かけた中性的な顔立ちの人だ。
顔よりも、ベンチに立てかけているツルハシを見て思い出した。
リーフさんに続いて二人目のプレイヤーさんだ。
このゲームをしているのって私を除けば二十四人しかいないから滅多に出会えない。
ここで挨拶をしておこう。
「こんにちは! えっと、スミスさん……でいいですよね?」
「やぁ、こんにちは。コトネか、いい名前だね」
「ありがとうございます。スミスさんはツルハシを武器に戦ってるんですか?」
「ん? あぁ、これは採掘用だよ。ダンジョンの中で目当ての鉱石があってね。それを掘るために使ってたんだ。僕の武器はこっちだね」
そう言ってスミスさんは大きなハンマーを取り出した。
あんなの持てるなんて、小柄な見かけによらず力持ちなんだ。
そしてスミスさんはハンマーをインベントリに入れた。
「そうだ、よかったら近くのカフェでおいしい……えっと、アップラスローリー? が食べられるお店があるんです。一緒に行きませんか?」
「アップラスローリー? よくわからないけど、ちょうど何か食べたいと思ってたんだ」
私たちは一緒にカフェに行った。
途中一緒に話して仲良くなって、スミスって呼び捨てで呼ぶようになったよ。
例のお菓子の名前は、アプフェルシュトゥルーデルだった。
「アプフェルシュトゥルーデル、ドイツやオーストリアの伝統的なお菓子らしいよ」
「え、これ現実にあるお菓子なの?」
「そうみたい。僕の鑑定スキルによるとそう説明されている。この世界の料理は街ごとに各国の料理が食べられるようで、この街はオーストリアの料理が食べられるんだって。うん、美味しい。ゲームの中だと栄養管理とか気にせず食べられるから幸せだよ」
「え? 街ごとにいろんな国の料理が食べられるの? まるで世界旅行をしているみたいってことだね!」
ということは昨日食べた料理もオーストリア料理だったんだ。
てっきりゲーム内の独自の料理だと思っていたよ。
そっか、このお菓子も現実だと食べられないって諦めていたけど、オーストリアに旅行に行けば普通に食べられるのか。
……オーストリアに行くならゲームの中で食べたほうが気軽でいいね。
「運営もきっとそういう目的で作ってるんだろうね。ゲームに興味のない人でも楽しめるようにって」
「世界の美食が簡単に」
この街で一ヶ月過ごせばいいと思っていた私が、いろんな街に行きたいと思えるようになった瞬間だった。
美食に気を取られていた私だったけれど、そういえばさっきスミスが気になることを言っていたのを思い出す。
「鑑定スキルってなんなの?」
「鑑定スキルっていうのはアイテムについて詳しく知ることができるスキルだよ。通常、僕たちがアイテムを見てわかるのは名前と簡単な説明だけ。でも鑑定スキルを使えばもっといろいろな情報がわかるようになるスキルなんだ」
「スキルってどうやって覚えるの?」
「スキル屋に行ってスキルを買うか、称号を獲得してスキルを覚えるか、宝箱を開けたりクエストを達成してスキルオーブを手に入れて使うかのどれかだね。ことねはスキルを覚えてないの?」
「うん、何も覚えてない。あ、でもまだ開けてない宝箱を三つ持ってるからその中にスキルオーブがあるかも。それでなかったらスキル屋に行ってみるよ」
「そうしたらいいよ。でも、覚えられるスキルはすぐに使えるようになるわけじゃなくて熟練度を貯める必要があるから気を付けてね。詳しくはスキル屋に行ったら説明してくれるから」
スミスはそう言って私にスキル屋の場所を教えてくれた。
よし、宿屋に戻って宝箱を開けたら行ってみよう。
「あと、宝箱の中から珍しい鉱石があったら僕に見せて。簡単な武器や防具なら作ってあげる」
「作る?」
「うん。僕のプレイスタイルは生産職だからね。鍛冶スキルをメインに鍛えてるんだ。この街の鍛冶師より高性能の武器を作る自信があるよ」
武器屋で買う以外にもそういう選択肢があったんだ。
でも、宝箱から鉱石なんて――
「遠くの街に美味しい物を食べに行くのに武器とか防具は必要だよね?」
「そうだね。ここから遠い街ほど敵は強くなっていくから」
「だったら、これで作ってもらうことってできる?」
私はインベントリから魔鉄鉱石を取り出した。
初心者ダンジョンの天井裏の宝箱から手に入れた鉱石だ。
本当はギルドで魔物素材と一緒に売ろうとしたんだけど、鉱石は買い取れないって言われた。
「魔鉄鉱石か。しかも良質の。これ、どこで手に入れたの?」
「初心者ダンジョンの天井裏の宝箱の中にあったんだ」
「天井裏――そんな隠し部屋があったんだ。気付かなかったよ。いくつ持ってる?」
「17個」
「それだけあれば十分! レベル30まで通用する武器と防具を作れるよ。じゃあ早速作ろうか」
そう言ってスミスは金床を取り出した。
え? ここで作るの?
カフェの中だよ!?




